Vol.77 市民学芸員「七夕の会」のステップアップ講座(文責:本間)
市民学芸員の皆さんで構成される「七夕の会」。
この会では、「松本の七夕」を普及するため、普段より七夕人形づくり講座等を実施しています。(七夕人形づくり講座の様子はVol.044をご覧ください。)
そんな七夕の会の皆さんが、松本の七夕をより深く理解するために、ステップアップ講座を実施しました。
この講座では、前松本市立博物館館長の木下守氏(現:あがたの森文化会館館長)に講師をしていただきました。
初めに、七夕をより深く知るために「史料から見る松本の七夕」や「他県の七夕」について学びました。
次に、ディスカッションを行いました。市民学芸員の皆さんの中には、県外出身者もいます。
県外出身者より「県外にいたときは、七夕の際にお供えをしたことが無かった。松本に来て、お供えをすることを知り驚いた。松本は色々な風習が残っている地域だと思う。」というお話がありました。意見交換をすることで、七夕についてより知識を深めることが出来たと思います。
「七夕の会」の皆さんは、現在も公民館等で七夕人形づくり講座を開催し、活躍しています。既に活躍している皆さんですが、さらに知識を深めるためにステップアップ講座を企画・開催しました。
市民学芸員の皆さんのそのような姿勢から、私も日々「主体的に学び発信することの大切さ」を学んでいます。ステップアップ講座で学びを深めた皆さんの、今後の活動にも、こうご期待ください。
Vol.76 カメラが手放せない ( R5.11.7 文責:内川 )
10月のある日、少し遅めの出勤中、博物館近くの民家前の植込みに大型のカマキリを見つけました。
カマキリの仲間は山と自然博物館のあるアルプス公園でもよく見かけますが、地面から程よい高さ、開けて平らな状態という写真の撮りやすい状態で出会うチャンスは珍しいです。
これは「あの構図」の写真を撮るしかない!
という訳で、指でつついて威嚇のポーズをパシャリ。
本州にいる大型のカマキリは2種類。オオカマキリとチョウセンカマキリですが、正確に見分けるには前脚の基部や後翅の色を確認しなければなりません。 このカマキリは付根が黄色で翅が黒なのでオオカマキリです(チョウセンカマキリは付け根がオレンジで翅は半透明)。このポーズだとその両方を確認できます。
撮影のために出かけない日でも、思いがけないところでシャッターチャンスは訪れるもの。 最近はスマートフォンのカメラ性能も向上しているとはいえ、中々カメラが手放せません。
Vol.75 松本銭鋳造ワークショップ準備中 (R5.10.24 文責:宮下)
松本市立博物館の3階常設展示室で、江戸時代に使われていた当時のお金を展示しています。「寛永通宝松本銭」という名で展示しているこの古銭は、当時全国で流通していたお金ですが、展示してある資料はちょっと変わったところがあります。製作途中のものや失敗作が見られるのです。実は、松本には銭座という寛永通宝を鋳造する場所があったため、通常では見られない失敗作などが残っています。
当館では、松本で作られたこの松本銭を石こうで鋳造するというワークショップを準備中です。元になる資料を立体的に計測して作られた原型を使って型を作り、この型に水で溶かした石こうを流し込むことで松本銭の鋳造を体験するというものです。
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展示品と同じ大きさだと壊れやすいため、製作品は一回り大きくしていますが、細かい凹凸などは忠実に再現され、展示しているものとほぼ同様の松本銭を手にすることができます。また、固まった石こうには、色を塗ることができるので展示品と同様の見た目にすることも可能です。
10月21日には、来館した地域の子どもたちや保護者の方々にこの鋳造体験にチャレンジしてもらいました。開いた型の中からキレイに固まった松本銭が現れた際の嬉しそうな参加者の顔が印象的でした。また、出来上がった松本銭への色付けでは、黄色やブロンズ色を用いて自分だけの松本銭作りが見られるなど、想像力豊かに取り組んでいる姿が見られました。
一方、型の中にしっかり石こうが入らず形にできなかった方も出るなど、課題も見られました。今後も準備を重ね、松本市立博物館ならではの体験をお楽しみいただけるよう取り組んでいきます。
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Vol.074 新博物館オープン (文責:高木 R5.10.10)
10月6日、新博物館開館記念式典~オープニングセレモニー~が行われました。会場はエントランスホール1階と、2階の図書情報室を含む吹き抜け空間です。椅子を並べた式典ではなく、参加者全員で開館の喜びを自由に楽しく分かち合うため様々な工夫が凝らされました。
約150名の招待者に松本市梓川産のリンゴジュースがふるまわれ、パーティームードの中、館内や3階常設展示室などを見学してもらいました。
記念スピーチの中でアソシエイトプロデューサーのおおうちおさむさんが、「学芸員が頑張って作り上げたものを、デザインの力で3倍にも4倍にも素敵にして提示いきたい」とおっしゃってくださったこと、本当に心強く感じました。
その後、今回のオープニングレセプションの目玉である、日本画家として世界で活躍する福井江太郎さんのライブペインティングが始まりました。外からも見えるように設えたエントランスの会場で3500㎝×2150㎝の和紙に墨と手だけで描いていきます。福井さんの身体全体が躍動し、墨をつけた指先がすばやく動くにつれ、白い紙の上に竜が現れていきます。「画竜点睛(がりょうてんせい)」、福井さんの指で竜の目が描き入れられた時、まさに、新博物館にも命が宿ったような感覚がありました。
できあがった竜の絵のタイトルは「永(えい)」、末永く博物館の守り神となるように命名してくださました。
「まつもと博覧会」開幕のテープカットも斬新です。現代アーティストの中島崇さんの作品として入口の四方に張られたテープが、臥雲市長たちの手によってカットされると、テープがぱしゅんと飛ぶように美しく開いていきました。
翌日7日のグランドオープンでは多くの人が来館して賑わい、蟻ケ崎高校書道部のパフォーマンスや、地元の方々による伝統芸能などが祝賀行事として披露されました。
今後もオープニングイベントが計画されていますので、ご期待ください。
現在開催中の特別展については次回のコラムで紹介する予定です。
Vol.073 常設展示ガイド講座(R5.10.3 文責:武井)
令和5年6月から月1、2回の頻度で実施してきた「常設展示ガイド養成講座」が、9月23日の発表会をもって終了しました。
発表会では複数のグループに分かれて、グループごとに展示室を回りそれぞれのガイドを発表していただきました。
自身の得意分野を深堀りしてオリジナルガイドを展開される方、ガイド練習に先立って複数パターンの台本を用意された方、より分かりやすいガイドのために特製の手持ち資料を使用される方、地元の方しか知らないようなニッチな情報を披露される方などなど…多くを学ばせていただくと同時に、皆さんの熱意に圧倒されてしまいました。
開館後は、講座を受講された市民の方が、不定期で常設展示のガイドとして活躍される予定です。
このガイドを通じて、松本市立博物館という場所が住む場所や世代を超えたコミュニケーションの場となることを心から期待しています。
Vol.72 心をこめて準備中 ~常設展示室~ ( R5.9.26 文責:吉澤 )
新館オープンまで残すところあと2週間を切った松本市立博物館。3階の常設展示室では、展示の最終調整が着々と進められています。
常設展示室は松本の魅力を資料とともにとことん紹介する、博物館の「顔」ともいえるエリアです。オープンに向けて展示資料やキャプション、照明を細かく調節し、クリーニングを念入りに行います。
資料やキャプションの細かな位置を調節しています。大切な資料たちを取り扱う、緊張感が漂う作業です。
展示の「資料の見せ方」も大切です。配置に違和感がないか、資料や解説が見づらくないか、複数の職員の目で何度も確認します。
たくさんの方にしっかり見てもらいたいから…。ケースの小さな汚れも丁寧に拭き取ります。
来館された方々が、貴重な資料たちに惹き込まれながら松本の魅力にも触れられる…常設展示室がそんな素敵な空間になるよう、最後の最後まで気を抜かず、作業に取り組んでまいります!
また、常設展示をご覧の際は、ぜひこの展示解説シートもお供にご巡回ください!
パネルやキャプションとは異なる切り口から、展示をさらに深掘りします。
おとなも子どもも楽しめるよう、様々なトピックを用意しました。常設展示室で皆様に読んでいただける日を心待ちにしております!
Vol.71 市民学芸員「お蚕組」のフィールドワーク( R5.9.19 文責:本間)
市民学芸員のフィールドワークについては「Vol.051」で紹介した通りですが、今回は「お蚕組」の活動を紹介します。
「お蚕組」は松本の蚕糸業について学んでいるグループです。9月3日(日)に岡谷蚕糸博物館へ伺い、学芸員の森田氏よりお話をお聞きしました。
1 カイコふれあいルーム
「カイコふれあいルーム」は、蚕が育つ様子や繭作りの観察ができる場所です。昔ながらの養蚕道具を使い、桑の葉の餌やりを楽しむこともできます。
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2 岡谷市鳥瞰図
昭和11年(1936)の岡谷市制施行の際に、観光パンフレットの原画として市の依頼で描かれたもの。作者は鳥瞰図絵師の吉田初三郎です。製糸工場の煙突や岡谷市役所などが描かれています。
3 常設展示
常設展示は主に3つのテーマで構成されています。まず、「シルクとの出会い・糸都岡谷への道」では、絹文化の起源から蚕とシルクの秘密など、シルクの魅力に様々な切り口からアプローチしています。
次に、「機械でたどる糸都岡谷ものがたり」では、明治5年(1872)創業当時の官営富岡製糸場で使われ、唯一現存しているフランス式繰糸機などが展示されています。
そして、「資料でたどる糸都岡谷ものがたり」では、厳しい蚕糸業の中で、先見の明を持って歩んできた先人達の資料などから岡谷の歴史を探っています。今回は各テーマでお話を伺いました。
4 株式会社宮坂製糸場
製糸全盛期から変わらない諏訪式繰糸機などが稼働しているところを見学しました。
5 特別展示
開催中の特別展「人生の節目と絹に寄せる思い」を見学しました。諏訪地域の家庭や製糸業に関わっていた家庭で大切に受け継がれてきた絹の衣装が中心に紹介されていました。
今回のフィールドワークでも、市民学芸員の皆さんから「非常にためになるお話を聞けて良かった」という感想がありました。
市民学芸員の皆さんが日々活動で学んでいることは、新博物館開館後、一緒に発信していく予定です。こうご期待ください。
Vol.070 展示資料の背景( R5.9.12文責:内川 )
常設展示室の「ともにある山」のコーナーには美ヶ原の鉄平石が展示されています。
溶岩が冷え固まる際に板のように割れたもの(板状節理)です。
溶岩が固まったものということは、当然その昔火山の噴火があったということです。かつて日本列島を二つに分けていたフォッサマグナで知られるように、松本市周辺はその昔海でした。そして、クジラの化石が発掘された四賀周辺の地質は海底に泥や砂が堆積してできたものですが、美ヶ原周辺の地質はそれらに加えて海底火山の噴出物が堆積したものです。
ただし、美ヶ原上部の地質や鉄平石はこの時できたものではありません。今から200万年ほど前に地上で噴火した溶岩が冷え固まったものです。
…なんて話は展示室ではいっさい解説されていません。
「ともにある山」のテーマのとおり、私たち人が、この板状の形の岩を屋根材として利用していたということが書かれています。この他にも北アルプスの山々やそこから流れ出る梓川にも壮大な大地の歴史があり、そうやって形作られた自然があるからこそ我々人の営みがあります。しかしながら、スペースやテーマなどが限られる中、そういった話を全て解説するという訳にはいかず、展示を作成する難しさを感じます。
ほかの資料についても、展示では詳しい背景が語り切れません。そういった内容については、このコラムような別媒体や展示替えで発信していければと思います。
Vol.069 特別出前コンサートin 松本市立博物館( R5.9.5文責:高木 )
現在松本では「2023セイジ・オザワ 松本フェスティバル」が開催されています。クラッシックファンが全国から訪れる楽都松本ならではの音楽の祭典です。今回、サイトウ・キネン・オーケストラの有志メンバーが、10月7日に開館を迎える新松本市立博物館に出前コンサートに来てくださいました。松本てまりモビールお披露目会以来久しぶりに多くの方が集まり、また初めて、東側正面玄関から一般のお客様をお迎えしました。
エントランスの吹き抜け空間が次々と人々で埋まっていきます。猪子奈津子さん、塚本禎さんによる「テレマン:2つのヴァイオリンのためのカノン風ソナタ」から演奏が始まると、空間全体が生き生きと動き出したように感じました。普段、人けがない時は静止しているてまりモビールもゆっくりと回旋を始めます。
川本嘉子さんによる、「J.Sバッハ:無伴奏チェロ組曲1番よりプレリュード」は本当に素晴らしく感激で胸が震えました。たった一つの楽器から奏でられているとは信じがたいほどの、大きく暖かく広がりのある音が約200人の心をたっぷりと満たしたと思います。
その後、奏者3人によるドヴォルザーク弦楽三重奏の迫力に、ぐいぐいと引き込まれ、解き放たれて演奏が終了しました。
今回のように、ジャンルを超えて博物館の空間が使われていくことが、新博物館の存在意義に確実につながっていくと感じました。