今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

 〔1月の歌〕

 

空穂とけい子夫人 柱をば支へとしては妻ひとり

        夕べ摺るなり信濃の長芋

 (はしらをばささえとしてはつまひとり
       ゆうべするなりしなののながいも)

               歌集『清明の節』所収

 

 昭和42年(1967)、空穂晩年の作品です。
 故郷・信州から送られてきた長芋を、妻の銈子さんがとろろ汁にしています。すり鉢を支えてくれる人がいないので、家の柱を支えにして擂粉木(すりこぎ)を使っています。
 とろろ汁は空穂の大好物で、これから故郷の長芋を食べるのだという楽しさが伝わってきます。一方で、寒い冬の夕方の擂粉木の低い音は、どこか寂しくも感じられます。空穂の家では郷里の家の習慣を守って、元日はとろろ汁と決まっていたそうです。
 病床にあった空穂は、体力が落ちてきているため、医師や妻から、食べて栄養をとるように言われるのですが、実は本人にはそのことが苦労で、食べることが生きるうえでのたたかいでした。
 次の歌では、大好物のとろろ汁を夕食に食べ、いつになく食欲が出てお腹が満たされた喜びを詠っています。

  炬燵のうへ膳とはなして芋汁にわが腹のうちはらしめしかな    
                                          歌集『清明の節』所収