今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔11月の短歌〕
枝はなれ地のものとなるくれなゐに
染み極まりて照れる楓葉
(えだはなれ ちのものとなる くれないに
しみきわまりて てれるかえでば)
歌集『老槻の下』所収
1958年、空穂81歳のころに詠まれた歌で、「立冬の空」と題された4首の内の1首です。
立冬の日の地上の様子です。楓の紅葉が枝を離れ、地上に落ちても同じような美しさを見せている。晴天の日に照らされて、その紅は極みに達していると詠んでいます。落葉は生命の晩年を思わせ、その様子を見ている老齢になった空穂自身とどこか重なります。しかし哀愁を詠うのではなく、詩の調子は明るく活力があります。
新衛星生まれ出でてはめぐりやまぬ
地球の上に人皆せはし
(しんえいせい うまれいでては めぐりやまぬ
ちきゅうのうえに ひとみなせわし)
歌集『老槻の下』所収
同じく「立冬の空」からもう1首ご紹介します。「立冬の空」と題された4首の中で、空穂は空の様子、立冬を迎える自身の思い、上記で紹介した地上の様子をそれぞれ詠いますが、4首目では空を飛び越え、その上を巡る人工衛星に思いを馳せます。
1957年にソビエト連邦によって初めて人工衛星が打ち上げられてから一年、この「新衛星」は続いて打ち上げられたアメリカによるものと思われ、空穂の好奇心、感性の若さがうかがえます。
対となるように下句では地上の人間が詠われています。忙しなく存在する人間とその人間によって生み出された人工衛星が軌道上を巡り続けている、穏やかな秋空の下にいる自分自身と同時間上に起こっていることとは実感し難いが、紛れもない事実であるということを想う、独特の感慨があります。