Vol.094 真夏の撮影大作戦 ( R6.9.26 文責:前田)
手まりモビールがゆったりとたゆたう吹き抜けの導入展示エリアが、一夜限りの撮影スタジオに様変わりしたのは8月の全館休館日のこと。この日撮影したのは横5.3m、縦4.7mもの大きさを誇る西善寺の涅槃図(詳しくはこちらVol.067)。
この文化財はその大きさゆえ重量もかなりのもので、壁にかけると資料自体に負荷がかかってしまいます。そのため床面に平らに広げ、大きな涅槃図が画角におさまる高さまでカメラ機材を引き上げ、下向きに構えてシャッターをきる作戦で準備が進められました。
描かれたものがきめ細やかに再現され、この文化財の素晴らしさがしっかり伝わる高画質のデータを残す事が今回のミッション。最新の日本美術全集のデザインも手がけているおおうちおさむアソシエイトプロデューサーのアドバイスのもと、撮影は特殊な機材と技術を携えたプロのカメラマンの方に、大切な文化財の運搬に関しては美術専門スタッフのいる輸送業者の皆さんに、そして市民の皆さんと作り上げた手まりモビールを一時撤収するための、これまた専門の業者の方々それぞれに関わってもらい、博物館職員と当日博物館実習に来ていた大学生たちも加えた総勢40人を巻き込んだ大掛かりな撮影プロジェクトとなりました。
上方から撮影した際、画角に入ってしまう手まりモビールをこの日の朝イチで撤収。一つのモビールは大小10本ほどのバトンが連なっているので、下ろす際は大勢の手で受け取るようにしました。
この涅槃図には画面いっぱいに金彩が施されています。
金の部分が綺麗に撮影できるように、下から4mの高さまで、白い壁を一時的に黒くする必要がありました。A3サイズの黒い紙を54枚、ハシゴに登ってせっせと貼り付け、黒い壁を作っていきます。
西善寺から涅槃図を借り受け、博物館へ搬入するのはこの日の夕方の予定でしたが、天気予報は雨マーク。急きょ午前中に変更してもらい、雨の心配もなく無事博物館へお迎えする事ができました。所蔵者の方のご協力にも感謝です。
撮影は外光や車のライトの影響の少ない夜8時にスタート予定。この日の撮影班はアシスタント含め4人がかり。夕方から機材が続々と設置され、博物館が撮影スタジオと化しました。
2階の図書コーナーに高所作業車を設置し、さらに上へ上がっての撮影。その高さおよそ8m!危険が伴うため、人も資料も安全第一を心がけてとにかく慎重に。
準備が整い、いよいよ涅槃図が広げられます。荘厳な場面が姿を現すと、現場の空気が一段と張り詰めました。ほどなくして渾身のシャッターがきられるのでした。
撮影途中で壁紙を黒いパターンから、白いパターンへ早変わり。金彩を施した部分をよりよく写す条件と、それ以外の絵肌の調子を写しとる条件とに分けて撮影していきます。
こうして各プロ集団の知恵と技が結集した撮影大作戦は無事終了。画像の仕上がりが楽しみです。みなさんお疲れ様でした!
次の日の朝、開館時間前に手まりモビールを元の場所へ復帰させ、何事もなかったように来館者を迎えたある夏の日の博物館の出来事でした。
冬の特別展「春を待つ涅槃図」は令和7年2月1日㈯から3月3日㈪の開催です。市内外の貴重な文化財・涅槃図を博物館で公開します。ただいま展覧会準備の真っ最中。
どこかでポスターやチラシを見かけたら、裏でこんな撮影が行われていたのだと、ちょっとでも思い返してもらえたら嬉しいです。