法服のこと

  今年の4月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「寅に翼」。
  始まって2か月過ぎましたが、ご覧になっている方も多いかと思います。

  ドラマのオープニングでは、胸元に白い刺繍の入った黒い服と黒い帽子を身に着けた
 主人公が踊っています。
  ドラマ本編の中でも、弁護士となった主人公が同じ服装で登場するシーンがありました。 

  この黒い服は「法服」といい、明治23年(1890)に公布・施行された「裁判所法制法」
 という法律によって、判事(裁判官)や検事、弁護士が法廷内で身に着けることが定めら
 れていたものです。    

 「裁判所構成法」(明治23年2月10日公布)  
   第百十四条 判事検事及ビ裁判所書記ハ公開シタル法廷ニ於イテハ一定ノ制服ヲ著ス       
       2 前項ノ開廷ニ於イテ審問ニ参与スル弁護士モ亦一定ノ職服ヲ著スルコトヲ要ス  

 「判事検事裁判所書記及執達吏制服ノ件」(明治23年10月22日勅令260号)   
   判事、検事、裁判所書記及執達吏制服左ノ図表ノ通定ム    
   但明治二十三年十二月三十一日迄ハ「フロックコート」又ハ羽織袴ヲ以テ之ニ代用スルコト得

  勅令260号で示された制服(法服)の雛形はこのような形でした。  
明治23年10月22日勅令260号より 制服の雛形第一図・第二図(帽)
明治23年10月22日勅令260号より 制服の雛形第一図・第二図(帽)
 
  ここではスペースの都合上、第一図・第二図のみご紹介しますが、勅令260号では、第一図・
 第二図(帽)は大審院(現在の最高裁判所)、第三図・第四図(帽)は控訴院(現在の高等裁判所)、
 第五図・第六図(帽)は地方及び区裁判所(現在の地方裁判所と簡易裁判所)の判事、検事が
 それぞれ着用する制服の雛形として示されています。

明治23年10月22日勅令260号より 制服の雛形第七図・第八図(帽)

明治23年10月22日勅令260号より 制服の雛形第七図・第八図(帽)

  第七図・第八図(帽)は書記が着用する制服の雛形です。

  明治23年の時点では、判事、検事、書記の制服は詳細が定められていますが、弁護士については
 「弁護士も一定の職服を着用する」とだけが決められ、詳細は決まっていません。
  弁護士の職服(法服)が定められるのは、判事、検事、書記の制服が定められてから3年後、
 明治26年(1893)になってからです。

 (明治26年4月5日司法省令第4号)
  弁護士職服左ノ図表ノ通定ム
明治26年4月5日司法省令第4号より 弁護士職服の雛形図

明治26年4月5日司法省令第4号より 弁護士職服の雛形図

  
  雛形だけ見ると、判事・検事と弁護士の法服は違いがないように見えます。

  判事、検事、書記、弁護士とも、基本的な形と生地の色(黒)は共通していますが、勅令260号や
 司法省令第4号では、それぞれの法服の刺繡(飾)に用いられる糸の色が規定されていました。
  判事は深紫、検事は深緋、書記は深緑、弁護士は白、です。
  
  また、刺繍は色のほかにも規定があり、判事と検事の法服には唐草と桐花の模様が入りますが、
 弁護士は唐草のみとされました。
  書記は、上記の雛形第七図のように、刺繍の面積が判事・検事・弁護士に比べると狭く、首元
 のみ唐草が刺繍されます。

  さらに、判事、検事の法服は所属する裁判所によって刺繍される桐花の数が異なり、
 大審院が7つ、控訴院が5つ、地方及び区裁判所が3つとされていました。
 
  帽子は判事、検事、弁護士すべて共通で、黒地に雲紋(の刺繍)とされ、職種や裁判所の種類
 による違いはありません。(書記の帽子は、形は同じですが、黒地に雲紋無し)

  下の写真は当館にある重要文化財 旧松本区裁判所庁舎にある支部訟廷の様子です。
  支部訟廷は明治時代の法廷の様子を再現しています。
  画面左から、検事、判事、書記、弁護士の順で並んでいます。
  (現在の法廷とは並び方が異なります) 
 
法廷内
  それぞれをアップします。
検事

検事

判事

判事

弁護士

弁護士

   さらに刺繍部分をアップします。
検事

検事

判事

判事

弁護士

弁護士

  それぞれの法服の違いがお分かりいただけると思います。
 (判事の法服は、写真では暗くて見えにくくなってしまっていますが…)
    
  旧松本区裁判所庁舎内に設置されていたのは地方裁判所と区裁判所ですので、法廷内にいる判事・
 検事が着ている法服に刺繍されている桐花は3つ。
  桐花は背中側に1つ(これはどの裁判所でも共通)ありますので、前から撮影した上記の写真では
 2つだけ確認できます。 
  一番右の写真、弁護士の法服には桐花の刺繍がありません。
  当時、桐花は官吏の標章であったため、弁護士には用いられなかったのです。
   
  冒頭の「寅に翼」の主人公が着ていたのは、この弁護士の法服です。 
  
  戦後、昭和22年(1947)に裁判所構成法が廃止されたことに伴い、制定以来約50年間法廷で着用され
 ていた法服も廃止されます。
  その後、「裁判官の制服に関する規定」(昭和24年4月1日最高裁判所規則第5号)により、現在の
 ガウン風の法服が用いられることになりました。 
  現在の法廷では裁判官と書記官が法服を着用しています。 

  当館では、明治時代に制定された判事、検事、弁護士の法服(レプリカ)の着用体験をしていただけます。
  ぜひ、ご来館の際には着てみてください。
  (判事の法服にはお子さんのサイズもあります)