今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔11月の歌〕

 

縁側で読書

目的を持たぬ読書のたのしさを

  老いてまた知る若き日のごと

(もくてきをもたぬどくしょのたのしさを
       おいてまたしるわかきひのごと)

             歌集『木草と共に』所収

 

「読書」と題して詠んだ五首のはじめの一首です。
研究で必要であるというような目的があるのではなく、読んでみたいと心惹かれた本を読みながらの心境です。この楽しさは、好奇心が旺盛だった若い頃に、いろいろな本を片っ端から読んで新しい知識を得たときのよろこびにも似ているなぁと想い起こしているようです。
このときの空穂は、歴史の本を読んでいました。一連の歌の中に次の歌があります。

  一冊の書(しょ)よりあらはれ遠き代の名ある人びと隣人となる

本から現れて私たちの隣人となってくれるのは歴史上の人物だけではありません。小説の登場人物が、いつしか心の友だちになり、時には相談相手になってくれることもありますね。
「読書の秋」…ことしは誰が私たちの隣人となってくれるのでしょう。

  読本(とくほん)の栞にと我がしたりける銀杏の黄葉を娘の拾ふ    「郷愁

 

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

 〔10月の短歌〕

 

街角

 秋日ざし明るき町のこころよし  

      何れの路に曲りて行かむ

 (あきひざしあかるきまちのこころよし
         いずれのみちにまがりてゆかん)

              歌集『卓上の灯』所収

 

昭和25年、空穂73歳の作品です。
秋晴れの一日、町中をゆっくり散歩しているときの気分を詠っています。
さわやかな町の空気は心地よく、次はどこの路を行こうかなと、ちょっぴり心を弾ませているようにも感じられます。どこの角で曲がっても、きっとそこにも明るい秋の光があふれ、よいことが待っているかのようです。

高く澄み切った空に、心も晴れ晴れとする季節となりました。
たまのお休みの日に、お家の周りをゆっくり歩いて見たらいかがでしょうか。何気なく入った小路に、いままで気付かなかったような発見があるかも知れませんよ。
唯々、秋色の町を歩き、疲れたら立ち止まり一息つく。そんなひと時をどうぞ。

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

鉦ならし(碑).jpg

 

 鉦鳴らし信濃の国を行き行かば

       ありしながらの母見るらむか

 ( かねならししなののくにをゆきゆかば
                                   ありしながらのははみるらんか )

                                               歌集『まひる野』所収

 
 空穂の第一詩歌集『まひる野』(明治38年刊)に収められている、空穂の代表作のひとつです。
 4人兄姉の末っ子であった空穂は母に可愛がられ、空穂も母を慕っていました。しかし、空穂が二十歳の時に亡くなってしまいます。亡き母を恋い慕い、同時に故郷を遠く思いやる歌です。のちに空穂は、この歌を詠んだ時の気持ちを次のように語っています。
「私がもし男の巡礼となり、歩くままにさやかに鳴る鈴を鳴らしつつ、往還路を、どこまでもあるきつづけたならば、あの信心ぶかい母である、必ず私にもまして感動して、生まれかわっての姿をふと私の前に現わして、この眼に見せてくれようか。(中略)哀感に捉われて心幼くなっている私は、真気(むき)になって思ったのである。」(『自歌自釈』)

 松本市の城山公園には、この歌碑があり、空穂を偲ぶことができます。昭和29年に松本空穂会の人たちの手によって建立されました。5月2日に行われた除幕式には空穂も招かれ、家族と一緒に出席しています。

 信濃なる諸友わが歌碑建てしとぞ五月空晴る行きては謝せむ    歌集『丘陵地』所収

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介~

歌人として活躍した窪田空穂は、生涯で1万4千首以上の短歌をのこしています。空穂の短歌は日常の一瞬を切り取ったものが多く、時代を超えて私たちの心に染みわたります。
窪田空穂記念館職員が選んだ今月の短歌をご紹介します。

 【窪田空穂記念館】つばめ

つばくらめ飛ぶかと見れば消え去りて
     空あをあをとはるかなるかな
(つばくらめとぶかとみればきえさりて
       そらあおあおとはるかなるかな)
               歌集『濁れる川』所収

 

 
掲出歌は、空穂35歳のときの作品で、多くの人に愛唱されてきた歌のひとつです。直線的に、伸びやかに空を横切る燕の姿に心を躍らせるのですが、ふと気が付くと燕は飛び去ってしまい、そこには青い空が果てしなく続いているとうたっています。
さっきまでの燕の素早い動きを心に残しながらも、残された「はるかなる」青空の静けさに、広く心が開かれる思いがする一首です。

【窪田空穂記念館】つばめある日、窪田空穂記念館の前の電線に、たくさんの燕がとまっていました。巣立ちをした雛たちが、秋になって暖かい土地に旅立つために練習をしているようでした。電線から離れてもすぐ戻ってしまう燕、頑張って何回も旋回する燕、一羽一羽の成長に違いがあるようで、少し心配になりました。先日、飛べなくなって道路で羽をバタつかせていた燕を見つけ病院に連れて行ったことを思い出し、頑張れとつぶやきました。
写真を撮った日は青空が広がっており、これからこの子たちが大空を自由に飛び回れるようになることを、心から願いました。

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介~

歌人として活躍した窪田空穂は、生涯で1万4千首以上の短歌をのこしています。空穂の短歌は日常の一瞬を切り取ったものが多く、時代を超えて私たちの心に染みわたります。
窪田空穂記念館職員が選んだ今月の短歌をご紹介します。

【窪田空穂記念館】スタンドの 

スタンドの灯かげの狭くわれ囲み
       夏の夜のやみ深さ知られず
(スタンドのひかげのせまくわれかこみ
          なつのよのやみふかさしられず)
               歌集『卓上の灯』所収

 

 

歌集『卓上の灯』(1955年刊)に、「暑熱甚し」と題して収められた九首の一つです。
卓上のスタンドが狭い範囲を明るく照らしており、その周りには、限りもない深い闇が広がっていると詠んでいます。
他の季節と比べても一段と暗く感じられる夏の夜の闇。その中、電灯が照らすわずかな空間に自分はひとり座っている。限りなく広い天地の間に生きている微小な存在の自分に思いが及んでいたのでしょう。

ところで、この写真の机は空穂が実際に使っていたものです。愛用の筆記用具、ルーペ、時計、Peace缶(たばこ)などが置かれています。面白いのは、トランプがあることです。空穂はトランプ占いが好きでよくやっていたといいます。

 【窪田空穂記念館】スタンドの(色紙)

窪田空穂記念館では、この短歌の直筆色紙を7月末まで展示しています。
直筆だからこそ感じ取れる空穂の想いを、ぜひご覧ください。

 

今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介~

歌人として活躍した窪田空穂は、生涯で1万4千首以上の短歌をのこしています。
空穂の短歌は日常の一瞬を切り取ったものが多く、時代を超えて私たちの心に染みわたります。
そんな空穂の短歌を「今月の短歌」として毎月ご紹介します。

〈6月の短歌〉

 松本城高山のかこめる空の真中占め
       五層さやかに深志城立つ

(たかやまのかこめるそらのまなかしめ
        ごそうさやかにふかしじょうたつ)
                  (歌集『木草と共に』所収)

 
昭和38(1963)年、空穂86歳のときの短歌です。
「松本市を想ふ」と題してまとめた7首の内の一首で、信州の山々に囲まれた空の真ん中にたつ松本城(深志城)を思い起こして詠んでいます。
松本市和田出身の空穂は、23歳から東京に住みますが度々松本にも帰省しています。最後の帰省は77歳のときで、城山公園に空穂の歌碑がたてられ、その除幕式のための帰省でした。この歌を詠んだのはそれから約10年後。この頃は病に伏せっていたり、若いころを思い出しての歌もあったりと、いろいろな面で故郷を思い出し自分を励ましていたのかもしれません。「さやかに」とは「さわやかに」や「はっきりと」という意味があります。今も昔も、そしてどんな状況でも”さやかに”そこにたっている松本城。この短歌をよむと、松本城は変わらないその姿で私たちを励ましている気がしてきます。

この短歌の空穂直筆色紙を、窪田空穂記念館にて6月末まで展示しています。
直筆だからこそ感じ取れる空穂の想いを、ぜひご覧ください。

 

窪田空穂記念館/第1回運営委員会開催について

窪田空穂記念館 令和元年度第1回運営委員会を開催します。
傍聴を希望される場合は、開始時間の10分前までに会場へお越しください。

1 日時
  令和元年5月16日(木) 午後1時30分から

2 会場
  窪田空穂記念館 会議室

3 公開・非公開の別
  公開

4 傍聴者数
  3人

5 傍聴のときに守っていただくこと
 ⑴ 委員席には入らないでください。
 ⑵ 委員の発言に対し、声を出したり拍手等しないでください。
 ⑶ 会話などしないでください。
 ⑷ 帽子、外套、えり巻などは着用しないでください。
 ⑸ ものを食べたり、たばこを吸ったりしないでください。
 ⑹ 写真撮影及び動画撮影などはしないでください。
 ⑺ 携帯電話を持ち込む場合は、音の出ないようにしてください。

6 その他
  傍聴希望者が多数の場合は、抽選を行います。