Vol.035 いよいよ搬入開始 ―収蔵資料の梱包と運搬 ―(R5.1.10 文責:大島)
旧博物館に収蔵されている資料はざっと12万点。1988年に行われたベータベースを基に随時、悉皆調査、燻蒸作業を経て、徐々に新館への資料の搬入が行われています。今回は、収蔵資料の「梱包」と「輸送」についてお話します。
梱包
まず資料の輸送に先立って行われるのは梱包作業。大切な資料を安全に運ぶための最初の作業です。コロナ禍において劇的に変化した生活様式に物流があげられます。ありとあらゆる物が直接自宅まで届けられます。その時、荷物が痛まないように適切な資材を用いて届けるための荷造りが「梱包」です。近年モノを包む梱包用資材も多様化しています。空気を利用した緩衝材エアーキャップ(プチプチ)などは、皆さんお馴染みではないでしょうか。
ここで注目してほしいのは旧館で運搬を待つ梱包された収蔵資料【写真1】。
白い紙で包まれているのが解るかと思います。この白い紙、実は日本発の優れもので「白薄葉紙」というものです。一定方向に強く、特性を利用しもう一方方向は簡単に裂けるため頑強な紙紐も現場で作ることができます。今では世界中の博物館や美術館で使用されているスタンダードな梱包材の一つなのです。
輸送
当館の中でも超ヘビー級の収蔵資料「蒸気ポンプ(大正2年)」。優に800㎏を超すと思われ、輸送は長年の実績と経験を積んだ専門業者6人で行われました。入念な事前打ち合わせにより作業手順が決定しました。運搬時のダメージを回避するため、木枠が組まれています。思い出したのは、以前立ち会った重要文化財である仏像彫刻の運搬のこと。この木枠はその時のノウハウが生かされていました。多様な資材と道具を駆使して、仏像に対峙する時と同じ心持ちで、輸送を遂行していただきました。この一連の作業は、大事な資料の安全の担保、資材の解体のしやすさに加え、再利用が可能なサスティナブルな資材が活用されていました。
【蒸気ポンプ搬入】 博物館資料の運搬を扱う専門の作業員。服装にしても作業時にポケットのものが落ちて資料を痛めるリスクを避けるため、胸ポケットのない長袖のユニホーム、資料を汚さないため白手袋を着用。資料への気配りと、たくさんの道具を使い分ける技術力が求められます。 |
最後に、学芸員実習の際の「資料取り扱いの心得」について幾つか触れておきます。まず、資料の構造や状態について理解を深めることが前提です。
・どんな小さな資料でも必ず両手で行い、モノを扱うとき音を立てない。
・取り扱いは冷静に慌てないこと、一人で無理をしない(2人で組になって行う)。
・箱に入った資料を扱う際には箱の紐に頼らないで、底と側面をしっかり持つ。
そして何より大切なことは、歴史を刻んできた資料に「敬意」と「愛情」を持って接するようにと先輩から言われたこと思い出しました。
【古文書を収蔵庫へ搬入】 古文書など紙資料は、酸性化を防ぐため中性紙箱を使用し保管します。調湿と防虫効果にも優れています。 |