Vol.061 石灰華の採取in白骨温泉 ( R5.7.11 文責:武井 )

突然ですが、これはどこの風景でしょうか。

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正解は白骨温泉です。
しかし、今回の目的は温泉ではなく「石灰華」です。
石灰華とは、温泉水の中に含まれるカルシウム成分が、地表面に湧き出して堆積した堆積物のことです。

白骨温泉の大地には石灰岩が分布しているので、白骨温泉の地下から上がってくる温泉水には石灰岩のカルシウム成分がたくさん含まれています。このカルシウム成分が温泉水の噴出により地表面に堆積したものが石灰華、この石灰華が堆積し続けて円錐形となった地形が噴湯丘です。

これほど大規模な噴湯丘がまとまってみられる場所は日本国内では類例がなく、大変貴重なことから、「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」という名称で国の特別天然記念物に指定されています。

上の写真は、その噴湯丘の一部を写したものです。成分が層状に堆積している様子がよく観察できます。

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また、いたるところにこのような穴ぼこが開いています。これは噴出孔で、大昔にはこの穴を通って大量の温泉が噴出していたのです。

今までは藪に包まれうまく見ることができなかったこれらの石灰華ですが、近年整備が進み、見晴らしがよくなってきました。今後さらに整備されていく予定ですので、白骨温泉を訪れた際はぜひ探検してみてください。

新博物館の常設展示では、「開かれた盆地」というテーマで、松本市の温泉に関する資料を展示します。そこで白骨温泉の石灰華も展示予定なのですが、当館ではきれいな石灰華を所蔵していませんでした。

そこで今回、構造地質学の専門家である大塚勉先生ご指導のもと、特別な許可を得て、展示に適した石灰華の採取を実施しました。

まず探索を開始したのは、隧通し(ついとおし)の周辺です。

隧通しは天然のトンネルです。谷に石灰華の塊が崩落して谷を埋めた後、川によって内部が浸食されてトンネルができました。

現在は崩落の危険性が高い箇所があるため立ち入り禁止となっていますが、特別に許可を得て立ち入りました。

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川の流れが激しく、隣の人の声を聞き取るのも一苦労です。

道なき道を進み、何とか河原に到着しましたが、残念ながらここでは展示に適した石灰華の発見には至りませんでした。

 気を取り直して川の上流へ移動し、探索を再開。

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先ほどの場所に比べ、流れはとても穏やかですが、河原にはたくさんの転石が転がっています。石灰華と思われる白い石も見られました。

足場が悪い河原を下流に進みながら探すこと10分ほど、ひときわ白い石灰華を発見しました。

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取り出してみると…

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全体的に白く、層状に堆積した様子がよく観察でき、大きさも程よい石灰華であることがわかりました。

大塚先生のお墨付きもいただき、展示用石灰華に決定です。

5㎏以上ある石灰華を何とか車まで運び、新博物館まで持ち帰りました。

 持ち帰った石灰華は水やたわしでよく洗います。

写真7小

 

 

 

 

 

 

 

 

表面についた土埃や苔が取れ、より白さが際立ちました。

この後、石灰華の特徴をよりよく知っていただけるよう、角度や照明を微調整しながら展示していく予定です。

開館した暁には、この石灰華がどこに展示されているかぜひ探してみてください(ちなみに、今回説明をしなかった「球状石灰石」も展示予定です)。

そして、博物館の展示をご覧いただいた後はぜひ白骨温泉現地にもお越しください。
白骨温泉の成り立ちを理解したうえで入る温泉は、きっと格別ですよ!

※「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」は国の特別天然記念物に指定されており、かつ中部山岳国立公園の特別地域内に該当するため、採取などの現状変更は原則禁止されています。また、立ち入り禁止区域に許可なく立ち入ることは絶対におやめください。

Vol.060 雑草という名の草はない( R5.7.4 文責:内川 )

今年度前半のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公は植物学者の牧野富太郎がモデルです。『日本植物学の父』とも呼ばれる人物がモデルということで、植物学というものが世間から注目される良い機会になっていると思います。

さて、前回(Vol.50)の引き続きで博物館周辺の自然を記事に、と思い立ったとき牧野博士が言ったとされる「雑草という草はない」という言葉を思い出しました。そこで、博物館周辺の『雑草』を調べてみることにしました。

『雑草』の定義は観点によって違いますが、性質としてはおおまかには「日当たりのいい整備された場所で、急速に成長する植物たち」です。昨年の建設地の様子の記事を見ると、博物館前の植込みなどは7月以降に整備された様です。作られてまだ1年、定期的に手入れがされている場所(今回見つけた雑草もそのうち抜かれてしまうでしょう)でも、たくましい『雑草』たちはどこからか入り込んで成長します。

 

イネ科の『雑草』

メヒシバ

メヒシバ

いたるところに生えているので、誰もが一度は目にしたことがあると思います。

スズメノテッポウ

スズメノテッポウ

どちらの種も花が咲いているところです。イネ科の植物は花びらのない地味な花を咲かせます。イネ科に属する『雑草』はとても多く、他にもイネ科の植物がありましたが、穂が出ていない状態では私には判断が難しかったです。 

キク科の『雑草』

イネ科の『雑草』とともによく見かけるのがセイヨウタンポポやヒメジョオン、ハルジオンなどのキク科の植物ですが、今回は目立つものでは1種しか見つけられませんでした。

ハキダメギク

ハキダメギク

ハキダメギクという名前は牧野博士が世田谷区の掃き溜めで見つけたことからついた名前だとか。

ハキダメギク筒状花

コゴメギクというよく似た種がいて(どちらも外来種)、正確に確認するには花を解体して、赤い矢印の部分に毛があるかを調べる必要があります。

カタバミの仲間

カタバミは果実が熟すとはじけて種子を飛ばすうえ、種子にエライオソームというアリが好む部分があるため、アリに運ばれて様々なところに拡散します。

カタバミ

カタバミ 

在来種の野草で、道端など様々なところで見られる黄色の小さな花とハート形の三つ葉が特徴的な可愛らしい植物です。通常カタバミというと葉が緑色ですが、変異が大きく、写真は少し赤みがかっています。葉が赤いのはアカカタバミ、その中間型はウスアカカタバミとも呼ばれます。

オッタチカタバミ

オッタチカタバミ

カタバミによく似た外来種で、カタバミは普通地面を這うように成長するのに対して上に伸びるように成長するためこの名がついています。ただし、カタバミの中にも上に伸びる成長をするものがいるため、より正確に見分けるには葉の根本や毛など、細かい部分を確認する必要があります。

 

他にも名前が分かるものもすぐには分からないもの、様々な『雑草』が見つかりました。解説のとおり、名前を調べるためには非常に細かい部分を調べる必要があることも多く、ドラマの中でも図版で細かい部分まで描写する必要があるために印刷技術を学ぶ場面が描かれています。こうやって『雑草』の名前を調べることができるのも、牧野博士をはじめ先人たちの努力があったからこそです。

Vol.059 これで何見る?-展示室の双眼鏡-( R5.6.27 文責:宮下 )

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上の写真は、新博物館3階の常設展示室内に備え付けている双眼鏡です。展示室と双眼鏡、一見アンマッチにも思える組み合わせですが、実際に使ってみると展示物と向き合う楽しさが2倍・3倍になる、かもしれないアイテムです。

今回のコラムでは、双眼鏡が置かれている展示と、その楽しみ方をご紹介します。
上記の双眼鏡が置いてあるのはここ。

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常設展示室に入ってすぐ目の前に広がる松本城下町ジオラマ(模型)です。天保6年(1835)の松本城下絵図をはじめ、古地図など様々な資料を基に南北2.4km、東西1.2kmの範囲を300分の1スケールで推定復元しています。

訪れた人を江戸時代末期の松本城下へといざなう迫力のジオラマですが、その大きさのため、端から中央部を見るとやや遠くなってしまいます。また、ジオラマの中の人々は、指先ほどの大きさ。古写真などから再現したこだわりの街並みを見るのにも集中力が必要です。そこで細部まで良く見られるようにジオラマの南西部分と北東部分に双眼鏡を一台ずつ用意しています。

双眼鏡でジオラマ見ると、遠くの部分や小さいものが詳細に見られるだけでなく、周りの景色がさえぎられて当時の松本城下に入り込んだような臨場感が感じられます。拡大された世界を、道や川・堀に沿って見てみると、思わぬところで足止めをされたり、いつの間にか路地に迷い込んだり。時に町人や武士とすれ違いながら約200年前の松本を散策している気分が味わえます。

普通に見ると城下の様子を様々な角度で一望できます

普通に見ると城下の様子を様々な角度で一望できます

拡大してみていくと、水路や街角の思わぬ建物に出会えます

拡大してみていくと、水路や街角の思わぬ建物に出会えます

 双眼鏡を使うことで、ジオラマの見え方が変わり広い視点とは異なる形で松本の町との出会いを楽しむことができます。「この道の繋がり方はどう見えたのだろう?」「川沿いを進むと建物がどのように現れるだろう?」。限られた視野だからこそ見えてくる景色があることにお気づきいただけると思います。

展示室の双眼鏡は、数が限られていますが、お手持ちのスマートフォンやカメラなどでも同様に楽しめます。開館の際には、こんな形の「町巡り」もぜひ楽しんでみてください。

ところで、偶然目に入った木の形が、馬のように見えたのは私だけでしょうか。

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Vol.058 まつもとファームとまつもとのもり( R5.6.20 文責:高木 )

先週に引き続き、アソビバ!の壁について紹介します。

背比べふたり

アソビバ!に入って右手の壁には、松本の森に生息している動物たちのイラストを並べた「まつもとのもり」が広がっています。イラストの木(クヌギ)にはスケールが入っていて背比べをすることもできます。現在はモニタリングで来てもらった開智小学校の生徒たちの名前が付箋で貼られています。次に来た時と比べてほしいのですが、付箋だらけになってイラストが見えなくなっても困るので剥がすタイミングを思案中です。

ふせん 

正面北側の壁は「まつもとファーム」。大きな不思議な木があって、木製マグネットを貼って遊ぶことができます。誰が貼ったのでしょうか。スイカがなっていて、カブトムシがよってきていたり、ウサギにカブ(松本の伝統野菜・保平かぶ)をたべさせていたり。こんなふうに、壁を使って子どもたちが自由に物語を作っていってくれたるのが楽しいです。ところで、カブの右のほうに前回紹介したダンゴムシちゃんがいるのがわかるでしょうか?

不思議な木 usagi

これらのイラストはすべてVol.037 で紹介した古荘風穂さんに描いてもらいました。実際の動物の特徴を丁寧に反映させつつも、リアル過ぎない絶妙な存在感があるイラストです。大きなツキノワグマからダンゴムシまで平面にとどまらない生き物たちのエネルギーで子どもたちの遊びの世界が大きく広がっていくのが楽しみです。

Vol.057 カエルくんとダンゴムシちゃん( R5.6.13 文責:髙木 )

カエルを主人公にした物語といえば、アーノルド・ローベルの「ふたりはともだち」。がまくんとカエルくんの友情に大人の心も温まります。島田ゆかさんの絵本「バムとケロのお買い物」のケロちゃんの可愛さも忘れることができません。そして、村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」のスーパーヒーローかえるくん。命をかけて東京を救ったかえるくんのことを思うと胸が熱くなります。
カエルはどうしてもかえるくん、男の子のイメージがあります。

「ふたりはともだち」アーノルド・ローベル作

「ふたりはともだち」アーノルド・ローベル作

「バムとケロのおかいもの」島田ゆか作

「バムとケロのおかいもの」島田ゆか作

一方、ダンゴムシとくればなぜか「ダンゴムシちゃん」とちゃんをつけたくなります。女の子というわけでもないのですがころんとかわいいイメージ(おそらくこれにはかなり異論があるでしょう)です。

気になってダンゴムシの雌雄について調べてみました。オスとメスの見分けなどつかないだろうと思っていたらなんと、オスとメスがわりと明確に見分けられるということです。真っ黒なのがオス、色が薄めで金色の模様があるのがメス。(ちなみに、急いで逃げているのがメス、追いかけているのがオスという判断のしかたもあるそうです。)

実際に探してみると、ジメジメした石の下にコロコロと、急に石をどかされ、驚いて丸くなったダンゴムシちゃんたちがいました!
葉っぱの上に並べてみると模様のあるダンゴムシと模様のないダンゴムシがいます。写真の赤い囲いの中はおそらくはメスのダンゴムシです。真ん中の小さな黄色っぽいのがモゾモゾと動き出して逃げていく様子が下の写真です。これは絶対女子。そう思って見ているとなんだかかわいらしい。

赤で囲ったダンゴムシはおそらく女子

赤で囲ったダンゴムシはおそらく女子

このダンゴムシは特に模様が多くて金色に見えました

このダンゴムシは特に模様が多くて金色に見えました

4億年前に大繁栄した三葉虫も同じように丸まって外敵から身を守っていました。

4億年前に大繁栄した三葉虫も同じように丸まって外敵から身を守っていました

なぜ、カエルとダンゴムシの話をしているかというと、子ども体験ひろばアソビバ!の壁にこのふたつのキャラクターを描きこんでもらったからです。「まつもとのもり」と「まつもとファーム」という大型イラストの中にカエルが7匹、ダンゴムシが10匹隠れています。大人が見ても壁のシミのように見えてしまうかもしれませんが、子どもにとっては探す楽しみ、発見の喜びになると思っています。

みなさんの日常の中にもきっといる、カエルくんとダンゴムシちゃんをぜひ探してみてください。来週も引き続きアソビバ!の壁についてお伝えします。

Vol.056 ワークショップはいかがですか( R5.6.6 文責:岡 )

工芸の五月も終わりに近づく5月26日(金)、博物館のポケットパークでワークショップを開催しました。その名も「ちょこっとクラフト体験 松本城百年けやきでつくるカータリストラップ」。今回のコラムでは、そのワークショップについてご紹介したいと思います。

皆さんは“カータリ”と聞いて、ピンとくるでしょうか?カータリ(川渡り)とは松本やその周辺に見られる七夕人形のひとつで、天の川が増水した際、七夕様を背負って対岸まで連れていくという伝承があります。コラムのvol.027でも取り上げたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

実は今回のワークショップは、vol.027の最後に紹介したカータリストラップのワークショップについて、試験的に実施したイベントでした。

軒先にかざられる七夕人形の様子

軒先にかざられる七夕人形の様子

このワークショップでは、松本城の百年けやきから作られたカータリに紐を通し結びながら、自分だけのカータリストラップを作ります。それだけ聞くと簡単そうに思えますが、紐を扱う作業は思った以上にコツがいります。ワークショップを開催するにあたり、碇屋漆器店様のご協力で事前講習会を開き、制作手順を学びました。

当日に備え四苦八苦しながらも手順を学びました

当日に備え四苦八苦しながらも手順を学びました

完成した十人十色のカータリストラップたち

完成した十人十色のカータリストラップたち

開催当日はゲリラ的なイベントにも関わらず、多くの方にご参加いただけました。参加者の方からは「意外と難しいけど完成すると達成感がある!」「松本に住んでいるけどカータリは知らなかったので、今回知ることができてよかった。」との声がありました。

設営した様子

設営した様子

様々なかたにご参加いただきました

様々なかたにご参加いただきました

無事ワークショップを終えてみると、安堵するのと同時に、大小さまざまな課題も見えてきたように思います。今回の反省を生かしつつ、新しい博物館がオープンする頃には、松本の文化をより発信していけるようなワークショップを開催していきたいです。

Vol.055 「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」の修復 ( R5.5.30.文責:吉澤 )

今回は、新博物館の常設展示室で公開を予定している資料「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」についてご紹介します。

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 女乗物とは?

「女乗物」とは、江戸時代に徳川将軍家や大名家の女性が乗り物として使っていた駕籠のことです。江戸時代、駕籠の種類は利用する人の身分や用途によって厳しく分けられていました。

駕籠のなかでも、引き戸付きで装飾がほどこされた高級なものを「乗物」といい、特に女性用の乗物を「女乗物」と呼びました。「乗物」は主に公家や武家が使用しましたが、特に「女乗物」を持つことができたのは、さらに身分の高い家に限定され、武家の中では将軍家や大名家などが使用していました。

「女乗物」は婚礼の調度品として用意されることが多く、実用性を重視した男性用の乗物よりもきらびやかなデザインが目立ちます。ただし、そのデザインや扱える素材についても、使用する女性の身分によって決められていました。

 「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」はどんな資料?

今回ご紹介する「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、江戸時代後期頃につくられたものと考えられます。当時松本藩主であった戸田家に伝来し、その奥方などが使用していたのではないかと推定されます。
昭和61年(1986)に松本市へ寄贈され、平成7年(1995)に松本市重要文化財に指定されました。
引き戸を横にひき、屋根の一部をはね上げて出入りする構造です。
唐破風の屋根を持ち、窓には御簾がかけられています。

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錆色に梨地の漆塗りがほどこされ、松、竹、梅と大きな桐紋の蒔絵が描かれています。

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内部の様子です。格天井(木を組んで格子形に仕上げた天井)の中には、金地に様々な草花の絵が描かれています。

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縁辺や隅には、飾り金具や細工物を打った華麗な装飾がほどこされ、まさに「大名道具」と呼ぶにふさわしい威厳と格式が感じられます。

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常設展示に向けて~修復とクリーニング~

松本藩主戸田家の威厳と格式を象徴する資料として、旧館の頃から長らく展示されてきた本資料ですが、塗装された漆の剥落や長年の埃などが目立つようになってきたため、保存修復作業を行いました。市文化財課などの指導のもと、地元の漆職人の方々にご協力いただきました。

 剥がれてしまった漆の欠片を一点一点確認し、剥落前の状態に丁寧に戻していきます。

修復前

修復前

修復後

修復後

細やかなクリーニングによって、鮮やかな塗装の輝きがよみがえりました。

クリーニング前

クリーニング前

クリーニング後

クリーニング後

今回ご紹介した「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、新博物館3階の常設展示室で公開予定です。より当時に近い美しい姿で、来館された皆様をお出迎えしたいと思います!

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Vol.054 道祖神のこと ( R5.5.23 文責:石井)

道祖神とは境の神の総称で、石に文字や神の像を刻んだ碑を路傍にたてて祭られることが多いです。サエノカミ、サイノカミ、ドウロクジンなどと呼ばれる地域もあり、その存在は全国的にもみられます。

時代・地域により異なりますが、昔は村落守り神、道の神、疫病除けの神、豊作の神、子どもの守り神と多様な祈りをささげています。

松本市内の道祖神碑は600基を超え、四賀地区を筆頭に市域の東側に多い傾向がみられます。市内の道祖神のうち、4割が双体道祖神と呼ばれる男女一対の彫像で、これらは縁結びの神とされています。

江戸時代には、ムラが繫栄するとそのムラの道祖神が盗まれるということがあり、これを「道祖神の嫁入り」といいました。この道祖神を盗むと十両の結納金をいただくという意味の「帯代十両」と刻まれている道祖神もあります。

ここでは新博物館の周りにある2基の現代道祖神を紹介します。

道祖神

写真は新博物館竣工にあたり、松本石匠組合から寄贈された現代の双体道祖神「抱擁」です。博物館北東隅の大名町通り沿いに佇んでいます。

道祖神2

写真は博物館建設地にあった大手門駐車場(北棟)竣工時に建設共同企業体から寄贈された双体道祖神です。博物館建設にあたり、南側の土手小路沿いにある東洋計器大手門駐車場内広場に移設されました。

新博物館は松本まるごと博物館の起点、情報センター、市民の学びの場として活用され、博物館のにぎわいを街中へ波及させることが期待されています。「嫁入り」が心配されるくらいに博物館や周辺が繁栄するといいですね。

Vol.053 博物館の収蔵庫 (R5.5.16 文責:武井)

今回は、博物館の役割の一つである「収集保管」の根幹となる収蔵庫の設備を紹介します。

新博物館の収蔵庫

これは新博物館2階の収蔵庫です。
一見すると普通の倉庫ですが、博物館資料を末永く未来に伝えていくために様々な設備が導入されています。

 1 空調

Vol.40でもお伝えしたように、博物館資料にとって最も身近な大敵は虫とカビです。この虫・カビの繁殖を抑えるためにも、温湿度を調整してくれる空調は欠かせない設備の一つです。
博物館の空調は、収蔵庫を一定の温湿度に保つことももちろん重要ですが、それに加えて収蔵庫全体にくまなく空気を循環させることも大切です。
普通のエアコンのように、一か所の口からゴーっと空気が出るタイプの空調だと、吹き出し口近くの空間と遠くの空間で、空気の流れにムラができてしまいます。
空気の流れが悪い箇所ができてしまうと、湿度やほこりがたまり、カビの発生源や虫の住みかとなってしまう可能性があります。
そこで、新博物館収蔵庫の空調は少し変わった形になっています。先ほどの写真にも写っていますが、どれかわかりますか?

空調

正解は、天井に何本もぶら下がっている白く細長い筒です。
このもこもこした部分全体からじわーっと空気が出て、収蔵庫全体の空気を均一に循環させています。
ここから排出された空気は、壁の低い位置に設けられた吸気口に吸い込まれて出ていきます。
肌で感じることができないようなわずかな流れですが、このようにして常に空気が循環しています。

 2 壁

⑴ 珪藻土(けいそうど)の壁
写真に写っている黄土色っぽい壁はただの壁紙ではなく、珪藻土でできています。
珪藻土はバスマット等でも身近な存在で、水を垂らしても一瞬で乾いてしまう様子を見て、その吸水性に驚いたことがある人は多いのではないでしょうか。
実は、珪藻土は水分を吸収するだけでなく、外に排出もする調湿機能を持っています。
周囲の空間が多湿になっているときは水分を吸収し、逆に乾燥しているときは水分を放出してくれます。
つまり、先ほど紹介した空調設備だけでなく、収蔵庫の空間全体を覆う壁そのものも空気を調整してくれているのです。

 ⑵ 二重壁

急激な温度の変化は、結露やひび割れの原因となり、資料に大きなダメージを与えます。
それを防ぐための設備が二重壁です。
画像でお見せすることはできませんが、新博物館の収蔵庫は二重壁で囲まれており、外壁と収蔵庫の間に狭い空間が設けられています。

二十壁の仕組み

 そして、この二重壁内部の狭い空間も、空調により一定の温度に保たれています。つまり収蔵庫は、温度が一定に保たれた空気のクッションに包まれ、守られているのです。
この空気のクッションのおかげで、屋外の温度が急激に変化しても、収蔵庫内部の空気が急激に変化することはありません。

このように、表からは見えない設備が、博物館の根幹である収蔵庫を支えています。

Vol.052 博物館の照明(R5.5.9文責:原澤)

博物館の展示で一番の主役は展示資料ですが、今回は、そんな展示資料の魅力や存在を際立たせる、博物館展示室の照明器具について紹介したいと思います。

 以前の博物館では、高い天井にある照明を調整することは、非常に大変な作業でした。脚立に上り、スポットライトを設置し向き調光を行い、展示資料や展示パネルが見やすくできているかを確認するという作業を複数人で行っていました。また展示室内での脚立などを使った照明の調整は、資料を安全な場所に移動するなど、資料や展示ケースを傷つけないように大変慎重に行っていました。展示資料が沢山であったり、展示室が広いとさらに大変で、展示作業の終盤に行う作業と言うこともあって、学芸員泣かせな作業でした。

今回新しい博物館の展示室に導入された照明器具は、ライトの向きや調光だけでなく、光の色の変更や配光の角度の調整など様々なことが、スマートフォンのアプリを使い、地上にいながらできるようになりました。

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スマートフォンの操作画面

今まで照明の調整にかけていた時間を短縮することができました。また、光色や配光角度を調整できるようになったことで、様々な演出もできるようになり展示の幅も広がりました。

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光色の変更(左2700K、右5000K)

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配光角度を狭めた状態

新しい照明器具を使い、より見やすく、魅力的な展示ができるよう頑張っていきたいと思います。開館後に博物館へご来館の際は、照明なども少し気にかけていただけると嬉しいです。