学芸員雑記 戦争紙芝居上演

2021年「チョコレートと兵隊」を読む

2021年「チョコレートと兵隊」を読む

 旧山辺学校校舎では、夏に太平洋戦争期に発行された紙芝居を上演しています。読み手は市民学芸員の有志です。

令和5年の上演

 2023(令和5)年は8月5日(日)に実施しました。

 上演した紙芝居は、1942(昭和17)年発行の「空白の遺書」。昭和12年11月に日中戦争で戦死した爆撃機操縦士と残された妻の想いを、妻の談話形式で描いた紙芝居です。

ハガキの裏には何も書かれていなかった 『空白の遺書』

ハガキの裏は何も書かれていなかった『空白の遺書』

 遺品の中に、妻への宛先だけが書かれ、裏には何も書かれていなかったハガキがあったことから、「空白の遺書」と名が付いています。

『空白の遺書』を読む

『空白の遺書』を読む

 紙芝居のはじめには、
「未亡人が語る亡き夫への、優しい愛情と、
今後の決意とは、
はからずも同じ運命に立ち到った、
幾万の女性の 尊い 頼もしい気持ちを、
代弁したものとして、
第一線の将兵は もとより、
銃後国民に、力強き安堵を与えるものと
いわねばなりません。」
とあります。

 夫は「(子どもたち)を大切に育てられたし」と頼む以外は何も言い残していません。妻は取り乱す自分の心に鞭打って、3歳の息子に「どうか早く大きくなって、お国のため、お父さんのように、空を飛んでおくれ」と願います。
 実在する人の物語ですので、本心はわかりません。しかし現代日本の私たちは、戦死するかもしれない戦場へ、家族を送りだそうとは思いません。太平洋戦争当時は、大切な人を亡くした幾万の女性たちに対し、このような気持ちが尊いと教えたのでしょうか。「嫌だ!」と声を上げられなくするためのプロパガンダではないかと感じてしまいます。

上演する戦争紙芝居

 紙芝居は、松本市在住の方が所有する中から、戦争を扱った10点をお借りして上演しています。2021年には「チョコレートと兵隊」、2022年には「玉砕軍神部隊」を読みました。どちらも、現在の私たちが読むと「あれ?」と思うような、いつの間にか悲しみや怒りをねじ曲げられた感覚に陥る作品です。
 紙芝居を購入したのは、所有者のお父さんです。戦時中、実際に上演していたのかどうか、所有者はわからないそうです。しかし、当時は紙芝居は安価ではありませんでしたし、お父さんの弟(所有者の叔父)は戦死していますので、なにかしら後ろめたさや悲しみがあって紙芝居を購入していたのかもしれない、とのことでした。その気持ちがプロパガンダに利用されたのだとしたら、いたたまれません。

上演用に複製した紙芝居 全ページ読むことができる

上演用に複製した紙芝居 全ページ読むことができる

戦争関連を展示している第4室

戦争関連を展示している第4室

 現代の紙芝居を読む

  紙芝居上演の際には、戦後に発行された紙芝居も併せて上演しています。2021年には「三月十日のやくそく(2021年 童心社)」「おばあちゃんの人形(2013年 本の泉社)」、2022年には「あおよ、かえってこい(1985年 童心社)」、今年は「ちっちゃいこえ(2019年 童心社)」でした。

「原爆の図」を使って作られた「ちっちゃいこえ」を読む

「原爆の図」を使った「ちっちゃいこえ」を読む

  いずれも原爆や空襲を扱った作品で、それぞれの人の想いが描かれています。

 戦争の悲劇は被爆に限りませんが、理解し伝えていかなければならないテーマのひとつだと考えています。

 

 戦争に正しさはありません。しかし身近な人が死んだり、大切なものが壊されたりすると感情は大きく動かされ、平和なときには考えもしなかったことをしてしまうのかもしれません。戦時中の紙芝居を読んでプロパガンダを体験することで、自分の心は弱く、簡単に曲げられてしまう可能性があることを理解したいと思います。そして、戦争は駄目だという気持ちを、ずっと持ち続けていきたいです。

(学芸員:岡野)