今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔2月の短歌〕

二月の日天に夢見て夢の数落ししと見る白梅の花

(にがつのひ そらにゆめみて ゆめのかず おとししとみる しらうめのはな)

                                                                                                               歌集『まひる野』所収

 

 DSC03240+歌集『まひる野』より、「そよ風」と題してまとめられた42首の内の1つです。『まひる野』は空穂の第1歌集であり、空穂が短歌を始めた23歳頃から28歳までの歌がまとめられています。
 2月のまだ冷たい大気の中、空に伸びる枝から散っていく数多の花びら。その様子を白梅が抱いた夢のように捉え、清純であわれな様子を詠んでいます。当時空穂は東京都文京区にある湯島天神の近くに下宿しており、その境内の梅の花を見て詠まれた歌です。
 空穂は美しい落花を見て、それを夢と表しましたが、それは自身の心情と重なるところがあったのだと思われます。夢とは、空穂自身が抱いた数々の夢でもあるのです。若い空穂は多くの夢を抱き、それが破れてさびしい現実に帰ります。しかし、自身の胸中にある夢はたとえ現実のものとならなくても尊く、美しいと感じています。
 この歌について窪田章一郎氏は、『「天に夢みて夢の数」と「夢」という語を二つ用い、一首の中で重く働かせているのは、白梅の花と人間とを差別なく感じていることの現われで、青年の若い希望をこめるこの語によって人事と自然とが結ばれ、気分の豊かさを味わわせる歌である』(「窪田空穂の短歌」)と解説しています。