学芸員雑記 山辺地域の道祖神

 山辺地域には、現在も道祖神ほか石造の地蔵、観音や記念碑などが多くあります。

山辺地域の道祖神分布(赤:里山辺、青:入山辺)

山辺地域の道祖神分布(赤:里山辺、青:入山辺)

 道祖神は江戸時代に広く浸透したといわれ、松本盆地にも多く残されています。道祖神には自然石、文字碑、双体(そうたい)像があります。双体像というのは男神と女神が並んでいる像で、山辺は松本市内では一番多い地域です。

山辺の道祖神

 双体像は、入山辺、里山辺にそれぞれ17体ずつ、文字碑もそれぞれ11体ずつあるといわれます。そのほかに、奇妙な形をした石に神が宿るとされる自然石神がいくつかあります。

大和合(東村)の道祖神

大和合(東村)の道祖神

 建立年や作者が刻まれた物もありますが、山辺地域で一番古いとされる物は元禄年間(1688~1704年)作ではないかと伝わります。

 道祖神は五穀豊穣・縁結び・安産・子育て・無病息災・健康長寿・旅の安全などをかなえてくれる神で、集落の守り神でした。そのため集落の入口に置き、厄病神などの集落への進入を防いでもらいました。
 その名残で、現在も地区の入口や交差点などに道祖神の姿が見られます。

 美ヶ原高原への道路が整備された影響で、牛立(うしたて)の道祖神など場所を移している物もあります。

色々なスタイルの道祖神

 道祖神は建立の年の流行や諸般の事情により、それぞれに特徴を持っています。

湯の原(辻堂)の道祖神

湯の原(辻堂)の道祖神

 里山辺で一番古いとされる湯の原(ゆのはら)辻堂の双体像は、男神女神ともが合掌(手の平を合せる)している、長野県内では珍しい像です。

上金井(下矢崎)の道祖神

上金井(下矢崎)の道祖神

 湯の原の道祖神に次ぐ古さと推定される上金井(かみがない)下矢崎の道祖神は石の上に乗っています。

牛立の道祖神

牛立の道祖神

 入山辺でも東側(美ヶ原高原に近い標高の高いほう)、かつての中入村(なかいりむら)の東から牛立、大和合(おおわごう)、小仏(こぼとけ)の3基、かつての北入村(きたいりむら)の宮原の1基は、女神が男神の足を踏んでいる像です。足を踏んでいるのは愛情表現だとか…

 牛立の道祖神は山辺地区最大で、総高145cmあります。

 道祖神は単体で立っている印象がありますが、他の石造文化財と並んでいる場所もあります。

中村の石造文化財郡

中村の石造文化財郡

 中村の道祖神は庚申塔(こうしんとう)や筆塚(ふでづか)と並んでおり、しかも双体像と文字碑が並んでいます。ただし、この文字碑は「道祖神」ではなく「祖道神」とある、珍しい像です。

中村の道祖神

中村の双体像

 中村の双体像は江戸末期の高遠の名石工、藤森吉弥と宮村の石工、重森文四郎の合作による祝言(しゅうげん。男神と女神の結婚式の様子)像です。天保15(1844)年に作られ、山辺一美しい名作といわれています。

中村の道祖神の裏の文字

中村の双体像の裏の文字

 この像の裏には「この神を他の村に祀る時は、祝金十両をもらい受ける」という意味の文字が彫られています。

 この頃の道祖神は盗難に遭うことがありました。良い姿の物、栄えている村の物などを自分の村に持って行って据えたのでしょうか。そのため「盗んだら罰金だ」という意味合いで彫られたともいわれます。

 道祖神を他の村に持っていくことを「道祖神の嫁入り」と言ったそうです。

 上手町(わでまち)の道祖神は、かつて渚(なぎさ)の若衆に盗まれたと伝わります。現在の渚本村公民館の南西にある渚本村の道祖神は、女神が男神の足を踏んでいる特長があり、これが上手町の道祖神であったと推測されています。

 上手町はその後、盗まれないように大きな道祖神を作ったといわれています。総高112cm。大きな石を半分に割り、片方を上手町、片方を厩所(まやどころ)の道祖神にしたとのこと。

上手町の道祖神

上手町の道祖神

厩所の道祖神

厩所の道祖神

 厩所の道祖神は古いものにも関わらず、欠けのない綺麗なお顔です。平成になってから彫り直されました。この地域では、三九郎の火で道祖神を焼く風習があったそうで、その熱で女神の顔が崩れてしまっていたのを、地域の人々の願いで直したのだそうです。

原(上原)の道祖神

原(上原)の道祖神

 上原の道祖神は道端の石垣の中にあります。祠の上にはさらに瓦の屋根が見えます。

林の道祖神

林の道祖神

 林の双体像は、昭和の中頃、道路の拡幅のため南側から北側へ移されました。鳥居の両側には柵があり、「道祖神」と書かれた幟(のぼり)が二本も立っている珍しい像です。

 「林村」と彫られていますが、これもかつて入山辺村から運ばれたとの噂が残っているそうです。盗難ではなく、道祖神を譲ることもあったそうです。

コトヨウカ行事と道祖神

 山辺地域には2月8日頃、集落の厄病神や風邪の神を追い払う行事があります。松本市の重要無形民俗文化財に指定されている地域もあります。
 このお祭りに、村の守り神である道祖神は欠かせません。コトヨウカの日の朝早くに道祖神に餅を塗りつけて良縁や子宝を祈願したり、道祖神の前で記念撮影をしたりします。

旧山辺学校校舎第9室の追倉の龍

旧山辺学校校舎第9室の追倉の龍

 里山辺追倉(おっくら)では、コトヨウカの日に地区の人々で大きな縄(龍)を作り、男女に分かれて綱引きをする風習があります。女性が勝つとその年は豊作だと言われ、毎年、女性が勝っていました。

追倉の道祖神と庚申像

追倉の道祖神と庚申像

 龍は道祖神と横の庚申像に巻いておき次の年に燃やす風習ですが、現在は世帯数の減少などで行事を中断しており、綱だけが像に巻かれています。

クイズ!

 旧山辺学校校舎の2階、第8室には道祖神2体のレプリカを展示しています。

クイズ1 どこの道祖神でしょうか?

クイズ1 どこの道祖神でしょうか?

 1.どこの道祖神でしょうか?

 ヒント:本物は石の上に乗っています。

クイズ2 どこの道祖神でしょうか?

クイズ2 どこの道祖神でしょうか?

 2.どこの道祖神でしょうか?

 ヒント:山辺一美しいとも言われる名作

 正解は旧山辺学校校舎で!

 山辺地域の珍しい道祖神を探して歩いてみてくいださい。

(学芸員:岡野)