Vol.040 文化財を虫・カビから守る(R5.2.14 文責:武井)

博物館資料をおびやかす要因は数多く存在しますが、その中でも一番身近な大敵といえるのが虫とカビです。

博物館資料などの文化財に悪影響を与える虫を「文化財害虫」と言います。これらの虫は文化財を食べたり、糞で汚したりと、資料に多大な悪影響を与える存在です。
日本の文化財は、木や紙、革、布といった有機素材のものが圧倒的に多く、文化財害虫による被害を受けやすい存在です。その上、温暖多湿な日本は昆虫の数が多く、動きも活発であるため、短期間で甚大な被害を受けるリスクが高いのです。

カビも文化財害虫と同じく、資料にとりついて汚染したり、内側に入り込んで材質を脆くしたりと、文化財に取り返しのつかない被害をもたらす存在です。
カビは気温20~30℃、湿度70%以上の環境で発育しやすいため、温暖多湿な日本では日常的に存在します。その上、多量の胞子を産出するため、飛散しやすく、短期間で大量に発生する危険性があります。
ホコリや汚れを養分とするので、清掃が行き届いていない場所ではよりカビ害のリスクが高まります。

こうした虫・カビによる被害を防ぐために、博物館では館内の温湿度を管理したり、収蔵庫入口に粘着マットを設置したり、定期的な清掃を行ったりと、さまざまな対策をしています。その対策のうちの一つが「燻蒸」です。

燻蒸とは、ガスで資料を燻して、文化財に害を与える虫やカビを駆除するための作業です。
博物館資料の中には、長年ほこりをかぶり、虫・カビ害を受けた状態で収蔵されるものも少なくありませんし、目が届かない部分に虫やカビが潜んでいる可能性もあります。そうした資料を安全な状態で収蔵庫に収蔵するために、燻蒸は欠かせない作業になります。

今回の博物館の引っ越しに伴い、松本市立博物館・旧館で大規模な燻蒸を実施しました。
休館となり空になった展示室に大きなビニールテントを建て、この中で資料を燻蒸しました。

燻蒸テント

効率よく資料を燻蒸するために、さまざまな大きさの資料をまるでパズルを組むように入れていきます。
燻蒸で使用する薬剤は、紙や木には浸透していきますが、プラスチックやビニールを透過することができないので、プラスチック製の箱はわざとずらして重ねたり、ビニールに包まれている資料はその梱包を解いたりと、細やかな作業が必要になります。

テントの内部

今回の燻蒸では、「ヴァイケーン」と「エキヒュームS」という二つの薬剤を使用しました。
ヴァイケーンは虫やその卵に効く薬剤で、ガスを24時間充満させることで、中にいる虫とその卵を退治することができます。ガスをテントに入れ込み、充満させ、ガスを外に放出するまでがおよそ3日間で完了します。
もう一つのエキヒュームSは、虫だけでなくカビにも効く薬剤です。ヴァイケーンよりも燻蒸時間が長く、ガスを外に放出するまでおよそ5日間かかります。 

燻蒸剤の毒性は資料に残留しないため、一回燻蒸したら虫・カビが寄ってこなくなる、というものではありません。
燻蒸後も再度虫・カビが発生しないよう、日常的な管理を続けていくことが大切です。