★時計博新聞第3号「時計の修理vol.1」★

はじめに

こんにちは。時計博物館学芸員の小林です!時計博新聞の更新が久しぶりとなってしまいました。創刊号・第2号では、自然の力を利用した原始時計と、13世紀~14世紀頃を出発点とする機械式時計の歴史を紹介してきました。今回は、時計に関する書籍でもあまり取り上げられることがない時計修理について綴りたいと思います。当館最大の強みである動態展示(できる限り動いた状態で展示すること)を可能にする上で大切にしている点でもありますので、この記事をとおして当館や時計に一層興味を持っていただければ幸いです。

逆振り子掛時計

今回修理を行った時計は、「逆振り子掛時計」です。2階常設展示室の西洋の部屋に展示しています。その名の通り、振り子と時計機械が上下逆転した時計で、当館収蔵資料の母体でもある本田親蔵コレクションの一つです。令和6年7月中旬から不調で動かすことができなくなってしまったため、時計技師さんに修理をしていただくことになりました。その修理行程を順を追ってご紹介します。

逆振子掛時計

逆振子掛時計(正面)

 

止まった時計に命を吹き込む

今回は、本来動かすことができる分針が動かなくなってしまっていたため、時計機械に何らかの不具合をきたしていると想定しました。まずは、時計技師さんに文字板や針を外していただき、原因を特定することから始めます。 熟練の技術を持った時計技師さんの洞察力によって、故障の原因はすぐに判明しました。アゲカマという部品が本来あるべき場所からずれ、部品の噛み合わせ不良が生じていたのです。一つの部品の不具合に伴ってすべての部品の位置ずれが起こってしまっていたため、アゲカマを含めたすべての部品を正しい場所に戻していただきました。

逆振り子時計の機械

逆振り子時計の機械

 

 

 

 

 

 

 

合わせて、歯車が回転する際にとりわけ負荷がかかるホゾ穴(歯車の心棒が差し込まれた穴)を中心に油をさしました。 部品の位置が改善され、歯車が円滑に回転するようになったところで、再度組み上げを行って修理は完了です。まるで時計に命が吹き込まれたように一定のリズムで「コチコチ」と時を刻み始めたその姿に、とても感慨深い気持ちになりました。

修理を終えて

今回の修理を通して、逆振り子時計は時計メーカーが製造したオリジナルの時計ではなく、後世に改造された時計であることがわかりました。各種部品に手を加えた形跡があり、特筆すべきは本来下部にあった振り子を上部に付け替える加工がなされていたのです。この改造を行ったのは時計収集家・本田親蔵氏本人であると考えられ、同氏のユニークな個性が偲ばれる資料といえるのではないでしょうか。当館にお越しいただき、是非とも実物の時計をご覧ください。皆さまのご来館をお待ちしております!