Vol. 127 博物館の未来を考える( R8.3.17 文責:武井)

 近頃、博物館の未来に大きな影響を与える話題が立て続けに報道されています。
 1つ目は博物館法施行規則「博物館の設置及び運営上の望ましい基準の全部を改正する告示案」について、2つ目は独立行政法人国立文化財機構と国立美術館の「次期中期目標について」です。

 1 博物館法施行規則「博物館の設置及び運営上の望ましい基準の全部を改正する告示案」

 施行規則とは、法律の理念を実行するための具体的な実施方法、手続き、基準等を定めたもので、今回改正案が出された標記規則は、文字通り博物館を設置・運営する上で望ましい基準を明文化したものです。「望ましい」とあるように、努力目標であり強制力はありませんが、各博物館の運営のよりどころとなり、また各館の基本的な指針にも影響を与える大切な規則です。
 改正案は昨年の11月25日に公示され、今年の1月4日までパブリックコメントが募集されていました。なお、パブリックコメントの募集は締め切られていますが、改正案は公開されておりますので、ご関心のある方はぜひご覧ください。

「博物館の設置及び運営上の望ましい基準の全部を改正する告示案」に関するパブリック・コメント(意見公募手続)の実施について|e-Govパブリック・コメント

改正案では記述内容の見直しや条文の追加など、多くの変更案が示されましたが、その中で特に注目されたのが、資料の収集、保管について記された改正案第六条に、「廃棄」の文言が含まれているという点です。以下に該当部分を抜粋します。

「第六条 2 博物館は、博物館資料の将来的な整備及び発展的な活用に向け、寄贈、寄託、借用、購入等による博物館資料の充実や、博物館資料の再評価に基づく交換、譲渡、貸与、返却、廃棄等を含めた博物館資料の管理の在り方について検討するよう努めるものとする。」
 これに対し、現場の学芸員や各地の研究会、専門家から「安易な廃棄につながる」、「廃棄は例外的措置であり、あくまでも最終手段であることを明言すべき」等といった批判、意見の声が相次ぎ、2月に開かれた文化庁の博物館ワーキンググループでは「特に博物館資料の廃棄について検討する場合には、多様な関係者の意見を聴きつつ、長期的かつ総合的な見地から慎重に行うものとする」という一文を追加した修正案が出され、再検討されました。そこでも、廃棄に至るまでの処分の基準が明らかでない点等を理由に廃棄の明文化への反対意見が出され、現在も調整が続けられています。
 「博物館資料の廃棄」という言葉が与える衝撃は大きく、この改正案についての報道を目にした方も多いのではないでしょうか。当館にも、以前資料をご寄贈くださった市民の方から「博物館資料廃棄のニュースを見たのですが松本市立博物館の資料は大丈夫ですか?」と心配のお声を頂戴しました。
 実は、博物館資料の廃棄は博物館の現場ではかなり前から取り沙汰され、そして現在も多くの館が頭を悩ませている問題です。
 資料廃棄を検討せざるを得ない原因の一つに、いわゆる「収蔵庫問題」があります。
 博物館が収蔵すべき資料は、増加することはあっても減少することはありません。一方で、収蔵スペース(収蔵庫)は有限です。そのために、全国各地の博物館の収蔵庫がキャパシティを超え、新たな資料を受け入れることができない、資料を適切に管理することができない等といった問題に直面しています。この問題に対する効果的な解決策を見いだせないまま現在に至っていますが、何とかして収蔵スペースを確保しようと検討する中で出てくるのが「資料の廃棄」です。
 そして、その廃棄の矢面に立たされてきたのが「民具資料」です。
 民具とは、人々が生活の中で使ってきた道具全般のことで、博物館では古い農具が代表的なものでしょうか。
 民具(とりわけ農具)は、唐箕や千石通し等大型で場所をとるものが多く、生活の中で使われていたため数も多く、その上見た目が似たものが多く、何より身近で使われていたために「これがそんなに大事なの?」と思われがちです。
 また、各地の博物館に収蔵されている民具の多くは高度経済成長期に収集されたものなのですが、詳細な調査研究が行われず、そのため活用もされず、「ただ集めただけ」になってしまったものが少なくありません。そうした民具たちは「情報がなく、活用もしづらく、ただ場所をとっている資料」として扱われてしまいます。
 上記のような理由から、民具は真っ先に廃棄対象として挙げられてしまうのです。
 しかし、民具はただ場所を取る邪魔者ではなく、地域の文化、歴史、生活を知る上で欠かせない重要な文化財です。民具はその性質上、資料一つだけで唯一無二の価値を持つようなものではありません。ですが、生活に密着したものであるため使いやすくなるよう各地域や各家庭で様々にカスタマイズされており、そうした工夫の形跡は、複数の民具を集めて比較することで浮かび上がってきます。つまり民具というのは、ある程度の数を収集し、それぞれを比較したり関連付けたりすることで、人々の生活を浮き彫りにしてくれるのです。
 ただ、そうした民具の多くが活用されず放置されてしまっている現状においては、民具のことをよく知らない、また興味がない人にとっては、「ただでさえ大きいのに同じようなものがたくさんあって、スペースの無駄なので廃棄したい」と思われるのは当然とも思います。
 また、現場の学芸員からしても、先ほどお話しした「収蔵庫問題」はかなり切迫しており、資料の廃棄は既に避けられない状況になっています。
 博物館資料を未来にわたって適切に管理していくためには、長期的な目線での収蔵スペースのマネジメントが重要です。その観点から考えると、資料の廃棄はマネジメントの中の一つの選択肢としては必要なものです。
 しかし、あくまでも廃棄は最終手段であり、そこに至るまでには他施設への移管や地域への返還等、他に活用できる方法がないかを徹底的に模索し、資料の詳細な情報をしっかりと記録する等厳格な手続きが求められます。
 そうした必要な手続きが周知されないまま「廃棄」の文言だけが独り歩きしてしまうと、適切な手順が踏まれないままに安易に資料が廃棄されてしまう危険性が非常に高まります。これらは民具に限った話ではありません。
 こうした悲劇が起こらないよう、収集方針や廃棄も含めた収蔵庫マネジメント方針及びその手順を検討することに加え、情報がなく活用ができない資料を少しでも減らすために日ごろから資料整理・調査研究を継続し、その成果を展示等で広く伝え博物館資料の重要性を共有する、といった博物館の基本的な役割をコツコツと積み重ねていくことが、今まで以上に重要になってきていると言えます。

 2 文部科学省及び文化庁が策定した「中期目標」

 独立行政法人国立美術館と国立文化財機構が令和8年度からの5年間で達成すべき業務運営に関する目標で、これを元に各館が中期計画を策定するものです。今年の2月27日に公開されました。→94338101_01.pdf94336201_01.pdf
 この目標が、「国立博物館や美術館に収入目標、未達成なら閉館含め再編検討」という衝撃的な見出しで報道され、博物館関係者を中心に大きな話題となりました。ただ、中期目標の中に「閉館」の文字はなく、文化庁も報道後速やかに「国立博物館・国立美術館の次期中期目標につきまして」という説明資料を公開し、再編は閉館を想定しているものではないことや、収入目標を設定する理由、目標を設定するのは展示事業のみであること等を説明しました。しかし、いまだに多くの人が不安の声を挙げています。
 また、こうした国の動きが地方の博物館施設にも影響を与え、展示が収入を得られるようなものに今以上に偏重していってしまうことが懸念されています。(以前から収入目標を設定するよう求められたり、収支バランスを改善するよう指示されている博物館施設は全国に少なくないものと思われます。)
 そもそも博物館法の中で、博物館施設は営利目的の施設ではなく、社会教育施設として位置づけられており、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情がある場合以外は入館料等の対価を徴取してはならないと明記されています。そのため、収入を評価指標に据えること自体、博物館施設にはそぐわないと言えます。
 収入だけで評価されないようにするためには、各館の使命・目標を設定し、それを達成できているかどうかを判断・評価するための指標を、各館でよく検討して設定し、公開していかなければなりません。しかし、令和2年時点でなにかしらの評価を定期的に実施している博物館の割合は48.8%で、そのうちその結果を公開しているのは、自己評価が4割、外部評価、設置者評価が6割となっており、公開を含め評価を博物館運営・管理に組み込んでいる館は多くないという現状があります。
 今後、「収入による評価」という波にのまれないためにも、多くの館で評価指標の検討及びその実施が望まれます。
 そもそも、評価云々にかかわらず、少子高齢化が進み、将来にわたって人口や税収が減少していくことが自明である現代において、博物館施設はその存在自体が危ぶまれる状況にあります。そのような情勢の中で「少しでも博物館の持続可能性を高めるために、自力で収入を獲得できるようになろう」という考えが出てくるのは、至極まっとうに思えます。
 ただ、目先の利益にとらわれて、収益につながる展示企画にばかり偏重し、そのほかの博物館として果たすべき役割が蔑ろにされるようなことがあってはなりません。
 あくまでも収入獲得は博物館を持続させていくための方策の一つであり、稼ぐこと自体が博物館の目的となってしまわないよう、しっかりと舵取りをしていかなければなりません。

 博物館資料をはじめ文化財は未来へ守り伝えるべきものですが、その「守り伝える」役割を担うのは「現代に生きる人」です。そのため、できるだけ多くの「現代に生きる人」の理解を得て味方を増やしていくことが、これからの博物館には必要不可欠です。
 「廃棄」や「閉館」といったインパクトのある言葉を見ると、私はつい「何てことを!」と反射的、感情的に反発したくなってしまいます。ですがそれでは味方を増やすことにはつながらず、場合によっては逆効果にさえなってしまいます。
 「文化財は絶対に守り伝えられるべきだ」という思う気持ちは死守しつつも、決して驕らず冷静に、より多くの人に博物館資料、文化財の魅力や大切さを共有できるよう、博物館活動に取り組まねばならないと気を引き締めました。

  以上、近年のニュースを足掛かりに、博物館の未来について私なりに考えたことを書かせていただきました。
 博物館内部の人間としては気が重くなってしまいそうなニュースばかりですが、センセーショナルな言葉につられて瞬発的に反発するのではなく、博物館のこれからを考え冷静に議論していけるよう努めたいと思いました。
 また、こうした話題も多くの人が博物館の未来を考えるきっかけの一つになれば嬉しいと思います。

 

 

〇参考資料(今回はネット上で閲覧できるものを中心に参考にしました。興味のある方はぜひご覧ください。)

博物館法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000285/#Mp-Ch_1-At_9

ITmedia NEWS「「“閉館”どこにも書いてない」──国立の博物館や美術館に収益目標設定の真意、文化庁に聞いた」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2603/05/news101.html

朝日新聞「訪日客に「二重価格」国立博物館など導入へ 財務省、閉館も含め圧力」https://www.asahi.com/articles/ASV352V2QV35UCVL010M.html ※有料記事

宇仁義和・本間浩一・持田誠・石井淳平2025「民俗資料の収集と廃棄の基準を議論するための事例紹介」 『博物館学雑誌』50-2 全日本博物館学会 69-88頁https://nodaiweb.university.jp/muse/unisan/files/unietal_2025.pdf

高井健司2020「博物館評価の現状と今後―新たな制度の構築に向けて―」 『日本の博物館のこれからII ―博物館の在り方と博物館法を考える―』大阪市立自然史博物館79-92頁
https://omnh.repo.nii.ac.jp/records/1520

日本博物館協会2020「令和元年度 日本の博物館総合調査報告書」
https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/R2sougoutyousa.pdf

日本民具学会 「博物館法施行規則「博物館の設置及び運営上の望ましい基準の全部を改正する告示案」に対する意見表明」
https://www.mingu-gakkai.com/seimei_20251226

文化庁「国立博物館・国立美術館の次期中期目標につきまして」
https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/94340601.html

文部科学省「博物館の設置及び運営上の望ましい基準」https://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/1282457.htm

文部科学省「独立行政法人国立文化財機構が達成すべき業務運営に関する目標(第6期 中期目標)」https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/pdf/94338101_01.pdf

文部科学省「独立行政法人国立美術館が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)」https://www.bunka.go.jp/bunkacho/shokan_hojin/pdf/94336201_01.pdf

読売新聞オンライン「国立博物館や美術館に収入目標、未達成なら閉館含め再編検討…30年度までに文化庁」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260304-GYT1T00003/

 ※いずれも最終閲覧日2026年3月7日