今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
鉦鳴らし信濃の国を行き行かば
ありしながらの母見るらむか
( かねならししなののくにをゆきゆかば
ありしながらのははみるらんか )
歌集『まひる野』所収
空穂の第一詩歌集『まひる野』(明治38年刊)に収められている、空穂の代表作のひとつです。
4人兄姉の末っ子であった空穂は母に可愛がられ、空穂も母を慕っていました。しかし、空穂が二十歳の時に亡くなってしまいます。亡き母を恋い慕い、同時に故郷を遠く思いやる歌です。のちに空穂は、この歌を詠んだ時の気持ちを次のように語っています。
「私がもし男の巡礼となり、歩くままにさやかに鳴る鈴を鳴らしつつ、往還路を、どこまでもあるきつづけたならば、あの信心ぶかい母である、必ず私にもまして感動して、生まれかわっての姿をふと私の前に現わして、この眼に見せてくれようか。(中略)哀感に捉われて心幼くなっている私は、真気(むき)になって思ったのである。」(『自歌自釈』)
松本市の城山公園には、この歌碑があり、空穂を偲ぶことができます。昭和29年に松本空穂会の人たちの手によって建立されました。5月2日に行われた除幕式には空穂も招かれ、家族と一緒に出席しています。
信濃なる諸友わが歌碑建てしとぞ五月空晴る行きては謝せむ 歌集『丘陵地』所収