Vol.063 OMFの展示紹介( R5.7.25 文責:本間 )
松本市は、「楽都松本」と呼ばれるくらい音楽活動が盛んです。
楽都松本を代表する音楽祭として、「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」が挙げられます。
「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」の前身は、「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」です。
「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」は、平成4年に小澤征爾氏が創立した音楽祭です。この音楽祭の名称は、小澤氏の恩師である齋藤秀雄氏の名を冠して付けられました。
平成27年から「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」が、「セイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)」と名を変え、新たなステージに踏み出しました。
OMFでは、世界中の優れた音楽家たちが小澤征爾氏のもと、ここ松本に結集します。そして、サイトウ・キネン・オーケストラを中心に、オペラやコンサートなど多彩な演目が披露されます。
今年のOMFは、8月19日から9月6日にかけて開催される予定です。それに先立ち、現在、松本市立博物館でOMFに関する展示をしています。
今回は、その展示準備から完成までの様子を紹介します。
展示準備の様子。イーゼルに写真パネルを掛けているところです。
パネルの他に、色とりどりのミニTシャツも展示しました。
完成した展示の様子です。
数多くのパネル(全19枚)が展示されており、まさに圧巻です。
9月6日まで展示予定ですので、ぜひ足をお運びください!
Vol.062 常設展目玉資料!初市の宝船 ( R5.7.18 文責:原澤 )
今回は、新博物館の常設展示の目玉資料の一つである、初市の宝船を紹介します。宝船については、当連載コラムの中でも何回か紹介してきていますが(Vol.015 市民公開による文化財修復 (2021.09.24 更新)、Vol.029 職人の心意気(2022.8.5更新))、ここでは、初市の宝船の歴史に触れつつ、修復され新たな装いになった宝船について紹介します。
さて、この宝船ですが、今でも城下町で続けられている「あめ市※」の際に、本町5丁目が明治時代から昭和初期にかけて町に飾ったものです。全長5メートル、高さ4メートル、幅2メートルの大きさを誇る豪華な宝船と七福神人形は、平成5年(1993)に松本市立博物館に寄贈され、長く商都松本の象徴として常設展示室で展示されてきました。
※あめ市の名称は、時代により「初市」とも呼ばれた。資料名は使用された当時の祭りの呼び方である「初市」を使っている。
宝船は、初市の神輿行列の際に本町5丁目の練り物として江戸時代後期に造営されました。その後幕末の火災で焼失し、明治時代中期に再建されました。明治時代には、高さ約2メートル程の櫓に上に飾り、初市のなかでもひときわ目を引く飾り物だったとされています。
今回の宝船の修復は、作られた当時の状態にできるだけ近づけようとの考えから、船体の漆塗りもきれいに塗りなおしていただき、帆や旗、七福神人形は現存する資料をもとに、新たなものを制作してもらいました。帆柱は、以前の博物館の常設展示では天井の高さが足りなかったため、短いものと交換し展示していましたが、新しい博物館の常設展示では元々使われていた帆柱を使い展示できるようになりました。当時の初市の際に飾られていたきらびやかで迫力のある姿を再現できていると思います。
開館した際にはぜひ注目して見ていただき、当時の商都松本のにぎわいを感じてもらいたいと思います。
Vol.061 石灰華の採取in白骨温泉 ( R5.7.11 文責:武井 )
突然ですが、これはどこの風景でしょうか。
正解は白骨温泉です。
しかし、今回の目的は温泉ではなく「石灰華」です。
石灰華とは、温泉水の中に含まれるカルシウム成分が、地表面に湧き出して堆積した堆積物のことです。
白骨温泉の大地には石灰岩が分布しているので、白骨温泉の地下から上がってくる温泉水には石灰岩のカルシウム成分がたくさん含まれています。このカルシウム成分が温泉水の噴出により地表面に堆積したものが石灰華、この石灰華が堆積し続けて円錐形となった地形が噴湯丘です。
これほど大規模な噴湯丘がまとまってみられる場所は日本国内では類例がなく、大変貴重なことから、「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」という名称で国の特別天然記念物に指定されています。
上の写真は、その噴湯丘の一部を写したものです。成分が層状に堆積している様子がよく観察できます。
また、いたるところにこのような穴ぼこが開いています。これは噴出孔で、大昔にはこの穴を通って大量の温泉が噴出していたのです。
今までは藪に包まれうまく見ることができなかったこれらの石灰華ですが、近年整備が進み、見晴らしがよくなってきました。今後さらに整備されていく予定ですので、白骨温泉を訪れた際はぜひ探検してみてください。
新博物館の常設展示では、「開かれた盆地」というテーマで、松本市の温泉に関する資料を展示します。そこで白骨温泉の石灰華も展示予定なのですが、当館ではきれいな石灰華を所蔵していませんでした。
そこで今回、構造地質学の専門家である大塚勉先生ご指導のもと、特別な許可を得て、展示に適した石灰華の採取を実施しました。
まず探索を開始したのは、隧通し(ついとおし)の周辺です。
隧通しは天然のトンネルです。谷に石灰華の塊が崩落して谷を埋めた後、川によって内部が浸食されてトンネルができました。
現在は崩落の危険性が高い箇所があるため立ち入り禁止となっていますが、特別に許可を得て立ち入りました。
川の流れが激しく、隣の人の声を聞き取るのも一苦労です。
道なき道を進み、何とか河原に到着しましたが、残念ながらここでは展示に適した石灰華の発見には至りませんでした。
気を取り直して川の上流へ移動し、探索を再開。
先ほどの場所に比べ、流れはとても穏やかですが、河原にはたくさんの転石が転がっています。石灰華と思われる白い石も見られました。
足場が悪い河原を下流に進みながら探すこと10分ほど、ひときわ白い石灰華を発見しました。
取り出してみると…
全体的に白く、層状に堆積した様子がよく観察でき、大きさも程よい石灰華であることがわかりました。
大塚先生のお墨付きもいただき、展示用石灰華に決定です。
5㎏以上ある石灰華を何とか車まで運び、新博物館まで持ち帰りました。
持ち帰った石灰華は水やたわしでよく洗います。
表面についた土埃や苔が取れ、より白さが際立ちました。
この後、石灰華の特徴をよりよく知っていただけるよう、角度や照明を微調整しながら展示していく予定です。
開館した暁には、この石灰華がどこに展示されているかぜひ探してみてください(ちなみに、今回説明をしなかった「球状石灰石」も展示予定です)。
そして、博物館の展示をご覧いただいた後はぜひ白骨温泉現地にもお越しください。
白骨温泉の成り立ちを理解したうえで入る温泉は、きっと格別ですよ!
※「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」は国の特別天然記念物に指定されており、かつ中部山岳国立公園の特別地域内に該当するため、採取などの現状変更は原則禁止されています。また、立ち入り禁止区域に許可なく立ち入ることは絶対におやめください。
松本まるごと博物館の臨時開館のお知らせ
松本まるごと博物館では以下の日程で臨時開館を行います。
- 松本民芸館、はかり資料館、時計博物館/8月14日(月)
- 高橋家住宅/8月14日(月)、15日(火)、16日(水)
- 安曇資料館/7月18日(火)~8月18日(金)(土・日・休日は通常開館)
Vol.060 雑草という名の草はない( R5.7.4 文責:内川 )
今年度前半のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公は植物学者の牧野富太郎がモデルです。『日本植物学の父』とも呼ばれる人物がモデルということで、植物学というものが世間から注目される良い機会になっていると思います。
さて、前回(Vol.50)の引き続きで博物館周辺の自然を記事に、と思い立ったとき牧野博士が言ったとされる「雑草という草はない」という言葉を思い出しました。そこで、博物館周辺の『雑草』を調べてみることにしました。
『雑草』の定義は観点によって違いますが、性質としてはおおまかには「日当たりのいい整備された場所で、急速に成長する植物たち」です。昨年の建設地の様子の記事を見ると、博物館前の植込みなどは7月以降に整備された様です。作られてまだ1年、定期的に手入れがされている場所(今回見つけた雑草もそのうち抜かれてしまうでしょう)でも、たくましい『雑草』たちはどこからか入り込んで成長します。
イネ科の『雑草』
メヒシバ
いたるところに生えているので、誰もが一度は目にしたことがあると思います。
スズメノテッポウ
どちらの種も花が咲いているところです。イネ科の植物は花びらのない地味な花を咲かせます。イネ科に属する『雑草』はとても多く、他にもイネ科の植物がありましたが、穂が出ていない状態では私には判断が難しかったです。
キク科の『雑草』
イネ科の『雑草』とともによく見かけるのがセイヨウタンポポやヒメジョオン、ハルジオンなどのキク科の植物ですが、今回は目立つものでは1種しか見つけられませんでした。
ハキダメギク
ハキダメギクという名前は牧野博士が世田谷区の掃き溜めで見つけたことからついた名前だとか。
コゴメギクというよく似た種がいて(どちらも外来種)、正確に確認するには花を解体して、赤い矢印の部分に毛があるかを調べる必要があります。
カタバミの仲間
カタバミは果実が熟すとはじけて種子を飛ばすうえ、種子にエライオソームというアリが好む部分があるため、アリに運ばれて様々なところに拡散します。
カタバミ
在来種の野草で、道端など様々なところで見られる黄色の小さな花とハート形の三つ葉が特徴的な可愛らしい植物です。通常カタバミというと葉が緑色ですが、変異が大きく、写真は少し赤みがかっています。葉が赤いのはアカカタバミ、その中間型はウスアカカタバミとも呼ばれます。
オッタチカタバミ
カタバミによく似た外来種で、カタバミは普通地面を這うように成長するのに対して上に伸びるように成長するためこの名がついています。ただし、カタバミの中にも上に伸びる成長をするものがいるため、より正確に見分けるには葉の根本や毛など、細かい部分を確認する必要があります。
他にも名前が分かるものもすぐには分からないもの、様々な『雑草』が見つかりました。解説のとおり、名前を調べるためには非常に細かい部分を調べる必要があることも多く、ドラマの中でも図版で細かい部分まで描写する必要があるために印刷技術を学ぶ場面が描かれています。こうやって『雑草』の名前を調べることができるのも、牧野博士をはじめ先人たちの努力があったからこそです。
Vol.059 これで何見る?-展示室の双眼鏡-( R5.6.27 文責:宮下 )
上の写真は、新博物館3階の常設展示室内に備え付けている双眼鏡です。展示室と双眼鏡、一見アンマッチにも思える組み合わせですが、実際に使ってみると展示物と向き合う楽しさが2倍・3倍になる、かもしれないアイテムです。
今回のコラムでは、双眼鏡が置かれている展示と、その楽しみ方をご紹介します。
上記の双眼鏡が置いてあるのはここ。
常設展示室に入ってすぐ目の前に広がる松本城下町ジオラマ(模型)です。天保6年(1835)の松本城下絵図をはじめ、古地図など様々な資料を基に南北2.4km、東西1.2kmの範囲を300分の1スケールで推定復元しています。
訪れた人を江戸時代末期の松本城下へといざなう迫力のジオラマですが、その大きさのため、端から中央部を見るとやや遠くなってしまいます。また、ジオラマの中の人々は、指先ほどの大きさ。古写真などから再現したこだわりの街並みを見るのにも集中力が必要です。そこで細部まで良く見られるようにジオラマの南西部分と北東部分に双眼鏡を一台ずつ用意しています。
双眼鏡でジオラマ見ると、遠くの部分や小さいものが詳細に見られるだけでなく、周りの景色がさえぎられて当時の松本城下に入り込んだような臨場感が感じられます。拡大された世界を、道や川・堀に沿って見てみると、思わぬところで足止めをされたり、いつの間にか路地に迷い込んだり。時に町人や武士とすれ違いながら約200年前の松本を散策している気分が味わえます。
双眼鏡を使うことで、ジオラマの見え方が変わり広い視点とは異なる形で松本の町との出会いを楽しむことができます。「この道の繋がり方はどう見えたのだろう?」「川沿いを進むと建物がどのように現れるだろう?」。限られた視野だからこそ見えてくる景色があることにお気づきいただけると思います。
展示室の双眼鏡は、数が限られていますが、お手持ちのスマートフォンやカメラなどでも同様に楽しめます。開館の際には、こんな形の「町巡り」もぜひ楽しんでみてください。
ところで、偶然目に入った木の形が、馬のように見えたのは私だけでしょうか。
Vol.058 まつもとファームとまつもとのもり( R5.6.20 文責:高木 )
先週に引き続き、アソビバ!の壁について紹介します。
アソビバ!に入って右手の壁には、松本の森に生息している動物たちのイラストを並べた「まつもとのもり」が広がっています。イラストの木(クヌギ)にはスケールが入っていて背比べをすることもできます。現在はモニタリングで来てもらった開智小学校の生徒たちの名前が付箋で貼られています。次に来た時と比べてほしいのですが、付箋だらけになってイラストが見えなくなっても困るので剥がすタイミングを思案中です。
正面北側の壁は「まつもとファーム」。大きな不思議な木があって、木製マグネットを貼って遊ぶことができます。誰が貼ったのでしょうか。スイカがなっていて、カブトムシがよってきていたり、ウサギにカブ(松本の伝統野菜・保平かぶ)をたべさせていたり。こんなふうに、壁を使って子どもたちが自由に物語を作っていってくれたるのが楽しいです。ところで、カブの右のほうに前回紹介したダンゴムシちゃんがいるのがわかるでしょうか?
これらのイラストはすべてVol.037 で紹介した古荘風穂さんに描いてもらいました。実際の動物の特徴を丁寧に反映させつつも、リアル過ぎない絶妙な存在感があるイラストです。大きなツキノワグマからダンゴムシまで平面にとどまらない生き物たちのエネルギーで子どもたちの遊びの世界が大きく広がっていくのが楽しみです。
Vol.057 カエルくんとダンゴムシちゃん( R5.6.13 文責:髙木 )
カエルを主人公にした物語といえば、アーノルド・ローベルの「ふたりはともだち」。がまくんとカエルくんの友情に大人の心も温まります。島田ゆかさんの絵本「バムとケロのお買い物」のケロちゃんの可愛さも忘れることができません。そして、村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」のスーパーヒーローかえるくん。命をかけて東京を救ったかえるくんのことを思うと胸が熱くなります。
カエルはどうしてもかえるくん、男の子のイメージがあります。
一方、ダンゴムシとくればなぜか「ダンゴムシちゃん」とちゃんをつけたくなります。女の子というわけでもないのですがころんとかわいいイメージ(おそらくこれにはかなり異論があるでしょう)です。
気になってダンゴムシの雌雄について調べてみました。オスとメスの見分けなどつかないだろうと思っていたらなんと、オスとメスがわりと明確に見分けられるということです。真っ黒なのがオス、色が薄めで金色の模様があるのがメス。(ちなみに、急いで逃げているのがメス、追いかけているのがオスという判断のしかたもあるそうです。)
実際に探してみると、ジメジメした石の下にコロコロと、急に石をどかされ、驚いて丸くなったダンゴムシちゃんたちがいました!
葉っぱの上に並べてみると模様のあるダンゴムシと模様のないダンゴムシがいます。写真の赤い囲いの中はおそらくはメスのダンゴムシです。真ん中の小さな黄色っぽいのがモゾモゾと動き出して逃げていく様子が下の写真です。これは絶対女子。そう思って見ているとなんだかかわいらしい。
なぜ、カエルとダンゴムシの話をしているかというと、子ども体験ひろばアソビバ!の壁にこのふたつのキャラクターを描きこんでもらったからです。「まつもとのもり」と「まつもとファーム」という大型イラストの中にカエルが7匹、ダンゴムシが10匹隠れています。大人が見ても壁のシミのように見えてしまうかもしれませんが、子どもにとっては探す楽しみ、発見の喜びになると思っています。
みなさんの日常の中にもきっといる、カエルくんとダンゴムシちゃんをぜひ探してみてください。来週も引き続きアソビバ!の壁についてお伝えします。
Vol.056 ワークショップはいかがですか( R5.6.6 文責:岡 )
工芸の五月も終わりに近づく5月26日(金)、博物館のポケットパークでワークショップを開催しました。その名も「ちょこっとクラフト体験 松本城百年けやきでつくるカータリストラップ」。今回のコラムでは、そのワークショップについてご紹介したいと思います。
皆さんは“カータリ”と聞いて、ピンとくるでしょうか?カータリ(川渡り)とは松本やその周辺に見られる七夕人形のひとつで、天の川が増水した際、七夕様を背負って対岸まで連れていくという伝承があります。コラムのvol.027でも取り上げたので、覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
実は今回のワークショップは、vol.027の最後に紹介したカータリストラップのワークショップについて、試験的に実施したイベントでした。
このワークショップでは、松本城の百年けやきから作られたカータリに紐を通し結びながら、自分だけのカータリストラップを作ります。それだけ聞くと簡単そうに思えますが、紐を扱う作業は思った以上にコツがいります。ワークショップを開催するにあたり、碇屋漆器店様のご協力で事前講習会を開き、制作手順を学びました。
開催当日はゲリラ的なイベントにも関わらず、多くの方にご参加いただけました。参加者の方からは「意外と難しいけど完成すると達成感がある!」「松本に住んでいるけどカータリは知らなかったので、今回知ることができてよかった。」との声がありました。
無事ワークショップを終えてみると、安堵するのと同時に、大小さまざまな課題も見えてきたように思います。今回の反省を生かしつつ、新しい博物館がオープンする頃には、松本の文化をより発信していけるようなワークショップを開催していきたいです。
Vol.055 「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」の修復 ( R5.5.30.文責:吉澤 )
今回は、新博物館の常設展示室で公開を予定している資料「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」についてご紹介します。
女乗物とは?
「女乗物」とは、江戸時代に徳川将軍家や大名家の女性が乗り物として使っていた駕籠のことです。江戸時代、駕籠の種類は利用する人の身分や用途によって厳しく分けられていました。
駕籠のなかでも、引き戸付きで装飾がほどこされた高級なものを「乗物」といい、特に女性用の乗物を「女乗物」と呼びました。「乗物」は主に公家や武家が使用しましたが、特に「女乗物」を持つことができたのは、さらに身分の高い家に限定され、武家の中では将軍家や大名家などが使用していました。
「女乗物」は婚礼の調度品として用意されることが多く、実用性を重視した男性用の乗物よりもきらびやかなデザインが目立ちます。ただし、そのデザインや扱える素材についても、使用する女性の身分によって決められていました。
「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」はどんな資料?
今回ご紹介する「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、江戸時代後期頃につくられたものと考えられます。当時松本藩主であった戸田家に伝来し、その奥方などが使用していたのではないかと推定されます。
昭和61年(1986)に松本市へ寄贈され、平成7年(1995)に松本市重要文化財に指定されました。
引き戸を横にひき、屋根の一部をはね上げて出入りする構造です。
唐破風の屋根を持ち、窓には御簾がかけられています。
錆色に梨地の漆塗りがほどこされ、松、竹、梅と大きな桐紋の蒔絵が描かれています。
内部の様子です。格天井(木を組んで格子形に仕上げた天井)の中には、金地に様々な草花の絵が描かれています。
縁辺や隅には、飾り金具や細工物を打った華麗な装飾がほどこされ、まさに「大名道具」と呼ぶにふさわしい威厳と格式が感じられます。
常設展示に向けて~修復とクリーニング~
松本藩主戸田家の威厳と格式を象徴する資料として、旧館の頃から長らく展示されてきた本資料ですが、塗装された漆の剥落や長年の埃などが目立つようになってきたため、保存修復作業を行いました。市文化財課などの指導のもと、地元の漆職人の方々にご協力いただきました。
剥がれてしまった漆の欠片を一点一点確認し、剥落前の状態に丁寧に戻していきます。
細やかなクリーニングによって、鮮やかな塗装の輝きがよみがえりました。
今回ご紹介した「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、新博物館3階の常設展示室で公開予定です。より当時に近い美しい姿で、来館された皆様をお出迎えしたいと思います!