Vol.030 人にも資料のためにも必要な「枯らし」期間(R4.8.23 文責:福沢)
先月、建築工事が完了し、新博物館の外観が皆さんにもご覧いただけるようになりました。
現在は展示室に展示ケースや必要な機器などの設置作業を行っており、開館は令和5年10月を予定しています。
建物ができても開館まで時間が空いてしまうのにはとても重要な理由があります。
それが「枯らし」です。
新築の建物に入ると独特なにおいがしますが、新築後の建物ではコンクリートや壁紙などの内装材、使用された接着剤や塗装などから様々な化学物質や水分が放出されています。
放出されたアンモニアやホルムアルデヒドなどは、化学物質過敏症やシックハウス症候群の原因となることがあり、十分に対策することが法令等で定められています。
これらの化学物質は人体だけでなく資料にも悪影響を与えます。影響は下の表のとおりですが、文化財資料が被害を受けてしまうと取り返しがつきません。
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そのために、放出された汚染化学物質を換気し、文化財資料の展示・収蔵に望ましい濃度まで下げる通風乾燥期間が必要で、業界用語ではこれを「枯らす(枯らし)」と言います。
近年は温湿度管理のために高気密な展示ケースが主流で、展示ケースの内装材から発生する酢酸などの酸性ガスがわずかな量であっても、密閉度が高いために展示物に有害な影響を与える濃度にまで上昇する場合があり、展示ケース内部の枯らしも重要です。
文化庁の指針にも「鉄筋コンクリート造である保存施設の躯体の枯らし期間は、コンクリート打設後二夏以上を確保」とありますが、枯らしが終わらないと、松本市立博物館の国指定文化財をはじめとした多くの貴重な収蔵資料を新博物館に引越しすることができないのです。
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枯らし期間中には、水道やガス、電気など様々な設備を運転させてみて問題がないかを確認します。
これらも大切な資料を運び込む前に必要な作業です。
文化財資料が失われてしまうと、そのものが記憶してきた歴史も失われてしまいます。
貴重な松本の宝を未来へつなげていくために必要な作業を行い、新博物館開館の準備を進めています。