今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔7月の短歌〕

空穂の代表的な作品の一つです。亡き妻の子どもを思う切実な気持ちが伝わってくる作品です。そして、とても美しい情景が浮かび上がってくる作品です。

 其子等に捕へられむと母が魂蛍と成りて夜を来たるらし

 ( そのこらに とらえられんと ははがたま ほたるとなりて よをきたるらし )

               歌集『土を眺めて』所収           

 

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妻・藤野と長男・章一郎

 この歌は第7歌集「土を眺めて」に納められています。この歌集は、若くして亡くなった妻、藤野への挽歌集で、長歌18首を含み、妻への思い、残された二人の子との生活が詠われています。二人の幼い子を残して亡くなった藤野は無念の思いでいっぱいだったと思います。その無念の思いが蛍となって子どもたちの前にあらわれたのだと空穂は感じ取っています。子どもたちに私を捕まえてほしいという妻の思いを感じながら蛍を追う空穂の切ない気持ちが伝わってきます。
 毎年、松本市中央図書館前の大門沢という小さな川に、わずかですが、蛍が静かに現れます。暗闇にスローモーションのように点滅する青白い光を見ると、この歌を思いだします。

 

 なお、掲出歌の前には次のような一首が置かれています。

蛍来と見やる田の面は星の居る遙けき空に続きたりけり

( ほたること みやるたのもは ほしのゐる はるけきそらに つづきたりけり )

 空穂は、子どもとともに亡き妻の化身である蛍を迎えることによって、亡妻の鎮魂を果たすことができたのではないでしょうか。