松本城にやってくるカモたち
カモの仲間は、秋になると越冬のため日本にやってくる冬の水辺の風物詩だ。それは松本市のシンボルである松本城の濠(ほり)でも同様で、毎年何種類かのカモたちがやってくる。松本城の濠は近隣の観察スポットに比べ細長いの形をしているので、比較的近くでカモたちを観察できるのも魅力的だ。
常連のカモ
ある程度継続して観察できた5種を紹介する。
マガモ Anas platyrhynchos
日本に渡って来るカモの仲間では個体数が最も多いが、松本城で観察できる数は少ない。少数だが、国内で繁殖するものもおり、市内でも上高地などで観察しやすい。オスは光沢のある緑の頭に黄色いクチバシが特徴。家禽のアヒルはこのマガモを品種改良したもの。
カルガモ Anas zonorhyncha
松本城で最も個体数が多く、多い日には300羽近くになる。日本には周年生息し、普段は単独で生活しているが、冬になると群れるため目につきやすい(北海道や国外から渡ってくる個体もいる)。先端のみが黄色いクチバシで他のカモと見分けられるが、他種と異なり雌雄の判別は難しい。オスは尾羽の上下の羽毛の色が黒いこと、メスは羽毛の縁の白い部分が広いことで区別できるが、個体差があるので注意が必要。
コガモ Anas crecca
その名の通り「小さいカモ」で、他のカモに比べて小型(上の写真奥のカルガモと比べるとよくわかる)。その小さい体を活かして石垣の上で休憩する様子は、この付近では松本城ならではの光景で、多い日には70羽以上の群れになる。
オカヨシガモ Mareca strepera
日本に渡って来るカモの中ではあまり多くない種だが、松本城では2~30羽ほどが観察できる。ほかのカモが日中は休憩していることが多い中、水面に顔をつけてエサを探す姿がよく見られる。オスは全体的に灰色で他のカモに比べて地味。
ヨシガモ Mareca falcata
こちらもあまり多くない種。松本城では2019、20年と2年間は年明けから最大4羽が観察できた。翌シーズンは年末ごろまでいたが、その後は観察できていない。オスの頭は緑の光沢があり、横から見た形はナポレオンの帽子に例えられる。尾の方にあるアーチ状の羽も特徴。
珍しい顔ぶれ
継続的には観察できないが、松本城でみられたカモを紹介する。
オナガガモ Anas acuta
その名の通りオスの尾羽が長い。日本に渡ってくる数は多い種だが、松本城ではあまり見られない。ハクチョウの餌付けをしている場所で数多く見られる。
ヒドリガモ Mareca Penelope
漢字で書くと「緋鳥鴨」で、オスの赤茶色の頭に由来する。オナガガモと同様に日本に渡ってくる数は多い種だが、松本城ではあまり見られない。記録によると数年前までは何羽か飛来していたようだ。
ハシビロガモ Spatula clypeata
名前の由来である平らで幅広いクチバシでプランクトンを濾して食べる。オスは目(虹彩と呼ばれる部分)が黄色なのも特徴的。
トモエガモ Sibirionetta formosa
絶滅危惧Ⅱ類に指定されるほど数が少ない種。コガモほどの大きさで、頭の巴模様が特徴。上記写真は2019年12月20日撮影で、この日以外は見られなかった。
オシドリ Aix galericulata
「おしどり夫婦」の語源として有名。オスの鮮やかな色とイチョウ形の羽が特徴的。長野県には周年生息。
雑種
カモの仲間は互いにかなり近縁で、しばしば雑種が生まれる。特にマガモとカルガモは近縁で、遺伝子解析によると、ほぼ同種というくらい違いがないという研究結果もある。そのためかマガモとカルガモの雑種は比較的生まれやすいようで、松本城でも何度か観察した。
あなたと博物館 2021年1月号
上記の内容は松本市立博物館ニュース「あなたと博物館」No.232(2021.1)に掲載た内容から、紙面構成上載せられなかったものや新しく観察されたことを、適宜改訂して掲載しています。該当号はこちらからお読みいただけます。