今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔9月の短歌〕
もろもろの野の獣(けもの)さへねらふ果実(このみ)をあまたわが得し
第19歌集『丘陵地』所収 「秋の果実 」と題された中の一首です。 秋になると各地から知友から空穂のもとへ贈られてくる果実から視点を転じています。
野の鳥や山の獣らが欲しくてたまらない果実が、坐りながら人間の我はこのように沢山、都会に住んでいながら手に入れているのだと思わされたのである。 秋の山野は鳥や獣らには書き入れ時であり、その季節が来るのを待つ宝庫である のを心にえがいている。 果実園で栽培する果実は人間が食べるために収穫するのが実状であるが、本来に立ちかえれば人間が山野に行き、鳥獣と喜びをわかちあうものだったのである。 このような気持ちが背後にある、微笑を誘う空穂らしい一首である。
微笑を誘う一首ではありますが、何か私達が忘れてしまった大切なことを詠っているような気がします。 今、ニュースなどで山からおりてくる生きもの、例えばクマ、サル、イノシシ。皆さんは見てどの様に思われていますか? 空穂の視点は、昔はあったであろう人と生きものとの関係の豊かさを詠っているようです。