Vol.013 新博物館の備品選定業務について(R3.7.29 文責:弘中)
今回は、コラムの全体的なテーマである展示からは少し離れますが、新博物館の備品選定業務についてご紹介したいと思います。
備品と聞いて、皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか。職員が使う机や博物館資料を収蔵する棚、来館者が休憩するベンチなど、様々なものが備品に含まれます。新博物館のどこに、どのような備品を設置するのか考えることが備品選定業務の主な仕事です。
日常の業務では、新しく導入する備品の検討や、新博物館への移転に向けた現博物館の備品整理を行っています。導入備品については、製品カタログや備品メーカーとの打合せを通じて検討を行っています。1つの備品でも使用方法・デザイン・材質等によって多くの製品があるため、選択肢が多く悩みながら選んでいます。
現博物館の備品整理では、新博物館へ持っていく備品、他の施設で再利用する備品、廃棄する備品などを判別する必要があります。整理する備品の中には展示ケースなども含まれるため、展示担当とも協力しながら業務に取り組んでいます。
新博物館には様々な備品が導入されますが、来館者の皆さんが「使いやすいな」、「おしゃれだな」など、少しでも印象に残るような備品を導入したいと思っています。また、備品の中には松本の伝統工芸品等の導入も検討しており、備品からも松本の文化を感じられる博物館を目指しています。
Vol.012 松本てまりプロジェクト (R3.7.5 文責:高木)
去る6月28日に、信州大学の金井直教授のゼミで松本てまりのワークショップを行いました。
このワークショップは新博物館が市民に開かれた博物館になるよう企画した「松本てまりプロジェクト」の一環で、エントランスの吹き抜け装飾を市民の皆様と一緒に作っていこうとするものです。
まず、アートプロデュースをしていただく、武蔵野美術大学の土屋公雄教授、新進気鋭の造形作家である小松宏誠氏から、模型を見ながらコンセプトの説明がありました。エントランスの吹き抜け空間を静かに浮遊する、木製バーと松本てまりを組み合わせたモビールです。
金井ゼミの学生はすでに、市民参加の博物館の在り方、松本てまりの歴史について学習しています。今回は「てまりモビール」に使用するてまりを実際に作ってみようということで、てまりを作るのも、針を持つのも初めてというような初々しい11名が授業の一環として参加してくれました。
途中、ディスカッションの時間をはさみながら、正味90分、真剣に針を運んだ結果、作者自身がびっくりするほど素晴らしいてまりが出来上がりました。すべて八重菊という伝統的な模様ですが、色の組み合わせ、針の運び方の違いで十人十色個性的なてまりとなりました。
今回、学生のみなさんから「想像以上に楽しかった」「てまりが好きになった」「新博物館に行くのが楽しみになった」などの感想を多くいただくと同時に、ワークショップの改善点も見えてきました。それらを活かして、9月から市民に向けたワークショップを企画していく予定です。
「松本てまりプロジェクト」は信大松本キャンパスから静かに力強く始動しはじめました。
Vol.011 松本てまり (R3.6.28 文責:高木)
松本てまりは松本を代表する民芸品であり、マンホールやお菓子のデザインなど松本の街の彩りとして欠かせないものとなっています。しかし戦後全く廃れてしまい、作り手がいなくなってしまった時期がありました。松本てまりが今日のように復活したのは、細い糸をつないでいくような、ある物語があったからです。
現在、博物館に収蔵されているてまりで一番古いものは昭和初年に寄贈された岩崎せんさんが作ったてまりです。せんさんは幕末安政元年前後の生まれと予想され、せんさんが作ったてまりは江戸期のてまりをほぼ再現しているといわれています。色はあせていますが、とても丁寧にかがられた美しいてまりが11種類あり、それぞれに名前が付けられています。
この、博物館に展示されていた岩崎さんの作ったてまりをもとに、松本てまりを再生したのが上條八尾さんです。八尾さんは幼いころ母親に作ってもらったてまりが忘れられず、記憶をたどって、てまり作りをしていました。その美しいてまりを見初め、松本てまりの再生を依頼したのが、丸山太郎さんでした。丸山さんは松本民芸館を創設し、クラフトのまち松本の礎を築いた方です。丸山家のひな祭りには必ず古いてまりが飾られていたそうです。
八尾さんが作ったてまりは繊細で美しく、今でも色あせない斬新な配色です。せんさんが残し、八尾さんが再生した伝統柄9種は、現在、松本てまり保存会のみなさんが博物館オリジナルとして制作し続けています。その他にも多くの方々が松本てまりの普及に尽力してきました。多くの市民の努力によって再生された松本てまりですが、そのもとになったのが、博物館に保存・展示されていた岩崎せんさんのてまりだったわけです。松本てまりの歴史の糸をつなぐのに一役かったのが、博物館だったことを誇りに思います。
Vol.010 建設現場で感じた職人さんの技術と情熱(R3.5.28 文責:堀井)
今回は建設現場の様子を見学させてもらいましたので、その時の様子を簡単にレポートしてみます。新博物館では、「プレキャストコンクリート造」の柱を使って建物を建てていくという特徴があります。
とても大きなクレーンを使って柱を据える位置まで移動させるのですが、クレーンと柱の位置とは何十メートルも離れています。それだけ離れているのに、柱を受ける基礎の部分は・・・。
たったのこれだけの大きさしかなく、それぞれの棒の位置まで見据えてピンポイントで設置します。周囲の職人さんとの連携があってこそですが、クレーン操作の技術にはただただ驚嘆するばかりでした。
設置された柱には、線が埋め込まれており、基礎の棒と線とを結んで引っ張ることで柱を固定するそうで、「張力」という力を使うことによって、柱だけで自立するそうです。学芸員としては、こういう難しい内容をわかりやすく・うまく伝えられないようにしないといけないのですが、まだまだ力不足です。
柱の設置後は、柱に対して2方向から測量をし、「4mm西」「1mm北」などの声が交わされていました。これだけ大きい柱に対してミリ単位の誤差を修正していくのです。職人さん曰く、「建物の1階で少しでもくるってしまうと、3階まで建てたときの歪みはもっと大きくなってしまうから」だそうです。頭が下がるばかりです。
現場見学をしていると、「学芸員さんに見てもらえて張り合いがでます、頑張ります。」と多くの職人さんに声をかけていただきました。
「リモートはいつか、リアルを完全に凌駕するか」。テレビで流れていたCMですが、現場・本物には人を動かす力や熱があることは事実です。本物を見てもらう・触れてもらうための博物館。最新のリモートという手段の力は借りつつも、リアルが持つ力を皆様に伝えられるよう、学芸員一同、これからも悩みつつもよりよい博物館にしていくために、前に前にと進んでいきます。
Vol.009 松本を再発見する(R3.5.7 文責:福沢)
新博物館は3階建てで、3階に常設展示室、2階に企画展などを開催するための特別展示室ができます。
1階は博物館の入口として、多くの皆さんに気軽に立ち寄ってもらえる空間を目指しています。
1階エントランスホールには、博物館に来られた皆さんを歓迎し、初めて松本に訪れた方にも現在の松本がどんなところかを知っていただくための展示をします。松本を紹介するには私たち学芸員が松本を知っていなければいけませんので、実際に現地に行って自分の目で確認することが必要です。
見てもらいたい、知ってもらいたい松本ってどんなところかなと考えながら改めて市内を訪ねてみると、
今まで知らなかった魅力に気づくことができたり、松本の良さとして再認識することができます。
市外や県外から来られた方にはもちろんですが、市民の皆さんにも松本の魅力を再発見してもらいたい。
新博物館がそんな場所となるよう展示を考えています。
建設地の定点撮影(2021年5月6日)
今日は撮影のために現場に行くと、敷地南西側で何やら人だかりが…。何かと思ってよく見ると、建物を支える柱を立てていました。柱だけで本当に自立してました!詳しくは、また展示コラム(博物館の展示ができるまで)で紹介したいと思いますが、職人さんの技が凝縮されていて感動しました。
アートプロデュース土屋・小松氏の現地視察 2021.4.20
松本てまりプロジェクトのアートプロデュースを引き受けてくださった土屋氏、小松氏が、新松本市立博物館の建設現場や地元木工業者を視察しました。世界的に活躍する公共彫刻家の土屋氏ですが、実際にお会いして、とてもエネルギッシュで魅力的な方だと感じました。プロジェクトを始めるにあたって、まずは松本の街を好きになってもらいたいと願っていましたが、移動するたびに「松本いいね!」と何度も言ってくださり安心しました。
まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。
まずは、小松氏作成の試作品を博物館講堂の天井から吊るして確認しました。てまりを持っているのが小松氏で、数々の賞を受賞している新進気鋭の美術家です。東京から部品を運び、その場で組み立ててくれました。博物館の狭い講堂の中でも十分に美しく、完成がさらに楽しみになりました。
松本民芸家具の工場にて、てまりを乗せる木工バーをどのように作れるか相談し、椅子の上にてまりを置いて、木の色とてまりの相性などを検討しました。
次に、柳澤木工所に行き、木の種類と重さの検討などを相談しました。松本民芸家具も柳沢木工所も松本の民芸運動を担った老舗の木工所です。
今回制作するてまりモビールは、とことん松本らしさにこだわりたいと土屋氏が提案してくれました。お二人ともに、この視察を通して、松本の良さを生かす作品作りの足がかりをつかんだようでした。