Vol.095 あなたの忘れられない和食を教えてください(R6.10.11 文責:須永)

10月5日から始まった、松本市立博物館特別展「和食 ―日本の自然、人々の知恵―」。

その展示の一角に、「あなたの忘れられない和食を教えてください」というコーナーがあります。名前の通り、事前に応募いただいた和食にまつわる思い出をご紹介したり、皆さんの思い出の「和食」を付箋に書いてボードに貼っていただいたり、というコーナーです。

では、担当自身ならどんな和食の名前を書くだろうと考えると、「お年取りに食べる鰤の粕煮」だろうと思います。
松本地方を代表する年取り魚は鰤と鮭とされますが、我が家では、照り焼きではなく、粕煮の鰤が出ます。そして、家族の舌に「大晦日の鰤の味」としてインプットされているのは母方の祖母の作った「鰤の粕煮の味」なのです。

その祖母が年とともに体が不自由になり、台所に立つことが難しくなってしまってから、祖母の娘たち(=担当者の母たち)は、「母の味」をレシピ化し自分たちでも再現するべく、改めて作り方を教えてもらったことがあるそうです。
しかし、そこは家庭料理の難しさというべきでしょうか。「醤油はどれくらい?」「適当でいいだ」、「砂糖は?」「いい感じに」、というような参考になるのかならないのか分からない、祖母の長年の台所経験に基づく目分量の嵐。仕方がないので、祖母が「それくらい」といった量を見て、「これくらいなら大匙〇杯くらいかねえ」「砂糖は大匙△杯ってとこかね」と推測で大体の味付けをしてみることに。

結果はお察しのとおり。鰤の粕煮について言えば、祖母が使っていた鍋を使い、祖母が買っていたお店で鰤を買い、同じ酒粕を使っても「あの味」にはならないのです。しかも毎年味が違う…。
毎年味が違うというところに作り手の試行錯誤が窺えるようではありますが、食べる専門の作り手の子供達(祖母の孫の世代)は、「今年は(鰤が)硬い」だの「今年のは味が薄い気がする」などと好きなことを言い合うのが大晦日の恒例行事となっています。

あと何年か後には、祖母の鰤の粕煮とは少し違った味の鰤の粕煮が、我が家に定着しているのかもしれません。
以上、担当者の「忘れられない和食」について思いつくまま述べさせていただきました。

一口に「和食」と言っても、思い描く和食は本当に様々です。

2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」は、生産から消費までの過程における様々な技能や知識までも含んだ「日本人の伝統的な食文化」のことであり、特定の料理や内容を定義してはいません。

「食」はその土地その土地固有の自然や文化によって長い時間をかけて育まれてきたものであると同時に、様々な社会的な変化の影響を受けながら変容し続けています。

明治時代に海外から日本にもたらされ日本に定着した料理があるように、今は和食として認識されていない海外由来の料理が、日本独自の発展を遂げ、次の世代に和食と認識されていくこともあるでしょう。伝統的な料理であっても、お雑煮を見ても分かるように、同じ名前の料理でもその土地その土地で異なるものもあります。

そんな和食の柔軟さ、幅広さを感じていただけるのが「和食 ―日本の自然、人々の知恵―」です。

本展では、科学的・歴史的、様々な切り口で和食についてご紹介するとともに、ギャラリートークをはじめ、沢山の関連事業も開催予定です。

開催期間中、ぜひ、松本市立博物館へお越しください。

a6_yoko_b_rgb