Vol.110 学芸員の試験認定を受験してきました(R7.6.5 文責:竹藤)

 昨年(2024年)12月に、学芸員の資格を取得すべく、東京まで試験認定を受験しに行ってきました。これまで音楽教員、公共施設(音楽ホール)と勤務してきた私ですが、松本市役所に移り、学芸員の資格を持たずして博物館に配属となった経緯があります。これも良い機会ととらえ、本格的に勉強することにしました。

  学芸員の資格を持つ方の多くは、大学等で所定の単位を修得することで、卒業と同時に資格を取得しています。平成9(1997)年度までは5科目10単位だった要件が、平成10(1998)年度からは8科目12単位、平成24(2012)年度からは9科目19単位となり、ハードルが順次上がっていることが分かります。

 私のように社会人となってから取得を目指す場合に、選択肢となるのが「試験認定」と「審査認定」です。今回話題にする試験認定は、大学で修得できなかった必要科目・単位を、筆記試験によって認定する制度になります。以前は毎年実施されていましたが、令和5(2023)年に施行された博物館法施行規則により、令和6(2024)年度から「少なくとも2年に1回」に変更となりました。

 加えて、全ての科目に合格した後、博物館での1年間の実務経験が必要です。つまり、今回筆記試験合格者となっても、学芸員と名乗れるのは令和7(2025)年度の終盤。不合格だった場合、次のチャンスはさらに2年後となってしまいます。

 「学芸員の資格認定についてー文化庁」

 さて、勉強を開始したのは昨年5月頃でした。教員免許を保有している関係で、1科目はすでに取得していたため、残る8科目の試験対策を行うことになります。具体的には「生涯学習概論」を除いた「博物館概論」「博物館経営論」「博物館資料論」「博物館資料保存論」「博物館展示論」「博物館教育論」「博物館情報・メディア論」の8つです。

 学習のセオリーとしては過去問題をあたりたいところですが、公開されているのは問題文のみで、解答解説等がありません。早速出端を挫かれながらも、まずは学芸員の養成課程等でテキストとして使用されている書籍に目を通すことにしました。

「博物館の歴史・理論・実践」

 教科別に編まれた参考書には古いものも多い中、こちらは平成29(2017)年発行と比較的新しく、最近の法改正等とのズレも少ないため重宝しました。もうひとつ、勉強を進める上で大いに役立ったのが「生成AI」です。実際の手順としては、公開されている過去問題をChatGPTやGeminiといった複数の生成AIに解答させ、記述内容が正しいかどうかを書籍に照らしながら進めていきました。特に試験認定では、複数の事実やデータを組み合わせた論述が求められることも多く、そうした問題はゼロベースで考えるよりも、出力された解答をもとに事実確認していくことで作業効率が上がります。

 令和5年度実施問題からさかのぼり、8教科5年分を終えたところでタイムリミットとなってしまいましたが、大別すると以下のような分類が見えてきました。

 

  1. 法令と博物館史

 ここでは、博物館の設置・運営の根拠となる「博物館法」をはじめ「文化財保護法」「文化芸術基本法」等が基本となります。条文の穴埋め形式のため、暗記のセクションではあるものの、博物館法であれば「博物館の事業」といったように、出題箇所にはパターンがあります。また、法改正のタイミングでは、ほぼ確実に改正のポイントが問われますので、忘れずに押さえておきたいところです。併せて、法令ではありませんが、日本における博覧会と博物館の起源についての記述も、穴埋め問題でよく見かけます。

 

  1. 博物館や学芸員に関する諸課題についての論述

 論述の問題については「財政課題」や「人員不足」をキーワードにしたものが多いため、公立博物館の財政状況や、諸外国との経営体制の違いについてデータを持っておくと解答しやすいというのが実感です。

 

  1. 用語解説

 いずれも定義を簡潔に書く形式になっています。解答欄のボリュームからして、長くとも50字程度の想定と思われます。私はいくつかの博物館に関する事典、情報技術等に関する事項は一般的な辞書から複数の定義を集め、こちらも生成AIに要約と補足を出力してもらいました(本文の後に、参考までに実際に使用した書籍を一覧にしておきます)。

 もちろんこれに加えて、特定の教科でしか出題されない分野もあります。たとえば教育論では、教員の養成課程でも学習するような、著名な教育者や教育法の知識が必要です。また、情報・メディア論では、マスメディアの歴史的変遷や、最新の情報技術に関する問題が頻出します。これらは上記1~3に加えて、少し個別の対策が必要です。

 

 ひと通り勉強した所感として、日々の仕事に取り組む上で、何かが劇的に変化したわけではありません。しかし、学芸業務の基礎となる知識や理解が深まったことで、実際に取り組むことが初めての業務についても、ある程度自信を持って踏み込めるようになりました。何かを発信する際にも、根拠を持って述べるということが、少しずつできるようになった気がします。反面、松本市に建つ地域の博物館の職員としては、まだまだ「松本学」初心者であり、より焦点を絞った勉強を継続していく必要性を感じました。

 結びに、試験の結果ですが、おかげさまで無事に全科目合格し、筆記試験合格者となることができました。ようやくスタートラインに立つことができた思いですが、机上の空論で終わることのないよう、今後の業務におけるひとつひとつの実践を大切にして、学芸員としてのスキルを充実させていきたいと思います。

 

参考文献

  • 今村信隆『博物館の歴史・理論・実践1―博物館という問い』
    京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎藝術学舎,2017.
  • 今村信隆『博物館の歴史・理論・実践2―博物館を動かす』
    京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎藝術学舎,2017.
  • 今村信隆『博物館の歴史・理論・実践3―挑戦する博物館』
    京都造形芸術大学東北芸術工科大学出版局藝術学舎藝術学舎,2018.
  • 全日本博物館学会『博物館学事典』雄山閣,2011.
  • 日本ミュージアム・マネージメント学会事典編集委員会『ミュージアム・マネージメント学事典』学文社,2015.
  • フランソワ・メレス,アンドレ・デバレ編,水嶋英治訳
    『博物館学・美術館学・文化遺産学 基礎概念事典』東京堂出版,2022.