Vol.020 市民の手で松本城天守木組模型を修理 (R4.1.17 文責:千賀)
新博物館の常設展示は、これまでの展示とは全く違う視点で一からつくり上げています。そのため展示する資料も、今までは展示されず収蔵庫に保管されていたものが数多くあります。
松本城天守木組模型もそのひとつ。昭和25年(1950)の松本城天守解体修理工事の際に製作された1/30の模型です。普段は壁に隠れている柱や梁など、5重6階の木造高層建築を支える構造を見ることができます。
製作から70年以上が経過し接着剤の劣化による部品の欠落などがみられることから、この機会に修理を行うことにしました。しかし、欠落した部品が本来どこに付いていたのか分からず四苦八苦。やはり建築の専門的知識なしには作業が進められませんでした。
そこで、市内在住の野村秀康さんに協力をお願いしました。もともと大工だった野村さんは、これまでに国宝旧開智学校校舎など数多くの建築模型を製作しています。野村さんの製作する建築模型はいずれも、外観だけでなく内部の構造も建築図面に基づいて精巧に再現された逸品です。
今回は、歴史資料の修復のため、破損や欠損した部材は同じ太さで複製していただき、補修材であることが分かるよう古色再現は行いませんでした。修理を終えた野村さんは「隅の軒の出を少し曲げるなど、松本城天守の構造の工夫が分かった」と大変興味深くお話しされていました。
今回の模型修理は、市民と一緒に進められたことが大きな成果でした。市民の宝である博物館資料を、市民の得意分野を活かして一緒に保存・活用していくことは、とても大切な活動だと考えます。市民の皆さんとともに歩み続ける博物館となるよう、これからも、皆さんと新博物館づくりを進めていきます。
Vol.019 仮囲いアートとイルミネーション ( R3.12.28 文責:高木)
展示とは関係ありませんが、お知らせです。
新博物館の建設現場の仮囲いアートが、来年1月4日より順次撤去されることになりました。まず最初に、資材搬入口設置のため大名町通りの2面が撤去されます。具体的には、高橋ヒロシ氏の人気漫画「クローズ」のキャラクター、河内鉄生さんと坊屋春道さんとはお別れです。仮囲いの前を通るたびに、鉄生さんの「すべてを受け入れよう!そこからはじめよう!」、春道さんの「さあ!迷っているその一歩をふみ出すのは今だ!」の力強い言葉は、コロナ禍の松本を歩く多くの人々を元気づけてきました。仮囲いの中で作業している方々への励ましにもなっていたと思います。
現在、松本市ではウインターフェスティバルが行われています。
仮囲いのある大名町通りには光のページェントとしてたくさんの光がまたたき、松本城に向えば「松本城~氷晶きらめく水鏡~」と題した美しいレーザーマッピングも見ることができます。松本城に向かう際には、ぜひいま一度仮囲いアートを見ていただければと思います。
土手小路側の鈴木ともこ氏のパノラマ壁画は来年2月以降に撤去の予定です。
2021年が終わろうとしています。
来年こそはコロナを気にせずに生活することができますよう、つらい気持ちを抱えている人が少しでも癒されるよう、祈らずにはいられません。
Vol.018 建設現場の親子見学会を開催しました (R3.12.13 文責:千賀)
日々工事が進む新博物館の建設現場では、大型重機や特殊な技を持つ多くの職人さんが活躍しています。市内でもこれほど大きな建設現場は少なく、建設中の今しか見られないことから、ぜひ市民の方にも見てもらいたい、そして、新博物館に親しみを持ってもらいたいと、11月13日に親子を対象にした現場見学会を開催したところ、10組26人に参加いただきました。
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大型クレーンで重い荷物を運ぶ作業や壁をつくる作業などを職人さんに実演してもらい、その技術に子どもも保護者の方も釘付けでした。今回は見学だけでなく、職人さんに教えてもらいながら工具を使ったり高所作業車に乗ったりなど、建設現場ならではの体験もできました。
最後には、柱に参加者全員でメッセージを書き込みました。このメッセージは、開館時には壁紙の下に隠れて見ることはできませんが、消えることなくずっと残ります。この日の思い出を忘れずに、開館したら自分が書き込んだ柱を訪ねてくれるとうれしいです。
今回の見学会を通して、たくさんの職人さんの丁寧な仕事によって博物館の建物ができていくことを、改めて実感しました。現場の職人さんは、誇りをもって博物館建設に携わってくれています。展示をつくる学芸員にも負けないくらいの、建設工事の職人さんたちの「良い博物館をつくりたい」という熱い想いを感じました。
建設に携わるすべての人の熱い想いによって、新博物館が完成へと近づいてきています。
Vol.017 映像で松本を伝える(R3.11.16 文責:福沢)
新博物館の1階エントランスホールには、縦1.2m×横4.6mの超ワイドのLEDビジョンを設置し、松本の見どころをご紹介します。
4月下旬にロケハン(下見)を実施し映像構成を検討してきましたが、本格的に撮影が始まり、先日、秋の松本の風景を撮影しました。
撮影は高精細のカメラを使い、ドローンによる撮影も行いました。いつも見慣れている風景もレンズを通すと違った形に見え、このアングルで撮影するとこんな見え方をするのか、ここってこんなにカッコ良かったんだなと新鮮な感覚でまちを見ることができました。
風景の切り取り方、撮影したスポットや場面のつなぎ方により松本の日常的な風景が印象的な映像となっていきます。改めてカメラマン、映像ディレクターさんが表現力や芸術的感性の豊かな人たちだと感じました。
松本まるごとビジョンの映像には様々な風景が登場しますが、ご厚意により撮影させていただいているものもあります。多くの市民のご協力のおかげで博物館の展示ができあがっていきます。
松本まるごとビジョンは来館者に松本を紹介し、実際に現地を訪れたくなるような映像としていきます。博物館の大型ビジョンで感動し、現地に行ってさらに感動してもらうための美しい映像に仕上げていきたいと思っています。映像クリエイターたちが表現する松本の姿を楽しみにしていてください。
Vol.016 松本てまりプロジェクト進行中(R3.10.14 文責:高木)
10月10日に、「松本てまりプロジェクト」てまりワークショップA~Dコース全4回が終了し、市民参加者の手によって作られるてまりのすべてがそろいました。参加者の皆様、本当にありがとうございました。
Cコースでは自由に色糸を選んで、カラフルで個性的な作品に仕上がりました。
Dコースでは、伝統的な作り方を「松本てまり保存会」の講師のかたに丁寧に教えていただき、まさに美しい八重菊模様ができあがりました。
預かったてまりは、アートプロデュースの土屋公雄氏、小松宏誠氏の手によって新博物館を象徴する作品となっていきます。新博物館の吹き抜けエントランスに、この「てまりモビール」が設置されるまで「松本てまりプロジェクト」は続きます。「松本てまりの思い出」募集も継続していますのでぜひご参加ください。
今回、展示製作業務を請け負っている乃村工藝社のスタッフも大活躍でした。
Vol.015 市民公開による文化財修復 (R3.9.24 文責:千賀)
新博物館の常設展示室で展示予定の「初市の宝船」。かつて初市の時に本町5丁目が繰り出したもので、平成5年(1993)に松本市に寄贈されてからは、商都松本の象徴として、長く博物館で展示されてきました。
製作から100年近くが経過し木部の破損や塗装の剥落が著しいことから、新博物館への移転に合わせて修復を行います。9月18日には、本町5丁目などの関係者に公開し地元の職人によって解体作業が行われました。参加者からは「地域の先人が残した文化財に誇りを持てた」とのお話のほか、「町会の倉庫に部品が残っているかもしれない」と新たな情報も得られました。
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今回の修復事業は、貴重な文化財を後世に残すだけでなく、修復技術を地元で継承する機会にしたいと考えています。持続可能な文化財の保存活用には、修復を担う人材の育成が大きな課題です。そのため、若手の職人や建築を学ぶ学生にも参加してもらいました。彼らが将来の松本の文化財修復を担ってくれればと願うばかりです。
新博物館の整備にあたっては、市民はもちろん、地元事業者にも様々な場面で参加していただき、地元の技術・文化の継承・発展につながればと考えています。
Vol.014 試作を重ねて(R3.8.24 文責:千賀)
新博物館の常設展示は、ただ資料を展示するだけではありません。模型やデザイン的な壁面を設置して、皆さんに分かりやすく、楽しく見ていただくことを予定しています。こうした造作物の製作で重要になるのが、大きさの検証です。観覧者の目線から見やすいか、他の展示物の邪魔にならないか、安全上の問題はないかなど、様々なシミュレーションを繰り返して大きさを決定していきます。
そのためには、実寸大の試作品による検証は欠かせません。試作品をつくり立体物として自分の目線で捉えると、図面では分からなかった課題が見つかります。そして、学芸員やデザイナー、製作技術者など、様々な立場の人との意見交換により、さらに良いものへと進化させていきます。
意見交換では時に厳しい議論にもなりますが、それも「良い博物館をつくりたい」という熱い想いから。この過程で妥協してしまっては、新博物館で皆さんに最高のものをお届けすることはできません。
こうした作業を一つずつ積み重ねて、新博物館の展示ができていきます。
Vol.013 新博物館の備品選定業務について(R3.7.29 文責:弘中)
今回は、コラムの全体的なテーマである展示からは少し離れますが、新博物館の備品選定業務についてご紹介したいと思います。
備品と聞いて、皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか。職員が使う机や博物館資料を収蔵する棚、来館者が休憩するベンチなど、様々なものが備品に含まれます。新博物館のどこに、どのような備品を設置するのか考えることが備品選定業務の主な仕事です。
日常の業務では、新しく導入する備品の検討や、新博物館への移転に向けた現博物館の備品整理を行っています。導入備品については、製品カタログや備品メーカーとの打合せを通じて検討を行っています。1つの備品でも使用方法・デザイン・材質等によって多くの製品があるため、選択肢が多く悩みながら選んでいます。
現博物館の備品整理では、新博物館へ持っていく備品、他の施設で再利用する備品、廃棄する備品などを判別する必要があります。整理する備品の中には展示ケースなども含まれるため、展示担当とも協力しながら業務に取り組んでいます。
新博物館には様々な備品が導入されますが、来館者の皆さんが「使いやすいな」、「おしゃれだな」など、少しでも印象に残るような備品を導入したいと思っています。また、備品の中には松本の伝統工芸品等の導入も検討しており、備品からも松本の文化を感じられる博物館を目指しています。
Vol.012 松本てまりプロジェクト (R3.7.5 文責:高木)
去る6月28日に、信州大学の金井直教授のゼミで松本てまりのワークショップを行いました。
このワークショップは新博物館が市民に開かれた博物館になるよう企画した「松本てまりプロジェクト」の一環で、エントランスの吹き抜け装飾を市民の皆様と一緒に作っていこうとするものです。
まず、アートプロデュースをしていただく、武蔵野美術大学の土屋公雄教授、新進気鋭の造形作家である小松宏誠氏から、模型を見ながらコンセプトの説明がありました。エントランスの吹き抜け空間を静かに浮遊する、木製バーと松本てまりを組み合わせたモビールです。
金井ゼミの学生はすでに、市民参加の博物館の在り方、松本てまりの歴史について学習しています。今回は「てまりモビール」に使用するてまりを実際に作ってみようということで、てまりを作るのも、針を持つのも初めてというような初々しい11名が授業の一環として参加してくれました。
途中、ディスカッションの時間をはさみながら、正味90分、真剣に針を運んだ結果、作者自身がびっくりするほど素晴らしいてまりが出来上がりました。すべて八重菊という伝統的な模様ですが、色の組み合わせ、針の運び方の違いで十人十色個性的なてまりとなりました。
今回、学生のみなさんから「想像以上に楽しかった」「てまりが好きになった」「新博物館に行くのが楽しみになった」などの感想を多くいただくと同時に、ワークショップの改善点も見えてきました。それらを活かして、9月から市民に向けたワークショップを企画していく予定です。
「松本てまりプロジェクト」は信大松本キャンパスから静かに力強く始動しはじめました。
Vol.011 松本てまり (R3.6.28 文責:高木)
松本てまりは松本を代表する民芸品であり、マンホールやお菓子のデザインなど松本の街の彩りとして欠かせないものとなっています。しかし戦後全く廃れてしまい、作り手がいなくなってしまった時期がありました。松本てまりが今日のように復活したのは、細い糸をつないでいくような、ある物語があったからです。
現在、博物館に収蔵されているてまりで一番古いものは昭和初年に寄贈された岩崎せんさんが作ったてまりです。せんさんは幕末安政元年前後の生まれと予想され、せんさんが作ったてまりは江戸期のてまりをほぼ再現しているといわれています。色はあせていますが、とても丁寧にかがられた美しいてまりが11種類あり、それぞれに名前が付けられています。
この、博物館に展示されていた岩崎さんの作ったてまりをもとに、松本てまりを再生したのが上條八尾さんです。八尾さんは幼いころ母親に作ってもらったてまりが忘れられず、記憶をたどって、てまり作りをしていました。その美しいてまりを見初め、松本てまりの再生を依頼したのが、丸山太郎さんでした。丸山さんは松本民芸館を創設し、クラフトのまち松本の礎を築いた方です。丸山家のひな祭りには必ず古いてまりが飾られていたそうです。
八尾さんが作ったてまりは繊細で美しく、今でも色あせない斬新な配色です。せんさんが残し、八尾さんが再生した伝統柄9種は、現在、松本てまり保存会のみなさんが博物館オリジナルとして制作し続けています。その他にも多くの方々が松本てまりの普及に尽力してきました。多くの市民の努力によって再生された松本てまりですが、そのもとになったのが、博物館に保存・展示されていた岩崎せんさんのてまりだったわけです。松本てまりの歴史の糸をつなぐのに一役かったのが、博物館だったことを誇りに思います。