Vol.103 学芸員コラム:涅槃図の鳥たち(R7.2.11 文責:内川)

現在当館で開催中の涅槃図展。涅槃とは釈迦の入滅のことで、その死を嘆き悲しみ多くの人々はもちろん、動物たちも集まったとされています。その様子を描いた涅槃図には多くの動物たちが描かれていて、特に鳥たちはバリエーション豊かで、実在の鳥とはっきり分かるものも多いです。そんな様子が自然関係が専門の私から見ても面白いので、いくつか紹介します。

オシドリ 
オシドリ

今回最も古い涅槃図のオシドリ

オシドリはほとんどの涅槃図に描かれています。オスの美しい姿と夫婦一対のイメージから涅槃図に限らず様々な絵画などのモチーフにされています。涅槃図の生き物はつがいで描かれているものも多く、オシドリはまさにうってつけの鳥でしょう。

高松寺の涅槃図には白いオシドリが描かれています。色は違えど特徴的なイチョウの形をした羽(三列風切)が見て取れます。

オシドリ白

白いオシドリ

ガン類
ハクガン

ハクガン(手前)とマガン(奥)

カモの仲間で、カモよりも大型、ハクチョウよりも小型の水鳥です。現在の松本付近ではマガンやヒシクイが時折渡来する程度であまり見られませんが、かつては日本各地で普通に見られ、食用にされるなど身近な鳥でした。そのためか、多くの涅槃図にガンといえる鳥が描かれています。

中にはハクガン(全身白で翼の先が黒)やシジュウカラガン(頭から頸が黒で頬と頸の付け根が白)といえるものが描かれている涅槃図があります。この2種は、江戸時代には関東地方などにも普通に渡来していたようですが、その後ほぼ絶滅状態になりました。現在では、国をまたいだ保護活動が実を結び、主に東北地方に渡来します。かつては松本付近でも見られたのか気になるところです。

シジュウカラガン

シジュウカラガン

キジ類
キジ

キジ

 キジは多くの涅槃図に描かれていて、大陸のキジ(コウライキジ)とは違い、体色が緑の日本のキジです。ときおり日本固有種のヤマドリが描かれている涅槃図もあります。

日本の野鳥でないものとしてはクジャクとニワトリもよく描かれていて、キンケイ・ハッカン・ジュケイなど珍しいものもいます。

キンケイ

キンケイ

ジュケイ

ジュケイ

ツル
タンチョウ

タンチョウ

カメとともに長寿の象徴、縁起のいい鳥で、さまざまな絵画や芸術品のモチーフになっています。多くの涅槃図にはタンチョウが描かれていて、つがいのものも多いのですが、ナベヅルと思われるものが一緒に描かれている涅槃図があります。またコサギと並んで描かれていることも多いです。

タンチョウとナベヅル

奥は体が煤色のナベヅルに見える

ワシ・タカ類

イヌワシ

 

その勇猛さから国内外問わず様々な絵に描かれている鳥で、涅槃図にも多く登場します。基本的にはオオタカをモデルとして描かれたと思えるタカが多いのですが、洞光寺と浄林寺の涅槃図には、褐色の体に金茶色の頭という、明らかにイヌワシといえる絵が描かれています。

サンジャク

サンジャク

見慣れない派手な鳥ですが、今回展示している涅槃図でも4点に描かれています。中国に生息するカラス科の鳥で、江戸時代には観賞用として輸入されていたようです。


光前寺の涅槃図

今回展示されているほかの涅槃図には見られない鳥たちが、特徴をはっきりと捉えた姿で描かれています。観察眼の鋭い絵師が描いたのかもしれません。

コチドリ

コチドリ

ウ

小鳥たち

左から、シジュウカラ・ハクセキレイ・不明・ベニヒワ・ウソ

 

おわりに

他にもカワセミやフウチョウの仲間に見えるものなど、さまざまな鳥が描かれています。特徴がしっかり描かれていてわかりやすいものから、分かりにくいものも多く、見るたびに発見があります。

特別展「春を待つ涅槃図」は3月3日(火)まで開催しています。
もし「この鳥はこれでは?」と思えるものがあったら是非教えてください。

 

 

おまけ

ミミズク

 

 

 

 

 

ミミズクは耳角という耳のように飛び出た部分が特徴的なためか、多くの涅槃図に描かれています。
その中でもゆるキャラのような1羽。会場で探してみてください。

Vol.102 魅惑のミュージアムグッズ ( R7.2.10 文責:會田)

博物館や美術館に併設されているミュージアムショップ、皆さんは立ち寄られたことはありますでしょうか。

そこでしか買えない限定品や、展示室でみた「アレ」がグッズになっていたり…そこは素敵な出会いに満ち溢れています。

当館のミュージアムショップも他にはない個性的なアイテムが充実!実用的なアイデアグッズや伝統工芸とコラボしたもの、もらってうれしいお土産になるものまで、ミュージアムグッズ大好き!な筆者が個人的な目線でご紹介いたします。

エントリーNo.1
まずは定番のガチャガチャから。『松本市立博物館限定ピンズ』(全5種)

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松本だるまやお神酒の口(おみきのくち)、松本てまり、道祖神など松本らしさあふれるモノたちがピンズになりました。優しい色合いで可愛いので、トートバッグや洋服につけても素敵です。全部で5種類、ぜひお気に入りをゲットしてください!

エントリーNo.2
『松本市立博物館オリジナルトートバッグ』

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観覧チケットのデザインと同じものから、松本市立博物館と市内にある分館15館が可愛いイラストになったものまで種類も豊富。当館の学芸員も愛用する人気のグッズです。しっかり厚みもあり、重い本を入れても負けません。マチもありA4サイズも楽々入ります。使い込むとしなやかになり、折りたたんでエコバッグにもなる、頼もしい相棒です。

 エントリーNo.3
『松本市立博物館ロゴ入りオリジナルグッズ各種』(写真左からボールペン、ビニール傘、タオル)

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博物館ロゴ入りグッズも見逃せません。新作のタオルは吸水性能が抜群なのに、薄手のふわふわ生地でバッグに入ってもかさばりません。急な雨の日の強い味方ですね。

私のいち押しはビニール傘です!やや透け感のあるカラフルなビニール傘なら他とかぶらず置き忘れ防止にもなりそうです。

 番外編~ショップ担当者に聞きました!人気商品
『松本市立博物館 記念メダル』

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2023年10月のオープンと同時に設置した記念メダル製造機。大人から子どもまで皆が夢中になれます。記念メダル製造機を新規で置くのは珍しいそうで、メダルコレクターの方からも喜びの声が届いているそうです。

ご紹介したもの以外にも沢山の「素敵」がいっぱいです。観覧チケットがなくてもご利用できますので、当館ミュージアムショップに是非お立ち寄りください!

※各商品の価格については、当館ミュージアムショップまでお問い合わせください。

 【耳より情報】

特別展『春を待つ涅槃図』に合わせ、只今展示とコラボしたアイテムを販売しています。

どれも数量限定になっております。この機会でしか手に入らないものばかり!ぜひお求めください。

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♪特別展『春を待つ涅槃図』2/1(土)~3/3(月)好評開催中♪

 

 

 

 

 

Vol.101 手作り甲冑講座奮戦記 ( R7.2.3  文責:吉澤 )

松本市立博物館では令和6年10月から連続講座「手作り甲冑講座」を実施しています。

10月5日(土)の事前説明会後、申込みいただいた10名の受講生をお迎えし、実際に着用できる甲冑を思い思いのデザインで制作しています。一から自分の手で作りあげるオリジナル甲冑は、一朝一夕には完成しません。今回は、そんな手作り甲冑講座の様子を紹介します。

【事前説明会】

講師は、当館に手作りの甲冑レプリカをご寄贈くださった赤廣三郎先生をお招きしました。時間と根気のいる講座になりますので、納得して受講していただけるよう、説明会では先生の作品を前に作業工程の具体的な説明をしていただきました。

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【講座の様子~兜ができるまで~】

この講座では、戦国時代以降に活躍した「当世具足」という甲冑を制作していきます。「当世具足」は兜や胴だけでなく、全身を覆えるよう籠手(こて)や臑当(すねあて)といった「小具足」も一式備えた甲冑なので、それだけたくさんのパーツを作っていく必要があります。

まずは兜の制作です。
今回は兜鉢の板のつなぎ目を筋状にみせる「筋兜」という兜を制作していきます。
ヘルメットとビニールコードを使い、兜鉢を成形します。

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鉄板の代わりに使用するのはプラスチック板。仕上がりは本物の甲冑よりも軽いですが、それでも強度と厚みがあるので型紙にあわせて切り分けるのも一苦労です。

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プラスチック板を熱湯にさらし、柔らかくしてから眉庇(まびさし)や錣(しころ)の形を整えます。眉庇・錣は、それぞれ兜の一部位で、眉庇は帽子のツバのように額を覆う部分、錣は後頭部から首を守る部分です。

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錣を制作します。

プラスチック板に数か所穴をあけ、そこに紐(縅毛)を通しながら板を数枚つなげていきます。この工程を「縅(おど)し」といいます。

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錣を制作します。

プラスチック板に数か所穴をあけ、そこに紐(縅毛)を通しながら板を数枚つなげていきます。この工程を「縅(おど)し」といいます。

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これからは胴や籠手などもどんどん制作していきます。
完成は今年の3月頃を予定しています。どんな甲冑が出来あがるのか楽しみです!

 

 

Vol. 100 松本筑摩高校生の皆さんと街歩き(R7.1.15 文責:本間)

令和6年6月から開催している松本市立博物館・松本筑摩高等学校連携の連続講座。11月14日(木)に第4回目を実施しました。

本講座では、松本高等学校出身の作家を中心に取り扱ってきました。今回の街歩きでは、松本高等学校(旧制)の学生たち(以下、松高生)がよく訪れていた場所を巡りました。

巡った場所は松本城太鼓門・かき舟・塩川・鯛萬の井戸(旧鯛萬)・上土シネマ(旧電器館)・東すし・縄手通り・弁天・おきな堂・四柱神社・枡形跡広場(旧鶴林堂書店)の計11か所ですが、ここではピックアップして紹介します。

 1 塩川(松本市大手4-12-8)

昔の松本には映画館がたくさんありました。塩川は松高生が映画を見た後によく行っていたお店で、甘味を味わえる喫茶です。

 松本高等学校出身の作家・北沢喜代治の小説にも登場しています。塩川が描かれている部分を引用します。

 「それは町の盛り場に近い、塩川という喫茶店だった。[中略]お茶が運ばれて来て、運んで来た娘がかえりしなに、側のストーブをいじると、一時に火の燃え上る唸りがきこえて、あたりがぬくぬくと感ぜられた。」(北沢喜代治「忘年」より)

昔の塩川(旧制高等学校記念館蔵)

昔の塩川(旧制高等学校記念館蔵)

松本筑摩高校の皆さんと現在の塩川

松本筑摩高校の皆さんと現在の塩川

2 鯛萬の井戸(松本市大手5丁目6)

 昔の松本には割烹料理屋・鯛(たい)萬(まん)が存在しました。「鯛萬の井戸」はお店があった場所に作られ、その名前を取ってつけられたものです。

鯛萬は一流のお店で「芸者さんを連れてきても恥ずかしくない」と、松高生が芸者を呼んだこともありました。

松高生は、「半玉さん」と呼ばれる玉代が半分の若手の芸者さんとよく遊んでいたようです。

鯛萬の井戸看板

鯛萬の井戸看板

看板から井戸までの路地

看板から井戸までの路地

鯛萬の井戸

鯛萬の井戸

3 おきな堂(松本市中央2-4-10)

洋食屋・おきな堂には「バンカラカツカレー」というメニューがあります。この「バンカラ」とは何でしょうか。

松高生は自身の制服をわざと汚して身につけていました。理由は、当時は外見よりも内面を重視する風潮があったためです。

バンカラの学生

バンカラの学生

(旧制高等学校記念館蔵)

松本高等学校出身の作家・北杜夫のエッセイにもバンカラが登場しています。描かれている部分を引用します。

 「帽子に、夢にまで見た白線(旧制高校生は白線帽が特徴であった)を巻き、それに醤油と油をつけて古めかしく見せようと努力した。[中略]旧制高校生の敝衣破帽(へいいはぼう)というのはむろん彼らなりの裏返されたおしゃれ」(北杜夫「どくとるマンボウ青春記」より)

 野蛮なハイカラ、ということでバンカラと呼ばれていたようです。

翁堂外観

翁堂外観

松本筑摩高校の皆さん

松本筑摩高校の皆さん

松高生と翁堂(旧制高等学校記念館蔵)

松高生と翁堂(旧制高等学校記念館蔵)

 

全4回に及ぶ講座でしたが、1回目から出席してくれている生徒さんもいらっしゃいました。松本筑摩高校の皆さんとの連携講座は、来年度も実施予定です。今後も博物館資料や現物を用いた講座を開催し、若い世代の皆さんと一緒に地域の歴史・文学を学んでいきたいと思います。

 

 

Vol.099 年越し新春刀剣展 ( R6 .12.28 文責:高木 )

今月20日から「年越し新春刀剣展~我が家の名刀・刀装具」を、日本美術刀剣保存協会長野県南支部と共同で開催しています。

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2階特別展示室の半分のスペースですが、刀身46振り、刀装具など合わせて約100点を展示しています。名刀ぞろいの大変見ごたえのある展示になりましたが、これらは1点を除いてすべて、南支部会員の各家庭で大切に保管され、手入れされているものです。鎌倉初期に作られた刀もあります。ということは、800年近く、誰かが大切に手入れを続けてきたから今ここに展示されているということになります。

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刀は手入れを怠ればさび付いてその輝きを失ってしまいます。また、武器として荒々しい戦いに使用されたものは残りません。長い年月、その美しさを誰かが愛でてきたから鑑賞に堪える美術品として博物館に展示されているのです。

姿、鍛え肌、刃文など刀剣のみどころはたくさんあります。解説には専門用語が多く難しく感じてしまうかもしれません。もし、刀を見るのは初めてという初心の方でしたら、ぜひ会場を一回りして自分のお気に入りを見つけてみてください。
姿がかっこいい、刃文がきれい、そう思っていただけるだけで大切にされてきた刀の輝きは一層増すように感じます。何できれいなんだろうと疑問を持ち帰っていただけるとさらにうれしいです。

今年も残り少なくなりました。いつも博物館活動への理解とご協力に感謝しています。来年もよろしくお願いいたします。

新春刀剣展は元旦午前10時から午後3時まで特別開室いたします。また、11日(土)から13日(祝)には現代刀匠の最高峰にある宮入法廣氏を招いて座談会など関連事業も開催しますのでぜひお立ち寄りください。

 

Vol.098 特別展調査で拓本を取りました(R6.12.10 文責:武井)

学芸員の数多くある業務の中の一つに、特別展・企画展に向けた資料調査があります。
かくいう私も、来年度の特別展に向けて、松本市内の十王様の調査をさせていただいています。

※ 十王とは:死後、冥界において死者の罪を裁く十人の王。皆さんご存じの閻魔大王も十王のうちの一人です。十王の裁きによって転生先が決まります。生前に「五逆罪」と呼ばれる大罪を犯すと、最下層の「阿鼻地獄」に堕とされ永劫の苦しみを受けますので注意しましょう。

松本市内の十王は、木造の丸彫り像か石造の丸彫り像に大別されますが、一点だけ、石に線刻された閻魔大王像が確認されています。

今回、この閻魔大王像の拓本を取らせていただく機会に恵まれましたので、その様子をご紹介します。今回採拓させていただいたのは、松本市波田に所在する「線彫閻魔王坐像」(松本市重要文化財)です。

(松本市文化財課ホームページより転載)

(松本市文化財課ホームページより転載)

大きな自然石に閻魔大王の姿と銘が刻まれています。

閻魔大王は、両手のひらを前に向けたポーズで、眉を吊り上げ、目を見開き、口を開いています。亡者に対して一喝しているのでしょうか。亡者を裁き、時として地獄に堕とす閻魔大王は恐ろしい姿で表されることが多いのですが、この閻魔大王はどことなくユーモラスで親しみを感じます。

閻魔大王の両隣には「天正二年七月吉日甲戌/本願 越前住經聖」と刻まれています。
この銘文から、天正二年(1574)、越前(福井県)の僧・經聖が建てたことが分かります。かつて波田に存在し、「信濃日光」と称された若澤寺への巡拝の際に建てられたと考えられています。
450年ほど前に建てられた石造物ですが、大きな破損や欠落もなく、現在も肉眼で線刻を確認することができます。

とはいえ、表面には地衣類が生え、光のあたり加減によってはうまく見えないこともしばしば…。そこで威力を発揮するのが「拓本」です。

拓本とは、凹凸のあるものの上に紙を乗せ、墨などでその凹凸を写し取る転写方法の一つです。表面の凹凸情報を正確に写し取ることができるため、文化財調査では欠かすことのできない記録手法です。

鉛筆や固い墨などでこすって写し取る方法を乾拓といい、紙を水で密着させ、乾ききる前に墨を乗せる方法を湿拓と言います。石造物の調査においては多くの場合湿拓が用いられます。今回の調査でも湿拓を採用しました。

今回は以下の手順で、2人で拓本を取りました(人によって流儀は異なります)。

① たわしなどで石造物表面をきれいにする。
② 画仙紙を石造物の大きさに合わせてカットする。
③ 画仙紙の位置を決めたら、霧吹きでまんべんなく濡らして固定する。
④ 丸めたタオルなどで画仙紙をたたき、凹凸にしっかり入れ込む。
⑤ 画仙紙が少し乾いたら、タンポに墨をつけもう一つのタンポとすり合わせる。
⑥ タンポで画仙紙にやさしくムラなく墨をつけていく。
⑦ 墨をつけられたら、石造物から画仙紙をはがす。
⑧ はがした画仙紙を新聞紙に挟む。

なお、作業に必死だったため、拓本中の写真はありません。
そうして出来上がった拓本がこちらです。

 
(見やすくするため少し加工しています。)

(見やすくするため少し加工しています。)

2人とも5年以上ぶりの拓本で、現地では「久々の拓本の割にはうまくできたのでは?」と言い合っていましたが、博物館へ持ち帰り、乾ききった状態で見てみたところ、しわが寄ってしまっていたり、ムラができてしまっていたり、少しにじんでしまった箇所があったりと、反省点が次々と…。拓本においても日々の鍛錬が重要であることを痛感しました。

今回は時間の都合でこの一枚しか採拓できませんでしたが、機会があればもう一度チャレンジさせていただきたいと考えています。

拓本は、今回紹介した石造物だけでなく、金属や木材からも取ることができ、道具がそろえばだれでも取ることができます。興味のある方はぜひチャレンジしてみてください。

 ※拓本を取るときは、必ず所有者に許可を得てから行ってください。
(今回は市指定文化財であるため、所有者と市文化財課に許可を取っています。)
  また、傷つけたり墨で対象物が汚れたりしないよう、細心の注意を払ってください。

Vol.097 博物館で積読? ( R6.11.18 文責:岡 )

松本の散策後や展示を見た後に座って一息つきたい…そんな時は、松本市立博物館の図書情報室でゆっくり本を読むのはいかがでしょうか?

図書情報室の様子

図書情報室の様子

図書情報室は当館2階の特別展示室前、大名町通りを見下ろす見晴らしのいい空間にあります。名前の通り、備え付けの本棚には図書がディスプレイされていて、どなたでもご自由にお読みいただけます。(当館は2階3階でも展示室前までなら無料でお入りいただけます。)

2 てまり入り

ところでこの図書は、本棚の区画ごとにカテゴリー分けされています。このカテゴリーは松本に関連するものを中心に、「城」や「山」、「建築」、「音楽」など20種類以上が設定されていて、当館学芸員がおすすめする図書を、お手に取りやすいものから少しマニアックなものまで幅広く選出しています。カテゴリー内でも個性の違う図書を選出しているので、惹かれるジャンルがあれば、ぜひ区画単位で注目してみてください。普段読まないジャンルでも、パラパラ眺めていたら思わぬ発見があるかも…?

向かって左にあるU字の本棚には少し毛色の違う図書が並べられています。ここは主に特別展ごとにラインナップが替わる、期間限定エリアです。限られた期間ではあるものの、通常は閉架している骨太なものや少し踏み込んだものなど、特別展をさらに楽しむための図書が多く並べられています。展示を見る前や後に、ぜひ立ち寄ってみてください。

年季の入ったレアな図書が読めるかも

年季の入ったレアな図書が読めるかも

【図書情報室 基本情報】
 場所     松本市立博物館2階 特別展示室前
 入室時間   9:00~17:00
 休室日    毎週火曜日
 料金     無料
 注意    ・室内は飲食禁止です。虫やカビの発生原因になりますので、
                   1階の飲食可能スペースをご活用ください.
                 ・図書は元の場所に戻してください.
                 ・図書の中には市民の方が寄贈してくださったものもあります。
                    ご覧の際は丁寧にお読 みください.
                 ・本を読む以外にも、休憩や自習などにもご利用いただけます.
                    マナーを守ってご利用ください.
                 ・大声で話す等、他のお客様のご迷惑になる行動はお控えください。

 

 

Vol.094 真夏の撮影大作戦 ( R6.9.26 文責:前田)

手まりモビールがゆったりとたゆたう吹き抜けの導入展示エリアが、一夜限りの撮影スタジオに様変わりしたのは8月の全館休館日のこと。この日撮影したのは横5.3m、縦4.7mもの大きさを誇る西善寺の涅槃図(詳しくはこちらVol.067)。

この文化財はその大きさゆえ重量もかなりのもので、壁にかけると資料自体に負荷がかかってしまいます。そのため床面に平らに広げ、大きな涅槃図が画角におさまる高さまでカメラ機材を引き上げ、下向きに構えてシャッターをきる作戦で準備が進められました。
 描かれたものがきめ細やかに再現され、この文化財の素晴らしさがしっかり伝わる高画質のデータを残す事が今回のミッション。最新の日本美術全集のデザインも手がけているおおうちおさむアソシエイトプロデューサーのアドバイスのもと、撮影は特殊な機材と技術を携えたプロのカメラマンの方に、大切な文化財の運搬に関しては美術専門スタッフのいる輸送業者の皆さんに、そして市民の皆さんと作り上げた手まりモビールを一時撤収するための、これまた専門の業者の方々それぞれに関わってもらい、博物館職員と当日博物館実習に来ていた大学生たちも加えた総勢40人を巻き込んだ大掛かりな撮影プロジェクトとなりました。

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上方から撮影した際、画角に入ってしまう手まりモビールをこの日の朝イチで撤収。一つのモビールは大小10本ほどのバトンが連なっているので、下ろす際は大勢の手で受け取るようにしました。

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この涅槃図には画面いっぱいに金彩が施されています。
金の部分が綺麗に撮影できるように、下から4mの高さまで、白い壁を一時的に黒くする必要がありました。A3サイズの黒い紙を54枚、ハシゴに登ってせっせと貼り付け、黒い壁を作っていきます。

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西善寺から涅槃図を借り受け、博物館へ搬入するのはこの日の夕方の予定でしたが、天気予報は雨マーク。急きょ午前中に変更してもらい、雨の心配もなく無事博物館へお迎えする事ができました。所蔵者の方のご協力にも感謝です。

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撮影は外光や車のライトの影響の少ない夜8時にスタート予定。この日の撮影班はアシスタント含め4人がかり。夕方から機材が続々と設置され、博物館が撮影スタジオと化しました。

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2階の図書コーナーに高所作業車を設置し、さらに上へ上がっての撮影。その高さおよそ8m!危険が伴うため、人も資料も安全第一を心がけてとにかく慎重に。

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準備が整い、いよいよ涅槃図が広げられます。荘厳な場面が姿を現すと、現場の空気が一段と張り詰めました。ほどなくして渾身のシャッターがきられるのでした。

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撮影途中で壁紙を黒いパターンから、白いパターンへ早変わり。金彩を施した部分をよりよく写す条件と、それ以外の絵肌の調子を写しとる条件とに分けて撮影していきます。

 こうして各プロ集団の知恵と技が結集した撮影大作戦は無事終了。画像の仕上がりが楽しみです。みなさんお疲れ様でした!

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次の日の朝、開館時間前に手まりモビールを元の場所へ復帰させ、何事もなかったように来館者を迎えたある夏の日の博物館の出来事でした。

冬の特別展「春を待つ涅槃図」は令和7年2月1日㈯から3月3日㈪の開催です。市内外の貴重な文化財・涅槃図を博物館で公開します。ただいま展覧会準備の真っ最中。
どこかでポスターやチラシを見かけたら、裏でこんな撮影が行われていたのだと、ちょっとでも思い返してもらえたら嬉しいです。

Vol.93 企画展「生物多様性と松本」を終えて」(R6.9 文責:内川)

先日、9月2日(月)をもちまして、企画展「生物多様性と松本―すぐとなりにあるワンダーランド―」が会期終了となりました。

松本市立博物館本館では長らく行われていなかった自然史系の展示ということで、チャレンジングな企画ではありましたが、内外からも好評をいただき、無事に終えることができました。特に、夏休み期間中ということもあり、多くの親子連れの方々が来館し、展示を楽しまれていったと伺っています。

展示の様子1

展示の様子1

展示の様子2

展示の様子2

企画展自体は終了してしまいましたが、展示で紹介したとおり松本市周辺にはさまざまな生きものたちが暮していて、その姿を観察することができます。

特に「白樺峠のタカの渡り」は今まさにシーズン真っ最中。サシバやハチクマといった普段はあまり見かけない猛禽類たちを観察できます。

サシバ

サシバ

ハチクマ

ハチクマ

松本市の自然については、アルプス公園内にある分館・山と自然博物館でも常設で展示しています。公園自体も自然豊かな環境で、特にこれから冬に向けて野鳥の観察シーズンがやってきます。

秋の渡りの期間にみられるエゾビタキ

秋の渡りの期間にみられるエゾビタキ

冬になると亜高山帯から里におりてくるルリビタキ

冬になると亜高山帯から里におりてくるルリビタキ

少し時間はかかってしまいますが、また本館での自然に関する展示も鋭意企画してまいります。
最後に、展示にご協力いただいた皆さまに、この場を借りてあらためてお礼申し上げます。

Vol.92 学校連携について ( R6.8.9 文責:本間 )

松本市立博物館では、地域の学校と連携した講義・講座を実施しています。ここでは、今年私が担当させていただいた事業を紹介します。

 1 並柳小学校 社会科地域学習

並柳小学校3年2組の皆さんは、社会科地域学習の一環で「並柳小学校周辺の土地利用」について調べています。博物館に「並柳小学校周辺の土地の歴史について教えてほしい」というご依頼をいただきました。当日は江戸時代など昔の地図を見ながら、並柳の歴史を学びました。

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小学生の皆さんから、「並柳に古墳がたくさんあるのを初めて知った。」「並柳の歴史を知れて良かった。」などの感想をいただきました。博物館資料を活用しながら、若い世代の皆さんと歴史を学べる機会となりました。

 2 松本市立博物館 松本筑摩高等学校連携「文学連続講座」

松本市立博物館・松本筑摩高等学校連携事業として、「文学連続講座」を開催しました。松本高等学校(旧制)出身作家や作品をメインに、全3回の講座を実施しました。各講座の内容を紹介します。

(1) 講演会「郷土作家が書く松本」

第1回目の講座では講演会を行いました。「郷土作家が書く松本」というテーマで、「松本高等学校の紹介」や「松本高校出身作家が自身の作品で描く松本の様子」などを中心にお話しました。

松本筑摩高等学校の学生さんからは「松本高等学校はエリートのイメージがあった。しかし、学生に破天荒な一面があって驚いた。」という感想をいただきました。

また第1回目の講座のみ一般公開しました。学生の皆様や地域の皆様に、松本の文学や歴史をお伝えできる機会になったと思います。

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(2) 北杜夫資料紹介

 2回目の講座では、松本高等学校出身作家・北杜夫の資料紹介を行いました。北杜夫の人物像を紹介した後に、生徒の皆さんに資料現物を触っていただきました。

紹介した資料

紹介した資料

筑摩高校の生徒さんたち

筑摩高校の生徒さんたち

北杜夫は阪神タイガースのファンであった

北杜夫は阪神タイガースのファンであった

北杜夫がディラン山に登った際に着ていた羽毛服

北杜夫がディラン山に登った際に着ていた羽毛服

生徒の皆さんより、「資料に使用した痕跡が残っており面白い。」「資料から人となりが分かる。」などの感想をいただきました。生徒さんならではの感性豊かな視点で資料をご覧いただき、意見を伺うことで、私自身も勉強になりました。

 (3) あがたの森散策

3回目の講座では「あがたの森散策」を実施しました。あがたの森は松本高等学校の敷地だった場所です。国指定の重要文化財である校舎・講堂が現存しています。今回は敷地内や、校舎・講堂内を巡りました。当時の写真と今の様子を見比べながら散策しました。

校舎

校舎

講堂

講堂

公園内散策の様子

公園内散策の様子

学生の皆さんが、校舎・講堂の内装など細部まで興味を持って見てくれていました。現地を巡りながら一緒に歴史を学ぶことができたと思います。

  松本筑摩高校の皆さんとの連携講座は、今年秋にも実施予定です。今後も若い世代の皆さんに博物館や資料・文化財に触れていただく機会を作り、未来に繋げていきたいと思っています。