Vol.055 「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」の修復 ( R5.5.30.文責:吉澤 )

今回は、新博物館の常設展示室で公開を予定している資料「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」についてご紹介します。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 女乗物とは?

「女乗物」とは、江戸時代に徳川将軍家や大名家の女性が乗り物として使っていた駕籠のことです。江戸時代、駕籠の種類は利用する人の身分や用途によって厳しく分けられていました。

駕籠のなかでも、引き戸付きで装飾がほどこされた高級なものを「乗物」といい、特に女性用の乗物を「女乗物」と呼びました。「乗物」は主に公家や武家が使用しましたが、特に「女乗物」を持つことができたのは、さらに身分の高い家に限定され、武家の中では将軍家や大名家などが使用していました。

「女乗物」は婚礼の調度品として用意されることが多く、実用性を重視した男性用の乗物よりもきらびやかなデザインが目立ちます。ただし、そのデザインや扱える素材についても、使用する女性の身分によって決められていました。

 「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」はどんな資料?

今回ご紹介する「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、江戸時代後期頃につくられたものと考えられます。当時松本藩主であった戸田家に伝来し、その奥方などが使用していたのではないかと推定されます。
昭和61年(1986)に松本市へ寄贈され、平成7年(1995)に松本市重要文化財に指定されました。
引き戸を横にひき、屋根の一部をはね上げて出入りする構造です。
唐破風の屋根を持ち、窓には御簾がかけられています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

錆色に梨地の漆塗りがほどこされ、松、竹、梅と大きな桐紋の蒔絵が描かれています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

内部の様子です。格天井(木を組んで格子形に仕上げた天井)の中には、金地に様々な草花の絵が描かれています。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

縁辺や隅には、飾り金具や細工物を打った華麗な装飾がほどこされ、まさに「大名道具」と呼ぶにふさわしい威厳と格式が感じられます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

常設展示に向けて~修復とクリーニング~

松本藩主戸田家の威厳と格式を象徴する資料として、旧館の頃から長らく展示されてきた本資料ですが、塗装された漆の剥落や長年の埃などが目立つようになってきたため、保存修復作業を行いました。市文化財課などの指導のもと、地元の漆職人の方々にご協力いただきました。

 剥がれてしまった漆の欠片を一点一点確認し、剥落前の状態に丁寧に戻していきます。

修復前

修復前

修復後

修復後

細やかなクリーニングによって、鮮やかな塗装の輝きがよみがえりました。

クリーニング前

クリーニング前

クリーニング後

クリーニング後

今回ご紹介した「松竹梅と桐紋蒔絵の女乗物」は、新博物館3階の常設展示室で公開予定です。より当時に近い美しい姿で、来館された皆様をお出迎えしたいと思います!

OLYMPUS DIGITAL CAMERA