Vol.023 取材を通して―みすず細工― (R4.3.25 文責:福沢)
新博物館の展示製作には多くの方にご協力いただき、さまざまなことを教えていただいています。今回は伝統工芸品のみすず細工を、松本みすず細工の会の取材を通して感じたことと併せてご紹介します。
みすず細工はザルやカゴ、弁当行李などのさまざまな種類の日常品が作られ、軽く丈夫なため、明治・大正時代には海外にまで輸出された松本のブランドとして盛んに生産されていました。時代の変化とともに、安価な大量生産品やプラスチック製品などが流通し、徐々に製作者が減っていきました。最後の職人が亡くなり製作技術が途絶えましたが、市民により復活プロジェクトが立ち上がり、プロジェクト終了後の今でも製作が続けられ、技術が継承されています。
みすず細工製作は、材料のスズ竹の採取から始まります。現在では長く真っ直ぐな竹を入手するのがとても難しくなってきているそうです。産業の衰退には、需要の減少だけでなく、材料の調達が困難になることも大きく影響しているとの話を実感しました。
竹を採ってくると乾燥する前に竹割りをし、内側を剥いで薄くし、削って幅を揃えてひごを作ります。過酷で地味な作業ですが、繊細なみすず細工を編むためには竹採りと竹割りがとても重要です。
編み方も、設計図や解説本として残されている訳ではないので、復活プロジェクトの際には博物館収蔵資料を観察し、昔の壊れかけた製品を分解したり、他地方の竹細工の技術を学んだりして、「松本の」みすず細工の技術を復元しました。会の皆さんのお話によると、熟練した職人の編むスピードはかなり早く、1日にザルを何枚も編み上げ、竹ひごの本数を数えたり確認することなく、身体が覚えているようにどんどんと編んでいたそうです。会の皆さんは現状に満足せず、自分たちの技術を高めていく向上心を持って日々作業をされていました。生まれ変わってもみすず細工をやりたいという話がとても印象的でした。
人から人へ受け継がれてきた技術は、職人が亡くなると、そこで技術が途絶えてしまいます。技術を継承するためには記録を残したり人に教えたり、日頃から技術を伝え残していく活動が必要です。取材を続けているなかで、新たにみすず細工を学び始めた方もいらっしゃいました。多くの人に知られ興味を持ってもらえれば、製作品を購入するだけではなく、学びたい、作りたいと思う人もいると思います。まずは、伝統工芸品のみすず細工の魅力を多くの人に知ってもらうことが第一歩です。
ここ2年は、クラフトフェアや商業施設の伝統工芸品展といったイベントの中止で、伝統工芸品を知ってもらう機会が減り、職人としても作品や技術を披露する機会が減っています。そんななか、伝統技術をつなげるために新しい博物館でできること、やるべきことをやっていきたいと思います。