今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔5月の短歌〕
初夏の夕べの空の水浅黄われ一人ゐて電燈つけぬ
(はつなつの ゆうべのそらの みずあさぎ われひとりいて でんとうつけぬ)
歌集『青朽葉』所収
「初夏の覚ゆる頃に」と題された3首の内の1つです。
梅雨入り前のある日の夕暮れ時が詠われています。水浅黄(水浅葱)とは、藍色を薄めた浅葱色にさらに水色を混ぜたような、ややくすんだ濃い水色のことを指し、徐々に日が長くなり空がまだ暮れ残っている様子が見て取れます。ひとり電燈を点けるという何気ない動作は、孤独な様子ですがどこか安らぎが感じられます。
空穂を象徴する作歌態度として「面白いもの」ではなく、「面白いと思ったこと」を詠うというものがあります。日々のこととして電燈を点けた際に、ふと安堵を感じた自分自身の姿を見つけ、そこに面白味を感じたのではないでしょうか。「われ一人ゐて」からは、水浅葱色に広がる世界の中でその様子を客観的に感じている様が見て取れます。
自身の心の動きを丹念に掬い取りながら、ありのままの日常生活を詠う。空穂の本領といった歌ではないでしょうか。空穂はこの歌を気に入っていたようで、「現代歌人朗読集成」では本人による朗読を聞くことができます。