今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

 〔4月の短歌〕

空穂39

 

 茶にまさる物なしといふは我ならず

          声そろへ言ふわが舌わが喉

 ( ちゃにまさる ものなしというは われならず
           こえそろえいう わがしたわがのど )

                  歌集『木草と共に』所収

 

 昭和38年、空穂86歳の作品。「喫茶」と題された3首のなかの第1首です。
 空穂は、酒、コーヒー、紅茶は飲まずに、ふだんはもっぱらお茶を飲んでいました。
 この歌では、「お茶が最高だ」と言っているのは、「我」ではなくて「舌」や「喉」なのだというのです。あたかも舌や喉が自分から独立して存在しているかのような面白いとらえ方をしています。
・・・なるほど。 私たちが「これはおいしい!」って感じているときも、「舌」や「喉」はもちろんのこと、もしかしたら、「目」や「鼻」そして「耳」もそう言っているのかも知れませんね。
 他の2首もご紹介します。 

 風呂あがり茶を喫(の)みをれば湯ぼてりのややに冷めゆく暫くのよき

 良き茶ぞとこころ静かに味へば更に良くして尽くるを惜しむ

                                歌集『木草と共に』所収