今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔4月の短歌〕

四月七日午後の日広くまぶしかりゆれゆく如くゆれ来る如し

(しがつなのか ごごのひひろく まぶしかり ゆれゆくごとく ゆれくるごとし)
                               歌集『清明の節』所収

 この歌は第23歌集「清明の節」に収められています。晩年の空穂空穂の遺歌集です。そして、この歌はこの歌集の最後に「四月八日」と題して収められた二首のうちの一首です。空穂が亡くなったのは四月十二日なので、死の直前までその心象を歌にしようとしています。「ゆれゆく如くゆれ来るごとし」は、直接には日差しのことをさしていますが、同時に空穂自身の意識の揺れ動いている様を表現しています。命と死のせめぎ合いをも歌にしようとする空穂の生き方は、まさに空穂の歌が「境涯詠」と言われる所以ではないでしょうか。 
 四月は、空穂自身が永眠した月ですが、妻藤野や次女なつが亡くなった月でもあります。四月は、希望あふれるスタートの月、花や緑が増えていく生命力を感じる月ではありますが、空穂にとっては鎮魂の月ともいえるのではないでしょうか。

遺歌集「清明の節」

空穂の葬儀は、昭和42年4月16日早稲田大学大隈講堂で営まれました。そして、遺骨は雑司ヶ谷墓地に埋葬されました。また、遺言により、松本市和田区無極寺の父母の墓に分骨埋葬されました。
 翌昭和43年1月に「清明の節」が刊行され、3月には全集全29巻が完結となりました。

 

 最後に「四月八日」の他の一首を紹介します。絶詠となった歌です。

まつはただ意志あるのみの今日なれど眼つぶればまぶたの重し

(まつはただ いしあるのみの きょうなれど まなこつぶれば まぶたのおもし)