★時計博新聞第2号「時計の歴史~機械式時計編~」★
はじめに
こんにちは。時計博物館学芸員の小林です!時計博新聞の創刊からだいぶ期間が開いてしまい申し訳ありません。前号では、機械式時計が誕生する前、太陽や線香、水、砂といった自然万物のメカニズムを用いた原始時計についてご紹介しました。機械部品を用いない時計ですが、先人たちの英知が感じられる時計が多かったですね。ご興味のある方はコチラをご覧ください。
機械式時計の誕生
今回は、機械式時計の歴史についてご紹介します。機械式時計とは、歯車などの機械部品を組み込んだ時計のことです。紀元前の時代から自然の力を利用した原始時計を用いてきた人間にとって、機械式時計の発明は大変革でした。一方で、機械式時計がいつ、どこで、誰によって発明されたのかを証明する資料はありません。現存最古の機械式時計は、1360年頃にフランス国王シャルル5世がドイツ人のアンリ=ド=ヴィックに製作させた塔時計だといわれています。
機械式時計草創期~おもり式時計
アンリ=ド=ヴィック製作の塔時計をはじめとした草創期の機械式時計は、重いおもりを垂らし、おもりが重力によって降下する力を原動力としました。歯車や連動する時計の針が急速に回ってしまうのを調整するため、冠型脱進機という調速機構を用いました。その後の機械式時計の発展は、この脱進機の改良により、急速に進んだと考えられます。
機械式時計の発明により、時計の精度が格段に向上した半面、草創期の機械式時計に用いられたおもりは大変重く、また、時計の下部におもりが降下するためのスペース確保が必要であり、扱いづらいものでした。
機械式時計の進化~ゼンマイと振り子時計の発明
16世紀初頭、ドイツ人のピーター=ヘンラインによって時計の新たな原動力となるゼンマイが、次いで17世紀中頃、オランダ人の科学者クリスチャン=ホイヘンスによって振り子を脱進機として用いた振り子時計が発明されました。これを契機に、オランダ、イギリス、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国で、振り子掛け時計や大型置き時計、チャイム時計など様々な時計が製作されました。それぞれの時計の特徴に関しては、今後の時計博新聞で随時紹介する予定ですのでお楽しみに。
当時の時計は現代のような量産型の時計ではなく、時計師の手工業による1点ものが多く、時計一つから当時の世相を感じ取ることができます。ぜひ当館にご来館いただき、今も時を刻む至極の古時計コレクションに思いを馳せてください。
機械式時計の小型化~懐中時計
ゼンマイの発明からおよそ100年、17世紀に入り小型の携帯時計である懐中時計が考案されました。現存最古の懐中時計は、オリバー=クロムウェルが使用した懐中時計(1625年頃の製作か?)だといわれています。当時は懐中時計を扱う時計師が少なかったため、一部の上流貴族が持つ高級品でした。その後、スイスを中心に量産体制が確立すると、安定供給が実現され、多くの人の手に渡るようになりました。現在、懐中時計の販売を手掛けるメーカーは少数となってしまいましたが、スマートウォッチやスマートフォンにはないファッション性を持ち、ロマンがあります。当館では、時計の歴史を100年早めたとも言われる天才時計師・ブレゲの製作した懐中時計も展示しています。ぜひ間近でご覧ください。皆様のご来館を心よりお待ちしております。