今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔11月の歌〕
目的を持たぬ読書のたのしさを
老いてまた知る若き日のごと
(もくてきをもたぬどくしょのたのしさを
おいてまたしるわかきひのごと)
歌集『木草と共に』所収
「読書」と題して詠んだ五首のはじめの一首です。
研究で必要であるというような目的があるのではなく、読んでみたいと心惹かれた本を読みながらの心境です。この楽しさは、好奇心が旺盛だった若い頃に、いろいろな本を片っ端から読んで新しい知識を得たときのよろこびにも似ているなぁと想い起こしているようです。
このときの空穂は、歴史の本を読んでいました。一連の歌の中に次の歌があります。
一冊の書(しょ)よりあらはれ遠き代の名ある人びと隣人となる
本から現れて私たちの隣人となってくれるのは歴史上の人物だけではありません。小説の登場人物が、いつしか心の友だちになり、時には相談相手になってくれることもありますね。
「読書の秋」…ことしは誰が私たちの隣人となってくれるのでしょう。
読本(とくほん)の栞にと我がしたりける銀杏の黄葉を娘の拾ふ 「郷愁」