Vol.011 松本てまり (R3.6.28 文責:高木)
松本てまりは松本を代表する民芸品であり、マンホールやお菓子のデザインなど松本の街の彩りとして欠かせないものとなっています。しかし戦後全く廃れてしまい、作り手がいなくなってしまった時期がありました。松本てまりが今日のように復活したのは、細い糸をつないでいくような、ある物語があったからです。
現在、博物館に収蔵されているてまりで一番古いものは昭和初年に寄贈された岩崎せんさんが作ったてまりです。せんさんは幕末安政元年前後の生まれと予想され、せんさんが作ったてまりは江戸期のてまりをほぼ再現しているといわれています。色はあせていますが、とても丁寧にかがられた美しいてまりが11種類あり、それぞれに名前が付けられています。
この、博物館に展示されていた岩崎さんの作ったてまりをもとに、松本てまりを再生したのが上條八尾さんです。八尾さんは幼いころ母親に作ってもらったてまりが忘れられず、記憶をたどって、てまり作りをしていました。その美しいてまりを見初め、松本てまりの再生を依頼したのが、丸山太郎さんでした。丸山さんは松本民芸館を創設し、クラフトのまち松本の礎を築いた方です。丸山家のひな祭りには必ず古いてまりが飾られていたそうです。
八尾さんが作ったてまりは繊細で美しく、今でも色あせない斬新な配色です。せんさんが残し、八尾さんが再生した伝統柄9種は、現在、松本てまり保存会のみなさんが博物館オリジナルとして制作し続けています。その他にも多くの方々が松本てまりの普及に尽力してきました。多くの市民の努力によって再生された松本てまりですが、そのもとになったのが、博物館に保存・展示されていた岩崎せんさんのてまりだったわけです。松本てまりの歴史の糸をつなぐのに一役かったのが、博物館だったことを誇りに思います。