Vol.010 建設現場で感じた職人さんの技術と情熱(R3.5.28 文責:堀井)
今回は建設現場の様子を見学させてもらいましたので、その時の様子を簡単にレポートしてみます。新博物館では、「プレキャストコンクリート造」の柱を使って建物を建てていくという特徴があります。
とても大きなクレーンを使って柱を据える位置まで移動させるのですが、クレーンと柱の位置とは何十メートルも離れています。それだけ離れているのに、柱を受ける基礎の部分は・・・。
たったのこれだけの大きさしかなく、それぞれの棒の位置まで見据えてピンポイントで設置します。周囲の職人さんとの連携があってこそですが、クレーン操作の技術にはただただ驚嘆するばかりでした。
設置された柱には、線が埋め込まれており、基礎の棒と線とを結んで引っ張ることで柱を固定するそうで、「張力」という力を使うことによって、柱だけで自立するそうです。学芸員としては、こういう難しい内容をわかりやすく・うまく伝えられないようにしないといけないのですが、まだまだ力不足です。
柱の設置後は、柱に対して2方向から測量をし、「4mm西」「1mm北」などの声が交わされていました。これだけ大きい柱に対してミリ単位の誤差を修正していくのです。職人さん曰く、「建物の1階で少しでもくるってしまうと、3階まで建てたときの歪みはもっと大きくなってしまうから」だそうです。頭が下がるばかりです。
現場見学をしていると、「学芸員さんに見てもらえて張り合いがでます、頑張ります。」と多くの職人さんに声をかけていただきました。
「リモートはいつか、リアルを完全に凌駕するか」。テレビで流れていたCMですが、現場・本物には人を動かす力や熱があることは事実です。本物を見てもらう・触れてもらうための博物館。最新のリモートという手段の力は借りつつも、リアルが持つ力を皆様に伝えられるよう、学芸員一同、これからも悩みつつもよりよい博物館にしていくために、前に前にと進んでいきます。
Vol.009 松本を再発見する(R3.5.7 文責:福沢)
新博物館は3階建てで、3階に常設展示室、2階に企画展などを開催するための特別展示室ができます。
1階は博物館の入口として、多くの皆さんに気軽に立ち寄ってもらえる空間を目指しています。
1階エントランスホールには、博物館に来られた皆さんを歓迎し、初めて松本に訪れた方にも現在の松本がどんなところかを知っていただくための展示をします。松本を紹介するには私たち学芸員が松本を知っていなければいけませんので、実際に現地に行って自分の目で確認することが必要です。
見てもらいたい、知ってもらいたい松本ってどんなところかなと考えながら改めて市内を訪ねてみると、
今まで知らなかった魅力に気づくことができたり、松本の良さとして再認識することができます。
市外や県外から来られた方にはもちろんですが、市民の皆さんにも松本の魅力を再発見してもらいたい。
新博物館がそんな場所となるよう展示を考えています。
アートプロデュース土屋・小松氏の現地視察 2021.4.20
松本てまりプロジェクトのアートプロデュースを引き受けてくださった土屋氏、小松氏が、新松本市立博物館の建設現場や地元木工業者を視察しました。世界的に活躍する公共彫刻家の土屋氏ですが、実際にお会いして、とてもエネルギッシュで魅力的な方だと感じました。プロジェクトを始めるにあたって、まずは松本の街を好きになってもらいたいと願っていましたが、移動するたびに「松本いいね!」と何度も言ってくださり安心しました。
まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。
まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞を受賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。
松本民芸家具の工場にて、てまりを乗せる木工バーをどのように作れるか相談し、椅子の上にてまりを置いて、木の色とてまりの相性などを検討しました。
次に、柳澤木工所に行き、木の種類と重さの検討などを相談しました。松本民芸家具も柳沢木工所も松本の民芸運動を担った老舗の木工所です。
今回制作するてまりモビールは、とことん松本らしさにこだわりたいと土屋氏が提案してくれました。お二人ともに、この視察を通して、松本の良さを生かす作品作りの足がかりをつかんだようでした。
Vol.008 レトロ玩具「かるた」(R3.4.23 文責:高木)
双六は楽しく遊びながら学べる、まさに、新博物館が目指す子どもの空間にぴったりだと前回のコラムに書きました。今回は「かるた」についてです。
かるたも双六と同様に歴史は古く、ポルトガル語の「Carta」が語源になっています。昭和初期にはお正月遊びの定番として人気がありました。種類も豊富ですが、最も有名なのは「犬棒かるた(いろはかるた)」でしょうか。「負けるは勝ち」「油断大敵」「楽あれば苦あり」「泣きつらにハチ」など今でも使えることわざの宝庫です。
かるたについて調査を進めるなかで見つけたのが「少国民カルタ」です。
昭和17年(1942)10月発行で、この年には「欲しがりません勝つまでは」が流行語となって
います。アンネフランクが日記を書き始めた年でもあります。
かるたには教育的側面もあると話しました。
しかし、この読み札と絵札を見ると胸が痛くなってきます。
どんな時代にあっても、大人は子どもの遊びに責任を持つべきです。
新博物館では子どもの遊びについてしっかりと考えなければと、このかるたを見て思いを新たにしました。
てまり制作体験 2021.4.12
てまりプロジェクトを進めるにあたり、自分たちがまず、てまりを作ってみようということになりました。伝統的な松本てまりを完璧に作るのはかなりハードルが高いということで、初心者向きのてまり作りを体験します。まず、中町の「手仕事商會すぐり」で開催しているワークショップにお邪魔し、特別に土台まり作りを体験させていただきました。
まず色選びから始まります。美しいグラデーションの無数の色糸の中から探すのはとても楽しい時間です。次に、もみ殻を芯にしてひたすらくるくると糸を巻いていきます。出っ張っているところを押さえながら段々ときつく巻いていき、下地が全く見えなくなったら出来上がりです。ほどけないように糸の処理をすれば、可愛いまんまるてまりに。およそ20分間、無心で糸を巻くのはどこか魔法めいた不思議な時間でした。
次に、松本市立博物館分館の歴史の里で松本てまり制作体験の講師をしている鈴木さんに、地まりの作り方、地割の仕方、かがり方などを教えてもらいました。
鈴木さんは簡単に作れる方法を考えたり、てまりでこけしを作ったり、様々なアイデアを持っていて、てまり作りを本当に楽しんでいました。
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今回、2種類のてまり制作体験を通して、松本てまりといっても作り手によって素材や技法に違いがあることが良くわかりました。おそらく江戸時代にも、その家庭ごとに異なる素材、作り方があったはずです。今後も、作り手のそれぞれの思いを尊重して、てまりプロジェクトを進めていきたいと思いました。
Vol.007 縁の下の力持ちは美しい。(R3.4.12 文責:三木)
いつもは「建設地の様子から」で工事現場についてご覧いただいていますが、今回は展示コラムに出張し、建築工事の様子を紹介してみたいと思います。
新博物館は『鉄筋コンクリート』の建物ですが、『鉄筋』は完成すれば隠れてしまう事から、一般の方が普段目にすることはないと思います。そこで今回は、建物を中から支える『鉄筋』に焦点をあててみました。
建物基礎の鉄筋を組み立てている様子です。鉄筋の太さの違いに注意しながら、設計図通りに組み立てるのはまさに職人技。
水道や空調の管が通るための穴の位置も、この時点で正確に設置しなければなりません。
鉄筋の一本の長さは、運搬の都合上長くても5mほどですが、博物館の基礎はもっと長いので、鉄筋をつなげて一本化します。
専用のガスバーナーで鉄筋を1,000℃以上に加熱し、一体化します。専門用語で『ガス圧接』と言います。
建物基礎鉄筋が組みあがった状態です。見えなくなるのが残念なほどの出来栄えです。
この後、型枠を組み上げコンクリートを流し込み『鉄筋コンクリート』の基礎となっていきます。
この工事現場では、鉄筋工事以外にも1年間で延べ7,000人以上の職人さんが活躍されています。今後も工事のいろいろな様子をお知らせしますので、お楽しみに!
Vol.006 人の思いを共有する(R3.4.2 文責:堀井)
松本市立博物館は移転新築のため、3月31日をもって閉館(一時休館)しました。Vol.000のコラムでは、この地での歩みを振り返るミニパネル展示を紹介しました。どんな「思い出の花」が咲いたのでしょうか。
多くの皆様の協力で、日々進化する展示が実現できました。ありがとうございました。実はこのインスタレーション、新博物館の常設展示に取り入れるための実験的な取組みでした。
その名は「ユアオピニオン」。博物館の展示を「館から来館者へ」の一方向のものから、「来館者から館へ」「来館者から来館者へ」という、双方向・交流に発展させていくことを目的にしたものです。
今回のパネル展の成果を踏まえ、新博物館の展示をより良いものにしていきます!
Vol.005 本物に触れる(R3.3.24 文責:千賀)
旧梓村(梓川地区)で明治33年(1900)から使用された消防ポンプ。手押しのポンプを台車に載せて火災現場に向かう、100年前の消防車です。新博物館の展示資料調査として、5月の新型コロナ対策の臨時休館期間に実物を使って放水実験をしました。台車からポンプを降ろし、ホースをつなぎ、水を入れてレバーを押すと勢いよく水が噴射し、実験は大成功でした。
しかし、準備から放水までに30分もかかり、4人の男性職員でもあっという間に体力がなくなり、レバーを押し続けることができませんでした。これが木造住宅の多い当時の火災現場だったらと思うと…。当時の消防組員の技術と体力の高さを改めて実感しました。
貴重な資料を適切に保管することは重要ですが、それと同じくらい、「本物」に触れることで資料の構造や昔の人の暮らしぶりを体感することも大切です。新博物館では、資料を展示するだけでなく、イベント等で「本物」に触れる体験をしてもらいたいと考えていますので、お楽しみに!
Vol.004 レトロ玩具「すごろく」(R3.3.16 文責:高木)
新しい博物館では「あそびはまなび」というコンセプトで、博物館でしかできないこどもの体験ひろばを設けます。体験を通して、こどもたちが楽しい時間を過ごすことはもちろん、保護者にとっても発見の喜びが共有できる、そんなモノを探しています。そこで、まず、昔の玩具に焦点をあててみました。今回は双六(すごろく)について紹介します。
この双六は昭和12年に「信濃日報社」が制作した「商売繁栄双六」です。現在でも続く松本の老舗の商店名が読み取れますので探してみてください。双六には遊びながら物の名前を覚えるという教育的側面がありましたが、こんな風に宣伝としても使われていたことがわかり、当時の風俗を語る歴史資料ともなっています。
他に「幼年行事双六」「乗り物双六」などが体験アイテムの候補にあがっています。
双六は明治後半より、少年少女雑誌の正月号の定番となり普及していきました。「振り出し」から「上がり」まで、サイコロを振って駒を進める単純な遊びが、お正月という、家族の時間の一コマを作っていたのかもしれません。それももう、昭和のノスタルジーでしょうか。新博物館の展示製作はひとつひとつしっかりと駒を進めているところです。
Vol.003 新博物館の常設展示室の構成について(R3.3.10 文責:福沢)
今回は、新博物館の常設展示の構成についてご紹介します。
皆さんも博物館に行かれたときに、旧石器時代や縄文時代から江戸時代または現代まで、古い時代から順番に地域の歴史を見ていく展示をご覧になったことがあるかと思います。
新博物館では、時代順の展示方法ではなくテーマごとの展示で皆さんをご案内します。
松本には多様な文化・自然遺産があり、これらを大切に守ってきた人々もまた松本の特徴です。松本の多様な魅力を知るための8つのテーマにより、皆さんに様々な視点から松本を知っていただく展示構成となっています。
一部をご紹介しますと、松本のシンボルの一つ松本城。そして江戸時代から商業の中心地であり、今のまちにもつながる商都松本。美ケ原や上高地に代表される自然豊かな山々。などの松本を知るうえで重要なポイントからテーマを設定しています。
どのテーマに一番興味をもっていただけるかは、ご覧いただく皆さんそれぞれですが、テーマごとに担当する学芸員の特徴が出てきていますので、楽しみにしていてください。