「松本の子どもの短歌・2021」作品展を開催しています(3月12日~4月17日)

DSC03414窪田空穂記念館では、毎年、松本市内の小・中学生から短歌を募集し「松本の子どもの短歌(うた)」を開催しています。
19回目を迎えた今年度は、全体で4,685首の応募があり、その中から最優秀賞4首、優秀賞20首、空穂会賞217首が選ばれました。作品展では、入賞した241首の作品を紹介しています。

会   期〕 3月12日 (土)~ 4月17日 (日)

〔会   場〕 窪田空穂記念館・会議室

〔観覧料〕 通常観覧料 (作品展のみ観覧は無料)DSC03406

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

【3月の短歌】 

       花の枝に来ては見下ろす庭雀 

                   さがす物ありて汝れら忙しき
                             歌集「木草と共に」所収 
                                                 

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   冬の去らない庭に雀が忙しく餌を求めている
   様子詠んでいます。
   雀は身を守ることに敏感で、木の枝に来ては地上を
   見下ろしまわりを伺っています。

 この短歌を詠んだ空穂は80代半ば、足腰も不自由になり足もとがおぼつ                  かないため歩くことにも注意をするような生活を送っていました。四畳半の小書斎に籠り、ガラス戸の外に忙しく働いている雀の動作を細かく眺めるところに、老をしみじみ感じていることを味わいとることができる作品です。
 空穂の書斎の前の空地には、小庭があり石が置かれ木や草が植えられていて老の身の疲れやすい目を遊ばせるのに十分でした。     

04-145-002 空穂はなぜ「木草と共に」を刊行したのでしょう・・・
昭和39年、空穂はいわゆる米寿にあたっており、この年
諸友から祝賀の会を開いていただいています。そこで、自分でも自祝のを心持って何か記念になることをしたいと思い、老の心やりに詠んできた短歌を編んだのです。

 

(米寿の祝賀の会写真)

 

                                                                                  

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔2月の短歌〕

二月の日天に夢見て夢の数落ししと見る白梅の花

(にがつのひ そらにゆめみて ゆめのかず おとししとみる しらうめのはな)

                                                                                                               歌集『まひる野』所収

 

 DSC03240+歌集『まひる野』より、「そよ風」と題してまとめられた42首の内の1つです。『まひる野』は空穂の第1歌集であり、空穂が短歌を始めた23歳頃から28歳までの歌がまとめられています。
 2月のまだ冷たい大気の中、空に伸びる枝から散っていく数多の花びら。その様子を白梅が抱いた夢のように捉え、清純であわれな様子を詠んでいます。当時空穂は東京都文京区にある湯島天神の近くに下宿しており、その境内の梅の花を見て詠まれた歌です。
 空穂は美しい落花を見て、それを夢と表しましたが、それは自身の心情と重なるところがあったのだと思われます。夢とは、空穂自身が抱いた数々の夢でもあるのです。若い空穂は多くの夢を抱き、それが破れてさびしい現実に帰ります。しかし、自身の胸中にある夢はたとえ現実のものとならなくても尊く、美しいと感じています。
 この歌について窪田章一郎氏は、『「天に夢みて夢の数」と「夢」という語を二つ用い、一首の中で重く働かせているのは、白梅の花と人間とを差別なく感じていることの現われで、青年の若い希望をこめるこの語によって人事と自然とが結ばれ、気分の豊かさを味わわせる歌である』(「窪田空穂の短歌」)と解説しています。

 

 

令和3年度冬日ざし中止の知らせ

新型コロナウイルス感染拡大状況を踏まえ、下記事業を中止いたします。
大変申し訳ございませんが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

中止事業詳細

冬季文化講座 『冬日ざし』
開催日   第1回  2月 5日(土)(中止)
      第2回  2月12日(土)(中止)
      第3回  2月19日(土)(中止)
      第4回  2月26日(土)(中止)
時 間   午後1時30分~3時

「百人一首教室」中止のお知らせ

1月15日開催予定の「百人一首教室」は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止とさせていただきます。
楽しみにされていた皆さまには大変申し訳ございませんが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔1月の短歌〕

 昭和3年初頭の作品。空穂51歳の時の作品です。

 
生活は一に信なり信あらば道おのずから開けゆくべし

(せいかつは いちにしんなり しんあらば みちおのずから ひらけゆくべし

                                       歌集『青朽葉』所収

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 この歌は第11歌集「青朽葉」に収められています。「年加はれる子らを見て」と題する一連3首の中の1つです。20歳の長男章一郎、15歳の長女ふみに対して、さとすように伝えています。
 歌の意味は、「どのような時代になっても、生きていく上で大切なものは信である。その信があれば、生きる道は必ず開けていく」と正に歌の詞通りです。これは、空穂が自身の半生を振り返り、学んできたことをこれから世にでていく子どもたちに伝えようとしたものです。価値観が多様化し、多くの情報が溢れている現代においても、ぐっと心に響く歌であり、特に若い人たちには心に置いてほしい歌のひとつです。
 若い頃から空穂翁と呼ばれていた空穂の作品には、掲歌のように人生訓として味わえるような内容のものも多くあります。二首ほどあげてみたいと思います。


もろき器いたはるに似ていたはれと古人も教えけり君 (濁れる川)

人の為に人は生まれずその人をよしとあしきとわが為にいふな (鏡葉)

 
 空穂の実感から生まれたたくさんの人生訓は、現代の私たちの心にも響き、多くの事に気づかせてくれます。令和4年、新しい年がスタートしましたが、空穂の歌に学びながら、実り多き1年になればと願っています。

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

   あご髯の白髪まばらに伸び立ちて 

                ほしけ薄の穂のごと

                         第21歌集『木草と共に』

風邪をひいて剃刀をつかわず過ごした日の歌空穂(12月)

下句のたとえから察すると、かなり日数が経ていたことがわかります。                           それにしても「ほけし薄の稲」は度がすぎているのでは・・・              と息子の章一郎氏も語っています。                                                        残念ですが、どのようなお顔だったのかは今となっては想像するしかありません。章一郎氏もきっとユーモアを添えようと思ったのでしょうと言っています。
空穂の髯は濃くはなく「まばら」と歌にある通りだったそうです。           西洋剃刀を愛用して、石鹸を泡立てて顔に塗り、いつも一人で剃っていたようです。おそらく腕に自信があったのでしょう。
歌をユーモアに詠んでいるこの時は、体調がよくなったと思われます。

『木草と共に』
昭和35年から38年、空穂満83歳から86歳までの4年間の短歌847首がおさめられており、その中の1首です。
空穂も日々少しずつ体の衰えを感じているためか、老境へと向かっていきる空穂の心境が詠まれている作品が目にとまります。                                              

令和3年度 空穂生家子ども教室「将棋教室」を開催します

窪田空穂の生家で将棋教室を開催します。憧れのプロ棋士と対局してみましょう!

講 師 石川 陽生七段   田中 悠一五段syougi_shidou
    日本将棋連盟塩尻支部の皆さん

日 時 令和3年 11月27 日(土)
    ★午前の部(小・中学生対象)  午前10時~正午
    ★午後の部(小・中学生対象) 午後1時~3時
    ※内容は午前午後共通です

定 員 各部15名(先着順)
    ※参加希望は午前か午後のどちらかのみになります

会 場 窪田空穂生家(窪田空穂記念館向かい)

料 金 無料

申 込 電話又はFAXで窪田空穂記念館まで
    ☎ 0263(48)3440 FAX(48)4287

●コロナ対策のお願い

・感染防止のため人数を少なくして実施します
・対象は小中学生のみとします
・感染状況によっては将棋教室を中止にする場合があります
・マスク着用の徹底をお願いします
・生家入り口で検温、手の消毒を行います

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔11月の短歌〕

  枝はなれ地のものとなるくれなゐにDSC02942

       染み極まりて照れる楓葉

  (えだはなれ ちのものとなる くれないに

      しみきわまりて てれるかえでば)

              歌集『老槻の下』所収

 
 1958年、空穂81歳のころに詠まれた歌で、「立冬の空」と題された4首の内の1首です。
 立冬の日の地上の様子です。楓の紅葉が枝を離れ、地上に落ちても同じような美しさを見せている。晴天の日に照らされて、その紅は極みに達していると詠んでいます。落葉は生命の晩年を思わせ、その様子を見ている老齢になった空穂自身とどこか重なります。しかし哀愁を詠うのではなく、詩の調子は明るく活力があります。

 

DSC02944   新衛星生まれ出でてはめぐりやまぬ

         地球の上に人皆せはし

(しんえいせい うまれいでては めぐりやまぬ

     ちきゅうのうえに ひとみなせわし)

              歌集『老槻の下』所収

                                                    

 同じく「立冬の空」からもう1首ご紹介します。「立冬の空」と題された4首の中で、空穂は空の様子、立冬を迎える自身の思い、上記で紹介した地上の様子をそれぞれ詠いますが、4首目では空を飛び越え、その上を巡る人工衛星に思いを馳せます。
 1957年にソビエト連邦によって初めて人工衛星が打ち上げられてから一年、この「新衛星」は続いて打ち上げられたアメリカによるものと思われ、空穂の好奇心、感性の若さがうかがえます。
 対となるように下句では地上の人間が詠われています。忙しなく存在する人間とその人間によって生み出された人工衛星が軌道上を巡り続けている、穏やかな秋空の下にいる自分自身と同時間上に起こっていることとは実感し難いが、紛れもない事実であるということを想う、独特の感慨があります。

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔10月の短歌〕

男体の山むらさきに秋ぞらにうねりのぼりて空のさやけき
(なんたいの やまむらさきに あきぞらに うねりのぼりて そらのさやけき)

                                       歌集『鳥声集』所収

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空穂 34歳頃の写真

 この歌は第5歌集「鳥声集」に納められています。大正4年の秋、39歳の空穂は女子美術学校の講師として、修学旅行に加わり日光へ行きました。その時に、戦場ヶ原で詠んだ一首です。山全体が紫色に映え、秋空に向かってそびえ立つ男体山の姿を印象深く詠んだ歌です。「うねりのぼりて」に力量感があります。
 空穂は、明治44年から大正4年までの5年間、家計を支えていくために、この女子美術学校で講師として、国語と英語を教えていました。大正5年からは、読売新聞社に入社し、身の上相談欄を担当しました。

 

 

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「男体の」の掛け軸

 現在記念館では収蔵資料公開展を開催しています。公開展では、空穂の軸を13点公開しており、その中に掲出の短歌の軸もあります。(左写真)他にも、中学校の教科書に掲載されたことのある「鳳仙花ちりこぼるれば小さき蟹鋏ささげておどろき走る」などの有名な短歌の軸も展示しています。その他にも、空穂と関係のある窪田五雲の日本画や島秋人の遺愛品なども展示しています。10月31日まで開催していますので、ぜひ足をお運びください。お待ちしています。

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収蔵資料公開展の様子