建設地の定点撮影(2021年7月1日)


博物館施設の西側では、建設中の建物の上にタワークレーンが設置されています。通常のクレーン車ではなくタワークレーンを使用することで、建設工事により道路を占有する範囲を小さくしています。
 210701_from-south_to-west 210701_from-south_to-east
 210701_from-west?? 210701_from-east

Vol.011 松本てまり (R3.6.28 文責:高木)

 松本てまりは松本を代表する民芸品であり、マンホールやお菓子のデザインなど松本の街の彩りとして欠かせないものとなっています。しかし戦後全く廃れてしまい、作り手がいなくなってしまった時期がありました。松本てまりが今日のように復活したのは、細い糸をつないでいくような、ある物語があったからです。

 現在、博物館に収蔵されているてまりで一番古いものは昭和初年に寄贈された岩崎せんさんが作ったてまりです。せんさんは幕末安政元年前後の生まれと予想され、せんさんが作ったてまりは江戸期のてまりをほぼ再現しているといわれています。色はあせていますが、とても丁寧にかがられた美しいてまりが11種類あり、それぞれに名前が付けられています。

岩崎せんさん制作「八重づる桔梗」

岩崎せんさん制作「八重づる桔梗」

岩崎せんさん制作「遊星」

岩崎せんさん制作「遊星」

 
 この、博物館に展示されていた岩崎さんの作ったてまりをもとに、松本てまりを再生したのが上條八尾さんです。八尾さんは幼いころ母親に作ってもらったてまりが忘れられず、記憶をたどって、てまり作りをしていました。その美しいてまりを見初め、松本てまりの再生を依頼したのが、丸山太郎さんでした。丸山さんは松本民芸館を創設し、クラフトのまち松本の礎を築いた方です。丸山家のひな祭りには必ず古いてまりが飾られていたそうです。

上條八尾さん制作「八重菊」

上條八尾さん制作「八重菊」

上條八尾さん制作「遊星」

上條八尾さん制作「遊星」

 八尾さんが作ったてまりは繊細で美しく、今でも色あせない斬新な配色です。せんさんが残し、八尾さんが再生した伝統柄9種は、現在、松本てまり保存会のみなさんが博物館オリジナルとして制作し続けています。その他にも多くの方々が松本てまりの普及に尽力してきました。多くの市民の努力によって再生された松本てまりですが、そのもとになったのが、博物館に保存・展示されていた岩崎せんさんのてまりだったわけです。松本てまりの歴史の糸をつなぐのに一役かったのが、博物館だったことを誇りに思います。

建設地の定点撮影(2021年6月1日)


博物館敷地の西側に、建物の構造が表れてきました。今回の博物館の工事では、西から東にかけて5つの工区に分け、徐々に工事する場所を移っていく「建て逃げ」という方法で工事を進めています。
 OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA
 OLYMPUS DIGITAL CAMERA?? OLYMPUS DIGITAL CAMERA

Vol.010 建設現場で感じた職人さんの技術と情熱(R3.5.28 文責:堀井)

 今回は建設現場の様子を見学させてもらいましたので、その時の様子を簡単にレポートしてみます。新博物館では、「プレキャストコンクリート造」の柱を使って建物を建てていくという特徴があります。

吊り上げられる柱。実は重量15トン!

吊り上げられる柱。実は重量15トン!

 とても大きなクレーンを使って柱を据える位置まで移動させるのですが、クレーンと柱の位置とは何十メートルも離れています。それだけ離れているのに、柱を受ける基礎の部分は・・・。

900mm角の正方形に、9本の突起が出ている柱の基礎部分

900mm角の正方形に、9本の突起が出ている柱の基礎部分

 たったのこれだけの大きさしかなく、それぞれの棒の位置まで見据えてピンポイントで設置します。周囲の職人さんとの連携があってこそですが、クレーン操作の技術にはただただ驚嘆するばかりでした。
 設置された柱には、線が埋め込まれており、基礎の棒と線とを結んで引っ張ることで柱を固定するそうで、「張力」という力を使うことによって、柱だけで自立するそうです。学芸員としては、こういう難しい内容をわかりやすく・うまく伝えられないようにしないといけないのですが、まだまだ力不足です。

柱の傾きの計測。たった1mm、されど1mm。

柱の傾きの計測。たった1mm、されど1mm。

 柱の設置後は、柱に対して2方向から測量をし、「4mm西」「1mm北」などの声が交わされていました。これだけ大きい柱に対してミリ単位の誤差を修正していくのです。職人さん曰く、「建物の1階で少しでもくるってしまうと、3階まで建てたときの歪みはもっと大きくなってしまうから」だそうです。頭が下がるばかりです。
 現場見学をしていると、「学芸員さんに見てもらえて張り合いがでます、頑張ります。」と多くの職人さんに声をかけていただきました。

一本の柱にも多くの職人さんの技術や思いが詰まっています。

一本の柱にも多くの職人さんの技術や思いが詰まっています。

 「リモートはいつか、リアルを完全に凌駕するか」。テレビで流れていたCMですが、現場・本物には人を動かす力や熱があることは事実です。本物を見てもらう・触れてもらうための博物館。最新のリモートという手段の力は借りつつも、リアルが持つ力を皆様に伝えられるよう、学芸員一同、これからも悩みつつもよりよい博物館にしていくために、前に前にと進んでいきます。

 

Vol.009 松本を再発見する(R3.5.7 文責:福沢)

 新博物館は3階建てで、3階に常設展示室、2階に企画展などを開催するための特別展示室ができます。
1階は博物館の入口として、多くの皆さんに気軽に立ち寄ってもらえる空間を目指しています。
 1階エントランスホールには、博物館に来られた皆さんを歓迎し、初めて松本に訪れた方にも現在の松本がどんなところかを知っていただくための展示をします。松本を紹介するには私たち学芸員が松本を知っていなければいけませんので、実際に現地に行って自分の目で確認することが必要です。

現地確認のため急な山道も 登ります。 前の千賀学芸員はサクサク登っていきます。

現地確認のため急な山道も
登ります。
前の千賀学芸員はサクサク登っていきます。

 見てもらいたい、知ってもらいたい松本ってどんなところかなと考えながら改めて市内を訪ねてみると、
今まで知らなかった魅力に気づくことができたり、松本の良さとして再認識することができます。

松本藩主から領民に解放されたのが始まりの 城山公園。 200年近く経っても市民が集う憩いの場です。

松本藩主から領民に解放されたのが始まりの
城山公園。
200年近く経っても市民が集う憩いの場です。

 市外や県外から来られた方にはもちろんですが、市民の皆さんにも松本の魅力を再発見してもらいたい。
新博物館がそんな場所となるよう展示を考えています。

 

建設地の定点撮影(2021年5月6日)

今日は撮影のために現場に行くと、敷地南西側で何やら人だかりが…。何かと思ってよく見ると、建物を支える柱を立てていました。柱だけで本当に自立してました!詳しくは、また展示コラム(博物館の展示ができるまで)で紹介したいと思いますが、職人さんの技が凝縮されていて感動しました。
 OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA
 OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA

アートプロデュース土屋・小松氏の現地視察 2021.4.20

松本てまりプロジェクトのアートプロデュースを引き受けてくださった土屋氏、小松氏が、新松本市立博物館の建設現場や地元木工業者を視察しました。世界的に活躍する公共彫刻家の土屋氏ですが、実際にお会いして、とてもエネルギッシュで魅力的な方だと感じました。プロジェクトを始めるにあたって、まずは松本の街を好きになってもらいたいと願っていましたが、移動するたびに「松本いいね!」と何度も言ってくださり安心しました。

てまり時計の前で

てまり時計の前で

新博物館建設現場前で、中央が土屋氏

新博物館建設現場前で、中央が土屋氏

まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

モビールを確認する土屋氏

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

てまりを掲げてバランスを見る小松氏

まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞を受賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。

松本民芸家具にて

松本民芸家具にて

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

てまりと木の色合いの相性を検討

松本民芸家具の工場にて、てまりを乗せる木工バーをどのように作れるか相談し、椅子の上にてまりを置いて、木の色とてまりの相性などを検討しました。
次に、柳澤木工所に行き、木の種類と重さの検討などを相談しました。松本民芸家具も柳沢木工所も松本の民芸運動を担った老舗の木工所です。

柳沢木工所にて

柳澤木工所にて

熱心に質問する土屋・小松氏

熱心に質問する土屋・小松氏

今回制作するてまりモビールは、とことん松本らしさにこだわりたいと土屋氏が提案してくれました。お二人ともに、この視察を通して、松本の良さを生かす作品作りの足がかりをつかんだようでした。

 

Vol.008 レトロ玩具「かるた」(R3.4.23 文責:高木)

 双六は楽しく遊びながら学べる、まさに、新博物館が目指す子どもの空間にぴったりだと前回のコラムに書きました。今回は「かるた」についてです。
 かるたも双六と同様に歴史は古く、ポルトガル語の「Carta」が語源になっています。昭和初期にはお正月遊びの定番として人気がありました。種類も豊富ですが、最も有名なのは「犬棒かるた(いろはかるた)」でしょうか。「負けるは勝ち」「油断大敵」「楽あれば苦あり」「泣きつらにハチ」など今でも使えることわざの宝庫です。

犬棒かるた小

 かるたについて調査を進めるなかで見つけたのが「少国民カルタ」です。
 昭和17年(1942)10月発行で、この年には「欲しがりません勝つまでは」が流行語となって  
います。アンネフランクが日記を書き始めた年でもあります。

小国民かるた箱小

 かるたには教育的側面もあると話しました。
 しかし、この読み札と絵札を見ると胸が痛くなってきます。

小国民かるた小

 どんな時代にあっても、大人は子どもの遊びに責任を持つべきです。
 新博物館では子どもの遊びについてしっかりと考えなければと、このかるたを見て思いを新たにしました。

てまり制作体験 2021.4.12

てまりプロジェクトを進めるにあたり、自分たちがまず、てまりを作ってみようということになりました。伝統的な松本てまりを完璧に作るのはかなりハードルが高いということで、初心者向きのてまり作りを体験します。まず、中町の「手仕事商會すぐり」で開催しているワークショップにお邪魔し、特別に土台まり作りを体験させていただきました。

1色糸

 

 

 

 

 

 

まず色選びから始まります。美しいグラデーションの無数の色糸の中から探すのはとても楽しい時間です。次に、もみ殻を芯にしてひたすらくるくると糸を巻いていきます。出っ張っているところを押さえながら段々ときつく巻いていき、下地が全く見えなくなったら出来上がりです。ほどけないように糸の処理をすれば、可愛いまんまるてまりに。およそ20分間、無心で糸を巻くのはどこか魔法めいた不思議な時間でした。

2まき 3まき
5まき 4まき
出来上がったまきまきてまり

出来上がったまきまきてまり

「手仕事商會すぐり」で販売される作品

「手仕事商會すぐり」で販売される作品

次に、松本市立博物館分館の歴史の里で松本てまり制作体験の講師をしている鈴木さんに、地まりの作り方、地割の仕方、かがり方などを教えてもらいました。
鈴木さんは簡単に作れる方法を考えたり、てまりでこけしを作ったり、様々なアイデアを持っていて、てまり作りを本当に楽しんでいました。

 8さらし  9かがり
 10こけし 11紅白

 

 

今回、2種類のてまり制作体験を通して、松本てまりといっても作り手によって素材や技法に違いがあることが良くわかりました。おそらく江戸時代にも、その家庭ごとに異なる素材、作り方があったはずです。今後も、作り手のそれぞれの思いを尊重して、てまりプロジェクトを進めていきたいと思いました。

Vol.007 縁の下の力持ちは美しい。(R3.4.12 文責:三木)

 いつもは「建設地の様子から」で工事現場についてご覧いただいていますが、今回は展示コラムに出張し、建築工事の様子を紹介してみたいと思います。
 新博物館は『鉄筋コンクリート』の建物ですが、『鉄筋』は完成すれば隠れてしまう事から、一般の方が普段目にすることはないと思います。そこで今回は、建物を中から支える『鉄筋』に焦点をあててみました。

 基礎施工
 建物基礎の鉄筋を組み立てている様子です。鉄筋の太さの違いに注意しながら、設計図通りに組み立てるのはまさに職人技。
 水道や空調の管が通るための穴の位置も、この時点で正確に設置しなければなりません。

 基礎職人
 鉄筋の一本の長さは、運搬の都合上長くても5mほどですが、博物館の基礎はもっと長いので、鉄筋をつなげて一本化します。
 専用のガスバーナーで鉄筋を1,000℃以上に加熱し、一体化します。専門用語で『ガス圧接』と言います。

 基礎施完成
 建物基礎鉄筋が組みあがった状態です。見えなくなるのが残念なほどの出来栄えです。
 この後、型枠を組み上げコンクリートを流し込み『鉄筋コンクリート』の基礎となっていきます。 

 この工事現場では、鉄筋工事以外にも1年間で延べ7,000人以上の職人さんが活躍されています。今後も工事のいろいろな様子をお知らせしますので、お楽しみに!