空穂の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~

〔空穂の短歌〕

 

父母のその身分てる我なりと年に一日の今日は思はむ
(ちちははの そのみわかてる われなりと としにひとひの きょうはおもはむ)

                                    歌集『さざれ水』所収

 空穂書斎 『さざれ水』は空穂の第12歌集で、「誕辰に」と題した4首連作の第3首、6月8日満56歳を迎えた日の作です。
 親たちへの感謝が詠まれています。空穂は父42歳、母40歳の時に、生まれた末子で、兄1人、姉2人があり、兄は21歳でこの年結婚をし、家督を継いでいました。当時としては老いての子で、両親は思いがけない子を得たのです。
 親たちが「その身分てる我」であるのだと思うとき、この身は絶対的に大切なものとなり、尊く思われ、生きていることへの感謝の情が確かめられます。
 「年に一日の今日」である誕生日には、改めてわれみずからに確かめる思いをいだいたのでしょう。人生のどのような苦悩にも堪えて生きる力の根源となったもので、親たちは神というべき存在であったのです。
 この尊敬する父と、自分のすべてを受け入れてくれた母のもとに、望まれて生まれてきたのだという確信は、空穂の生涯を貫き、自分自身の命を愛で、自分の人生を大切に思う姿勢となっていきます。
 父から与えられた厳しい人生的教訓、母から受けた深い愛は、人間空穂を形成し、生涯を決定したのです。
 4月は希望あふれるスタートの月、新年度の始まりです。私たちも両親から、またその父母から連綿と大切な命を受け継いでいます。今、生きていることに感謝し、恩返しを、次の世代に恩送りをしていきましょう。