Vol.053 博物館の収蔵庫 (R5.5.16 文責:武井)
今回は、博物館の役割の一つである「収集保管」の根幹となる収蔵庫の設備を紹介します。
これは新博物館2階の収蔵庫です。
一見すると普通の倉庫ですが、博物館資料を末永く未来に伝えていくために様々な設備が導入されています。
1 空調
Vol.40でもお伝えしたように、博物館資料にとって最も身近な大敵は虫とカビです。この虫・カビの繁殖を抑えるためにも、温湿度を調整してくれる空調は欠かせない設備の一つです。
博物館の空調は、収蔵庫を一定の温湿度に保つことももちろん重要ですが、それに加えて収蔵庫全体にくまなく空気を循環させることも大切です。
普通のエアコンのように、一か所の口からゴーっと空気が出るタイプの空調だと、吹き出し口近くの空間と遠くの空間で、空気の流れにムラができてしまいます。
空気の流れが悪い箇所ができてしまうと、湿度やほこりがたまり、カビの発生源や虫の住みかとなってしまう可能性があります。
そこで、新博物館収蔵庫の空調は少し変わった形になっています。先ほどの写真にも写っていますが、どれかわかりますか?
正解は、天井に何本もぶら下がっている白く細長い筒です。
このもこもこした部分全体からじわーっと空気が出て、収蔵庫全体の空気を均一に循環させています。
ここから排出された空気は、壁の低い位置に設けられた吸気口に吸い込まれて出ていきます。
肌で感じることができないようなわずかな流れですが、このようにして常に空気が循環しています。
2 壁
⑴ 珪藻土(けいそうど)の壁
写真に写っている黄土色っぽい壁はただの壁紙ではなく、珪藻土でできています。
珪藻土はバスマット等でも身近な存在で、水を垂らしても一瞬で乾いてしまう様子を見て、その吸水性に驚いたことがある人は多いのではないでしょうか。
実は、珪藻土は水分を吸収するだけでなく、外に排出もする調湿機能を持っています。
周囲の空間が多湿になっているときは水分を吸収し、逆に乾燥しているときは水分を放出してくれます。
つまり、先ほど紹介した空調設備だけでなく、収蔵庫の空間全体を覆う壁そのものも空気を調整してくれているのです。
⑵ 二重壁
急激な温度の変化は、結露やひび割れの原因となり、資料に大きなダメージを与えます。
それを防ぐための設備が二重壁です。
画像でお見せすることはできませんが、新博物館の収蔵庫は二重壁で囲まれており、外壁と収蔵庫の間に狭い空間が設けられています。
そして、この二重壁内部の狭い空間も、空調により一定の温度に保たれています。つまり収蔵庫は、温度が一定に保たれた空気のクッションに包まれ、守られているのです。
この空気のクッションのおかげで、屋外の温度が急激に変化しても、収蔵庫内部の空気が急激に変化することはありません。
このように、表からは見えない設備が、博物館の根幹である収蔵庫を支えています。