Vol.038 博物館での体験ってなに(R5.1.31 文責:千賀)

ひと昔前の博物館といえば、展示を「観覧」する場所というイメージでしたが、最近では「体験」という要素が重要視されています。確かに、解説文を読み展示資料を見るだけよりも、自分で触れる・操作するといった体験要素があるほうが、関心が高まり理解が深まるとともに、なにより楽しいですよね。また、観光の志向も「モノ消費」から「コト消費」へと変化しつつあり、飲食や買い物だけでなく「そこでしかできない体験」に価値を求めるようになっているようです。

 新博物館の展示にあたっても、どういった体験を提供すべきなのかを何度も議論し、実際にいくつかの博物館で最新のコンテンツを体験してみました。VRやAR、プロジェクションマッピングといった映像・デジタルコンテンツでは、クイズやゲームなど様々なシミュレーションを楽しめました。また、資料のレプリカに触れて、模様の複雑さや重量を感じるコンテンツもありました。

どれも楽しいものでしたが、導入に向けてはどうかなと思うところもありました。

ひとつは、すでに実施されているコンテンツを参考にしたところで、二番煎じになってしまい陳腐化してしまうことです。ほかの施設と似たことを実施しても「そこでしかできない体験」ではなく、それを目的に来る人はいないでしょう。また、デジタル技術の発展は著しく、せっかく導入しても数年後には時代遅れになってしまう可能性もあります。

もうひとつは、ゲーム的な「楽しさ」が博物館の体験の本質なのだろうかということです。ゲーム的なコンテンツは博物館の楽しさを伝えるための「手段」であり、大切なのは、そこで伝えたい本質は何かということです。

 日々の業務を振り返ると、学芸員はいろいろな資料に触れています。例えば、4,500年ほど前の縄文土器に触れると、時空を越えて土器を作った縄文人と対話している気持ちになります。どんな資料でも、触ってみると「見た目よりも重いな」「この出っ張りは何だろう」「表面がザラザラしてるな」「ここに書いてある文字は…」など、多くの疑問と発見があります。疑問と発見を結び付けながら「資料と対話する=当時の使用者・製作者とつながる」ことは、とっても楽しいです。やはり本物に勝るものはありません。これこそ、博物館でしかできない体験だと考えます。

これを学芸員しかできないのは、もったいないですよね。もちろん、皆さんが資料に触れることで汚れや破損のリスクは高まるので、多くの博物館では本物ではなくレプリカを体験に使っているのだと思います。しかし、学芸員が立ち会いサポートすることで解決できるのではないでしょうか。また、学芸員との会話も生まれ、体験がさらに楽しくなるのではないでしょうか。体験を通して「資料との対話」と「学芸員との会話」を楽しんでもらうことは、博物館の敷居を下げることにもなります。機械任せではなく、博物館のヒト(=学芸員)とモノ(=資料)を楽しんでいただくことこそ、「松本市立博物館でしかできない体験」になればと考えています。

縄文土器と弥生土器を持ってみる

縄文土器と弥生土器を持ってみる



 
昔の電話を使ってみる

昔の電話を使ってみる



 

ということで、前置きがかなり長くなってしまいましたが、現在、本物の資料に触れる体験プログラムを検討しています。それとともに、学芸員のトーク力もトレーニング中ですので、ぜひ、お楽しみにお待ちください。開館後は、「松本の博物館で本物の○○を触ってみたら…」なんて声が聞けるとうれしいです。