今月の短歌 ~窪田空穂の歌の魅力をご紹介します~
〔3月の短歌〕
泰山木つぼみ日を経て花となり思ひ遂ぐればたちまち衰ふ
『泰山木(タイサンボク)』と題された一首です。
空穂の家の敷地には狭い庭があり、泰山木が1本よく育っていて、初夏のころ大きい花をさかせて、空穂の眼を楽しませていました。
蕾がたくましく、冬の頃から時間をかけて育つのが特色ですが、花が咲いている時間はとても短く、純白の大きい花は開花すると直ぐ黄ばみ、脆くも落ちてしまいます。
「思い遂ぐれば」という言葉遣いは、その情景をとらえた空穂らしさを感じる事ができる4句だと思います。
初夏の泰山木の花を、冬からの時の流れの上に浮かべて詠み生かす爽やかさと、あわれさとを味わう一首です。
歌集「去年の雪」は昭和42年1月、空穂が亡くなる数ヵ月前に創刊されました。
老いの歌、植物の歌、死生観や宗教心が滲み出た歌が多く掲載されています。
歌人 故 篠弘 氏は「空穂は、目の当たりにする植物や動物を素材としながらも、そこからも対象のもつ
生命力に迫り、華やいだいのちを抽きだしていた。みずからが生きていくエネルギーとして惹起し、勁く
生きたいとする心境をうながしたところに、この空穂の存在理由があろう。」と述べています。
雑司ヶ谷(現 目白台)の旧窪田空穂邸の庭に生息していた木々の
メモが残されていましたのでご覧ください。
お庭や玄関には、たくさんの木々やお花で囲まれていたことが
わかります。
今月の短歌で紹介しました、泰山木も植えられていたことが記
されています。
空穂は晩年、上記の写真のように、家の縁側に腰を下ろし、四
季折々変わりゆく庭の景色を眺め、ゆったりとした時間を過ごし
たのではないでしょうか。