Vol.125 抱亭五清のお福様 ( R8.2.12 文責:前田)

 観る人をおもわず笑顔にしてしまう─そんな力が宿っているかのような掛け軸があります。新春の伝統行事・あめ市(初市)の日、本町三丁目の拝殿に御神像として掲げられていたと聞けば、その存在感に御納得いただけるでしょう。本作は、所蔵元である本町三丁目町会の御協力により、冬の期間限定で、常設展示室「にぎわう商都」のあめ市を紹介するコーナーに展示しています。

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 このお福様を描いたのは、江戸から来た浮世絵師・抱亭(ほうてい)五清(ごせい)。文政年間に松本に拠点を移し、生安寺小路に暮らしながら、生涯を閉じる天保6年(1835)までこの地で活躍しました。令和5年夏、長野県立美術館で開催された「葛飾北斎と3つの信濃―小布施・諏訪・松本―」展では、葛飾北斎の高弟の一人として取り上げられ、初期から晩年までの素晴らしい作品とともに、その画業が回顧されています。

 先の展覧会で紹介された五清の肉筆画に描かれる女性たちは、いずれも細面(ほそおもて)。スッと目尻が引き上がった涼やかな目元が愛らしく、時に気高さをも感じさせます。また、ほっそりとした体つきでキメたしなやかなポージングには、そこはかとない色香が漂い、「五清美人」と称されます。

 さて、本題のお福様に目を向けてみましょう。

「御福様御神像」 抱亭五清/天保元年(1830) 紙本着色 本町三丁目会議

「御福様御神像」
抱亭五清/天保元年(1830)
紙本着色
本町三丁目会蔵

 迷いなく引かれたぷっくりとしたフェイスラインと、顔の下半分に集まった目、鼻、口は、福笑いでおなじみのまさに福の神。その下に描かれた柔らかそうな鏡餅と相まって、親しみやすさの中にも神聖さを漂わせています。さらに注目したいのは、唇の端をキュッと上げた口もとと、墨の濃淡によって円が重なる印象的な瞳。これらはいずれも、五清が美人画を描く際に用いた特徴的な表現です。

 狂歌にも親しんでいた五清は、文芸をたしなむ松本の商人たちと交流がありました。町の発展を担う人々の心意気が示される祭典で、五清は絵筆をもってそのにぎわいを支えていたのでしょう。このお福様に加え、あめ市で配られる大黒天の摺り物を手がけたこともあり、五清と町人たちとの間に築かれた信頼関係がうかがえます。

 このお福様を見つめていると、かつて町の人々が絵を囲んで語らい、あめ市が終われば大切に仕舞い、次のあめ市ではどんな趣向を凝らそうかと相談しあう―そんな情景が浮かんできます。城下町に生きた人々の暮らしや願いがこの一幅に託されて、時代を超えて今もなお、私たちの前でニッコリほほえんでいます。
 
 五清のお福様にあやかって、今日も口角を上げてまいりましょう!