Vol.84 浮世絵展関連事業を終えて part2 ( R6.3. 14 文責:小林 )
松本市立博物館開館記念特別展第2弾「至極の大衆文化 浮世絵 ―酒井コレクション―」は3月3日(日)をもって開催を終了しました。多くの皆さまにご来館いただきありがとうございました。
今回は、特別展の後期展示期間中(2月10日~3月3日)に開催しましたいくつかの関連事業の様子をお伝えします。
1 浮世絵の摺り体験講座【令和6年2月10日(土)午後1時30分~4時30分、2月11日(日)午前9時~正午・午後1時30分~4時30分、2月12日(月・祝)午前9時~正午・午後12時45分~3時10分】
現代の浮世絵彫り師としてご活躍されている朝香元晴氏を講師にお迎えして、浮世絵の摺り作業を体験していただく講座を開催しました。
講座の前半は、朝香氏に浮世絵の彫り(1ミリに3〜4本有る美人画の髪の毛の生え際の彫り)作業を実演いただき、至極の彫り技術に皆さん息をのんで見入っているご様子でした。博物館に展示されている浮世絵を鑑賞しただけでは気づくことができない彫りの精巧さ、繊細さを感じることができる時間になったかと思います。
講座の中盤から、いよいよ摺り作業を体験していただきました。今回は、一般的な浮世絵のサイズ(大錦判)ではなく、ポストカード大(小判)の版木を使い、摺り作業を行いました。伝統的な木版画の摺り作業と同様に、刷毛で顔料をつけ、和紙を版木に載せ、馬連で擦って色を摺り込んでいきます。とても難しい作業に、はじめは皆さんも悪戦苦闘していましたが、次第にコツをつかみ、きれいな浮世絵が完成しました。体験してみてこそ、浮世絵を作り上げる楽しさやたいへんさが感じられたかと思います。
今回の講座が、伝統的な浮世絵木版画に興味を持ち、後世へと継承していく一助になれば嬉しいです。
2 親子で楽しむ版画講座【令和6年2月18日(日)午後2時~4時】
版画家の田嶋健氏を講師にお迎えして、親子で版画を楽しむ講座を開催しました。今回は、田嶋氏が考案された修正液を使って手軽に制作できる版画を体験していただきました。冒頭に田嶋氏からレクチャーをしていただき、インクや版画用のプレス機を駆使して版画を作り上げていきます。皆さん思い思いの色を使って、自主的に制作されている姿が印象的でした。親子で版画という文化に親しんでいただくきっかけになったと思います。
3 浮世絵信州名所めぐり旅【令和6年2月25日(日)午前9時~午後4時30分】
江戸時代の終わりに流行した「浮世絵風景画」に描かれる長野県内の名所古跡を訪れ、浮世絵や長野の魅力を知っていただく講座を開催しました。当日は朝から雪が舞い開催が危ぶまれましたが、幸い雪が強まることなく、予定通り実施することができました。
講座の最初は、明治時代の錦絵や新版画と通称される昭和時代の浮世絵に描かれる松本城周辺を散策しました。当時と現在の松本市街を見比べ、考察することで、街並みや人々の営みの移り変わりを見ることができたと思います。
松本市街の散策が終わり、市のバスに乗車して、一路長和町へと向かいました。バスの出発後は、浮世絵の概要をはじめ、道中の名所などのバスガイドをさせていただきました。バスガイドは私自身もはじめての経験でとても緊張しましたが、参加者の皆さんがあたたかく聞いてくださったおかげで、リラックスして楽しくお話することができました。
およそ1時間の乗車で、長和町に到着しました。長和町には、中山道の宿場のひとつ、長窪宿(長久保宿)と和田宿があり、いずれも歌川広重・渓斎英泉が描いた浮世絵のシリーズ作品「木曽街道六拾九次之内」に描かれています。「長和の里歴史館」を訪れ、学芸員の方から長和町の歴史や長窪宿・和田宿のお話をしていただきました。また、滅多に見ることができないバックヤード・収蔵庫も見学させていただき、参加者の皆さんだけでなく、私たち博物館職員も興味津々でした。長和の里歴史館を出て、バス内で「木曽街道六拾九次之内 長久保」の説明をし、道の駅「マルメロの駅ながと」でお昼休憩を取りました。
午後のはじめは、和田峠を越え、先述の「木曽街道六拾九次之内」に描かれる下諏訪宿(正しくは下之諏訪宿)にある「宿場街道資料館」を訪れました。職員さんから色々なお話を伺い、下諏訪宿をはじめ、諏訪地域のことについて学びを深める時間になりました。
下諏訪町を出発し、今回の名所めぐり旅の最後に、葛飾北斎が「冨嶽三十六景 信州諏訪湖」を描いたとされる場所を訪れました。諸説があり、実際にその場所で描いたと断定することはできませんが、皆さん葛飾北斎に思いを馳せながら見学されているご様子でした。悪天候による視界の悪さで諏訪湖をきれいに眺めることはできませんでしたが、実際にその場所を訪れることなく、イマジネーションを働かせて風景を描くことが多かった浮世絵師の気持ちを感じていただく機会になったと思います。
今回の講座をとおして、本を読むだけでは学ぶことができない奥深い知識を得ることができ、学芸員としても貴重な経験になりました。悪天候の中、大勢の皆さんにご参加いただきありがとうございました。