★時計博新聞第4号「ローリングボールクロック修理大作戦!」★

あけましておめでとうございます。時計博物館学芸員の小林です。今年もよろしくお願いいたします。今回は修理中のローリングボールクロックの状況についてご紹介します。

当館大人気の時計が故障…

 ミステリアスな動きをし、いつまでも眺めていられる時計として当館でも人気を博している「ローリングボールクロック」。当館収蔵資料の母体となっている古時計コレクションをご寄贈してくださった故・本田親蔵が製作し、時計博物館の顔ともいえる時計ですが、今年の春に故障し、動かなくなってしまいました…

ローリングボールクロックとは

 本田氏製作のローリングボールクロックは、真鍮磨きの板の端から端まで片道15秒でボールが転がり、左から時、分、秒を示す文字板の針が時を刻みます。ローリングボールクロックの発明は、1800年代初頭まで遡り、イギリス人のウィリアム・コングリーヴ(1772-1828)が1808年に特許を取得したといわれています。
 時は下って、本田氏がローリングボールクロックの製作を試みた戦後の時代は、日本にモデルがありませんでしたが、本田氏は丸2年をかけて古文献を漁りながら試行錯誤を繰り返し、昭和49年(1974)に完成させました!

ローリングボールクロック(本田親蔵製作、昭和49年)

ローリングボールクロック    (本田親蔵製作、昭和49年)

ローリングボールクロック修理大作戦スタート!

 今年の夏から本格的に時計技師さんへ修理を依頼しました。分解点検をしていただいたところ、時計の動力であるゼンマイが切れていることが判明しました。ゼンマイ切れは古い時計の故障でよくある事例です。ゼンマイが切れてしまった場合の修理は原則として、①同等のサイズのゼンマイと交換、②切れたゼンマイを加工してつなげるという2つの方法があります。

切れたぜんまいと加工してつないだ部分

切れたぜんまいと加工してつないだ部分


 いよいよローリングボールクロック修理大作戦が始まりました。ゼンマイ切れの修理方法に従えば、今回の修理も無事に終わるはず…!と思っていましたが、やはり現実は厳しいものでした。このローリングボールクロックは数年前にもゼンマイ切れが発生し、先述した②の方法でつなぎ合わせていたのです。ゼンマイをつなげる②の方法はいわば苦肉の策であり、2度目に切れてしまったらもう一度つなぐという事例は聞いたことがありませんでした。なぜなら、つなげる分ゼンマイの長さが短くなってトルクが弱くなってしまったり、ゼンマイがふくらんで修理がとても難しくなるからです。

 残る修理方法は、同等サイズのゼンマイを探して入れ替えることですが、この時計には鎖引き(チェーン&フュージ)機構というトルクを安定させる定力機構がついており、一般的なゼンマイに比べてゼンマイ幅がかなり広いため、同等のゼンマイを確保することは容易ではありません。マニア、コレクターさんならばこの悩みをわかっていただけることと思います…。

チェーン&フュージ機構 引用:Wikipedia

チェーン&フュージ機構
引用:Wikipedia

 夏から始まった修理大作戦!熟練の技術を持つ時計技師さんに最善を尽くしていただきましたが、やはり同等のゼンマイを見つけるまでは修理が難しいという結論になりました。現在は、蓄音機に使われている大型ゼンマイを加工してローリングボールクロックに合ったゼンマイを作ることができないか、時計技師さんに奔走していただいております。
 今回の修理をとおして、学芸員としての力不足を感じるとともに、動態展示を続けることの大変さを痛感しました。ローリングボールクロックは引き続き修理中ですが、当館では同じタイプのローリングボールクロック(イギリス製)を展示しています。ミステリアスでエンターテインメント性溢れるこの時計を見に、ぜひ時計博物館へご来館ください。