今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔6月の短歌〕
昭和39(1964)年10月に行われた
東京オリンピックをテレビ観戦し楽しんだ歌。
アベベ走る群を抜きてはひとり走る
リズムに乗りて静かに速く
歌集『去年の雪』所収
エチオピアのアベベ選手が4年前ローマで開かれたオリンピックに続いてマラソンを制覇し優勝した映像には視聴者のすべてが感動しました。
疲れをみせず、堂々と、しかし軽快に走るアベベ選手の孤高の姿が「アベベ走る」「ひとり走る」の脚韻や、下句の「リズムに乗りて静かに速く」アベベ選手の走り方を讃える言葉のリズムが絶妙な一首。
オリンピックの観戦でもう一首
少女選手易らに泳ぎ勝つにけり気魄は如かずその持つ自信に
(しょうじょせんしゅやすらにおよぎかちにけりきはくはしかずそのもつじしんに)
「気魄」を陵駕するものとして、実力によってもたらされた「自信」をとらえており、空穂の眼力を思わせる短歌になっています。
空穂は当時87歳。青年時代から、文学の諸ジャンルはもちろんですが、スポーツ、芝居、音楽、また社会、政治とさまざまな分野に興味を持ち続け短歌を生み出してきました。